空想お散歩紀行 ダンジョンに潜る前に
「準備はどう?」
いつもの作業。出発前は必ずこうやって最後の確認をする。めんどくさく感じる時もあるが、これが生きて帰ってくる秘訣と言っても過言ではない。
「最後の確認よ。今回挑戦するダンジョンのタイプは?」
「中型規模。7割は水エリアで占められている。歩いて行けるエリアにも寒暖差の激しいエリアはあるが、今回はそういう所にはいかないから大丈夫」
ダンジョン攻略に必要なもの。それは事前情報と、目的の明確化。
「今回の目的は、いまだこちらのデータベースに載ってない、ダンジョン内の植物および動物のデータを最低10種」
「了解、分かってる」
目的を達成したらすぐに帰還する。あともう少しと欲をかいた結果痛い目にあったやつはごまんといる。
「ダンジョン内で一番気を付けなくてはいけない魔物は?」
「今回行くところには様々なやつがいるが、一番やっかいなのは最も数が多い二足歩行タイプの魔物」
ダンジョンの種類は様々だ。生物がまったくいないものもあるが、今回探索するのは比較的生物が多いほうの部類だ。基本的に我々とは体の構造も、習性も違うそれらを総じて「魔物」と呼んでいる。
そして今回のダンジョンで一番数が多い魔物が、二足歩行タイプのやつだ。実質こいつらがこのダンジョンを支配していると言っていい。こういうタイプはダブルフットと個別に名称を付けている。
「ダブルフット対策は?」
「こいつらは魔物の中では知能が高い。だからこそ頭で考えることに慣れているせいで野性的な本能は劣っている。やつらの姿に擬態できるスーツを着ていけば、見た目上はバレることはない」
「スーツのタイプは何を持って行くの?」
「J-305型だ。ダブルフットのオス。成体になったばかりくらいの若い個体のやつ。やつらは見た目的にはそんなに差異はない。せいぜい体の色違いがいるくらいだ」
ダンジョンでは基本隠密行動だ。遭遇する魔物を次から次へと倒して進むようなのは、子供向けの物語の中の話でしかない。隠れ、潜み、紛れ、逃げる。それがダンジョン探索の基本であり奥義である。
「食糧は?」
「7日分持っていく」
食糧はまさに命そのものだ。可能な限り、ダンジョン内で手に入るような物は食べない。
いくら大丈夫そうに見えても、何が入っているか分からない。魔物には大丈夫でも、我々には毒になるなんて普通にあることだ。
「今回のダンジョンで魔物以外で一番気を付けなくてはいけないことは?」
「・・・ダンジョン内の食べ物だ」
そう、ダンジョン内の物は基本食べない。それが鉄則だ。だが、それが今回行く場所の最も厄介なところだった。
このダンジョン、やたらと食べられそうな物の種類が豊富なのである。
色や匂いが実にこちらの食欲を刺激してくるのだ。
過去、ここに挑んだ冒険者たちが勇気を出してダンジョンにあった食べ物に手を付けたところ、実に美味いとの報告がいくつもある。
当然中には我々の体質と合わず、後に死んだ者も大勢いるが、今でも挑戦する者は後を絶たない。それほどこのダンジョンにある食べ物は豊富なのだ。
「・・・一応もう一度言っとくけど、今回の目的は植物と動物の調査だからね。食べ物の調査じゃないからね」
「わ、分かっているよ」
そう、目的を見失ってはならない。それこそ破滅への罠なのだから。
たとえこのダンジョンが冒険者の間で「食宝のダンジョン」とあだ名されていてもだ。
「オーケー。じゃ、確認終わり。行ってらっしゃい」
「了解。これより、銀河系惑星ダンジョン『地球』に潜る」
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