空想お散歩紀行 地球人殺戮ウイルス
宇宙には数えきれないほどの星があり、その中には文明を持った星も多数ある。
だが、地球の人々はまだ自分たち以外に生命が存在している星があることすら把握できていない。
だからと言って、地球外の民たちが全て地球に気を遣ってくれるわけではない。
中には地球文明より遥かに科学が発達した星々もあり、さらに好戦的な者たちも多くいる。
そのような者たちが今まで地球に来ていないのは、単に今のところ地球にそれほどの価値や脅威がないからだ。
宇宙の地理的に重要でない、資源に魅力がないなど、手に入れる程ではないというのが宇宙的な見方である。
しかし、そんな宇宙の片田舎であっても目をつける輩はいる。
「今度の目標はあの星か」
宇宙船の窓から青い星を見下ろしながら話すその声は実に嬉しそうだった。
「前の星から随分久しぶりだったからな。楽しみでしょうがない」
「この星はどうしてくれる?」
「それについて、上のやつらが今話してるよ」
彼らはこれまでにいくつもの星々を渡ってきた。
その理由はただ一つ。その星に住む生命の殺戮である。
その星を支配しようとか、そういうことは一切考えない。ただ殺したいから、それが楽しいから、それだけの理由でいくつもの星を滅ぼしてきた。
そして、今回彼らに目を付けられたのが地球である。
「今度はどんな殺し方になるのかな?」
「この前は一匹残らず焼き殺しただろ。その前は粉々に切り刻んでやったし、最近やってない方法がいいな」
彼らが標的を目の前にした時の話題はいつもこれ一色だ。
「おい!決まったらしいぞ」
彼らの仲間の一人が部屋に入ってきた。その顔はまさに新しいおもちゃを与えられた子供のようだった。
「今度のやり方は、ウイルスだってよ」
「病死かー。いいな、最近はすぐ殺す系のやつが続いてたから、久しぶりにじっくり死ぬ系のやつか」
「やったぜ、俺これ好きなんだよ。前のウイルスのやつはおもしろかったよな。体がグズグズに溶けていくやつ」
「俺は、斬ったり焼いたりの方がスカッとするから好きなんだけどなー」
それぞれが好き勝手に感想を述べているが、決定した以上それに異を唱える者はいなかった。
「でもウイルスってもいろいろあるよな?どんなやつ使うんだ?」
「それがさ。最近開発したばかりの新製品を使うらしい。何でも感染して発症すると全身の穴と言う穴から体液を全部ぶちまけて死ぬらしいぜ」
「へえ、そいつは見ものだな」
そこにいる全員がその場面を想像してにやけた顔を隠そうともしなかった。
「だけど、まだ開発したばかりのウイルスだから欠点もあってな。感染した個体が子を産んでも、そっちには遺伝しないそうだ」
「ふーん、まあいいんじゃないか。とりあえず感染したやつは死ぬんだろ?」
「確実にな」
「ああ、今から楽しみだ」
それから彼らの動きは早かった。これはいつものことである。楽しみを前に張り切らない者など宇宙中探したっていやしない。
そして、殺戮方法が決定してから地球時間で二日後、ウイルスを撒く舞台が地球に向かった。彼らの技術力を持ってすれば、地球レベルの文明に見つからないなど朝飯前だった。
そして彼らは地球が一周する前に世界中にウイルスを撒布し終えてしまった。
「おお、ご苦労さん。どうだった?」
「楽勝楽勝。やつらちっとも気付かねえから張り合いないぜまったく。ま、とりあえずこの星で一番栄えてた知的生命体全員に感染させてきた。ざっと80億ってとこか」
地球人全てにウイルスを感染させ、一仕事を終えた充実感が彼らの中に広がっていく。
だがもちろんお楽しみはこれからだ。
「さーて、後はやつらのショーの幕が開けるのを待つだけだが、あとどれくらいで始まりそうだ?」
「確かこれくらいだな」
実行部隊の一人が、今回の計画を書いた紙を隣の仲間に手渡した。
「なんだ、すぐじゃねえか。じゃどうだ?その前にひとっ風呂浴びてこねえか?」
「いいねえ。その間に酒も冷やしておこう」
彼らの宇宙船が地球圏から離れていく。
そして再び戻ってきた時、彼らの顔は期待から驚愕へと変貌した。
「・・・おい。どういうことだこれは?地球人共が誰一人死なねえじゃねえか」
「おかしい・・・確かに地球人全員にウイルスは感染させたはず」
「まさか、俺たちのウイルスが効かなかったのか?」
「そんな馬鹿な。理論上じゃ間違いなく死ぬはずだ」
「じゃあ、やつらを殺すはずのウイルスが逆にやつらに殺されたってことか?やべえよ地球人」
その後、彼らの上層部が話し合った結果、地球殺戮計画は破棄し、今後一切地球には関わらないことになった。
しかし、ウイルスが効かなかった理由をついに彼らは知ることができなかった。
開発者の博士は腕を組んで悩んだ。
「どうしてだろうか?あのウイルスは感染してから、たった150年の潜伏期間で発症するのに」
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