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空想お散歩紀行 伝説の花を咲かせましょう

その瞬間、会場は歓声で包まれた。
広大な庭。敷地内に自作の川まで流れる、豪邸の一角で、それは輝くようにそこにあった。
招待された客たちは、皆一様に同じ方向に目を向ける。
その視線の先にあるのは、一本の木。
まばゆいピンクと白が混ざった花を満開に咲かせているその木の名前は、桜。
かつてこの国では、一年のうちの決まった季節にこの桜が至るところに咲き乱れていたらしい。
だが現在、桜は伝説の中の存在となっている。
何百年も前に絶滅したからだ。
原因はいろいろあるのだが、少なくとも今この国で生きている人間で、桜を見たことがある者など存在しない・・・はずだった。
しかし、伝説の存在であるはずの桜は、同じく伝説によって甦った。
ある時、偶然発見されたそれは、見た目は単なる灰にしか見えなかった。
だが、その灰を木にかけると、たちまち木に桜の花が咲いた。
いまだに、この灰の正体は解明されていない。
採れる場所も限定されていないし、何からできているのかも分かっていない。
その灰を手に入れるだけでも、奇跡と呼べるほどの確率なのである。
現在、その灰は市場で金よりも遥かに高値で取引されている。
今回、大富豪が自分の庭の一本の木に桜を咲かせるだけで、相当の資産を使ったと噂されていた。
一体この灰は何なのか。疑問が尽きることはないが、今はただ、集まった人々は目の前の淡くも輝くように風に乗って舞う花に心を奪われていた。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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