空想お散歩紀行 散った想いは砂の中へ
ここはとても悲しい場所だ。
宇宙の中でもここほどの場所は滅多に無いかもしれない。
しかしそこにある悲しみというのは、どこか愛おしくもあるものだった。
宇宙の片隅にある一つの小さな惑星。人が特別な宇宙服が無くても活動できるほどの大気状態ではあるが、ここに広がるのは延々と続く砂漠が主で、太陽に似た恒星との位置関係で沈まない夕日が岩と砂だらけの大地を常に赤く染め上げている。
だからここに住もうと考える者はいない。ではここに人が訪れるのはなぜか。
今から1000年以上前、一つの恋愛小説が流行した。それは悲恋の物語だったが、その舞台がこの小さな砂の惑星だった。
それからというもの、ここは失恋のスポットとして有名になり、今やその物語は伝説にまで昇華している。
失恋をした者たちが、恋人に贈ったが返ってきた、もしく受け取ってすらもらえなかった指輪や宝石などの貴金属類をこの星に捨てに来るのだ。
その数多の金属や石たちは、涙と共に砂に吸われ、飲み込まれていく。そして長い年月を掛けて、この星の砂の一部になるのだ。
嘘か真か分からないが、人も住まない、自然環境も変わらないはずのこの星で、数百年前と比べて砂漠の範囲が広がっているとか。
もう一つ噂として、捨てられ、年月を掛け砂粒となった宝石たちは、流砂や風の影響でこの星のどこか一つの場所に集められ、そこでまた長い年月による自然の悪戯か、再び結晶化しているという。
それはまるで砂漠に咲く、一輪の花のようだとのことだ。
その花を見たことがある者も複数いるらしいのだが、皆それについて言葉で表すことはできなかったそうだ。
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