空想お散歩紀行 ずっとその場所で
ぷかぷかとどこにでも行けるやつらが羨ましかった。
気付いたらこの樹の下にいた私。
なぜ自分がここにいるのかは上手く思い出せない。何かこの樹と関係があるのは感じるのだが。
とにかく一つだけはっきりしていることは、私はこの場所から離れることができない、地縛霊なのだということだ。
ぷかぷかとどこにでも行ける浮遊霊のやつらを毎日のように見上げては、なぜ自分はあちら側ではないのかと思っていた。
霊が霊を羨むとは不思議な話かもしれないが、私はそうだった。
もう自分でも分からないくらい、長い間ここにいる。
私は縛られている。ここは不自由だ。ここから離れることができればきっと自由を感じられるに違いない、とそう思っていた。
だけど、最近あることに気付いた。
この樹から見える景色もそう悪くないことに。
何も変わらないと思っていたのは単に私が、そう思い込んでいただけなのだ。
季節によって移ろう草木の変化、空の色、この樹を訪れる鳥や虫たち。
自然だけではない。
ついこの間まで、やっと立って歩けるようになったと思っていた幼子が、今は杖を片手にゆっくりと歩く老人になっている。隣には仲睦まじく寄り添う伴侶がいた。
夏にこの樹に来る蝉やカブトムシを獲りに来ていた男の子は、今度は自分の息子を連れて来た。
ここで自らの想いを伝え、あえなく散った若者もいた。
私はここから動けない。自由はないかもしれない。でもここから見える景色もそんなに悪くない。
つまらないと思っていたのは世界の問題ではない。
つまらないはずだという目で見ていた私の中にこそ原因はあったのだ。
ここから見えるもの、聞こえるもの、動けない私は今、いい感じに自由を感じている。
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