空想お散歩紀行 そこに確かにあったもの
まだそこかしこから煙が上がっている。
人が住んでいた家や、いろいろな人が言葉を交わしていたであろう店、それらは今崩れて瓦礫となっている。
戦争とはやはり罪深いものだ。
歴史という分厚い本の中で見れば、それがきっかけで歴史の流れが大きく変わる転換点であり、結果として豊かな未来が作られることもある。
だがそれでもやはり、戦争は無いに越したことはない。
しかし、いくらそう願っても起こってしまうのが戦争というものでもある。
今、そんな瓦礫の山の間を一人の男が足元に気を付けながら歩いていた。
彼は武器を持った兵士でもなければ、物資を持った商人でもない。
彼はただの記録屋だった。
彼は突然瓦礫の一部に目をこらしたかと思うと、その瓦礫をどかし、中に入っていく。
まるで、犬が匂いで探し出すように、鳥が空から見つけ出すように、彼にしか分からない何かを感じ取り、彼は探していく。
彼が探しているのは、人が生きた証だ。
しばらくの後、瓦礫の下から出てきた彼が持っていたのは一冊の本のようなものだった。
付いていた誇りを払うと、それを開く。
そこには手書きの文字が何行も書き記されていた。
そこに書かれていたのは、おそらくこの瓦礫があった場所で過ぎていった日々のこと。
それは文字の形から見て女性が書いた日記だ。
代わり映えは無いが平和な日々。戦闘の足音が近づいていることに対する不安。自分の町が戦場になっても、それでも明日を生きることを信じること。
彼はそれを優しく自分の鞄の中へとしまった。
彼はこうやって、人が確かにここで生きていた記録を集めていく。
それが何を意味するのかは分からないが、彼は今日も戦火の残り火の中を歩いて、そして集めていく。
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