空想お散歩紀行 人生映画館
気が付くと、僕はここに立っていた。
何をしていたんだったか、いまいち思い出せない。
頭の中がぼんやりとしていて、ほんの数瞬前まで夢を見ていたような、そんな感じだった。
ふと後ろを見てみると、そこには一つの扉があった。
映画館にあるような、防音性の高い重厚な扉。
そうだ、思い出した。僕はこの扉の向こうの部屋で映画を見ていたんだ。ついさっきまで。
確か、部屋の中は2、30人ほどが座れるだけの小さな部屋で、正面にスクリーンと音響装置だけがあるシンプルな場所だった。
そこで僕は映画を見ていた。たった一人で。
いや、正確にはあれは映画ではない。
僕が見たのは、自分自身だ。
自分の人生を映画として見たのだ。
それも、これまで歩んできた過去という名のストーリーではない。
これから歩む未来の話だ。
自分がこれからどのような道を歩き、どのような体験をして、どのように死ぬのか。
それを全て映画として観たのだ。
料金は5万円。条件は映画が終わり、この部屋を出た時に記憶が消えることを了承すること。
確かにその条件を飲んで、僕は自分のこれからのことを全て観た。
覚えているのは映画を観たという事実だけで、内容は少しも覚えていない。
喜びも悲しみも無い。何も覚えていないが、何か得たいの知れないものが僕の中に残っていた。
未来のことは何も分からない。その状態は何も変わっていないはずなのに。
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