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空想お散歩紀行 マジックプレート

まいったな。
心の中でさっきから同じ言葉が繰り返される。
「やっぱだめそう?」
ファルがさっきから声を掛けてきてくれるがそこに心配しているような色はない。
所詮彼女は剣士だ。事の重大さが分かっていない。
「うーん、だめね。これは、一度教会に行くしかなさそう」
一番近い街は、ドゥコーモか。立ち寄る予定は無かったんだけど仕方ない。
「魔法って便利なようでいざという時不便だよな」
「仕方ないでしょ。魔法だって万能ってわけじゃないんだから」
確かに魔法は万能ではない。だけど魔法使いの称号を得るためにどれだけの苦労をするか一般人は分かっていない。私たち魔法使いが最初から楽してるかのように思われるのは心外だった。
「なあ、前から気になってたんだけど、魔法って『それ』が無きゃ使えないの?」
ファルが指差す先にあるのは、私の手の中の板。
「当たり前でしょ。これを使うことができるのが魔法使いなんだから」
まったく、これがどれだけすごい物か分からないなんて。
私が今手にしている長方形の板こそ、魔法使いの証。古代世界の魔法技術の塊。
「ねえ、私にも触らせてよ」
「だめに決まってるでしょ!それに、あなたがこれ持ったところで起動はできないわよ」
古代世界の魔術によって、これには強力な封印が施されている。私の指紋認証と板の表面に魔法陣を指で描くという2段階の封印を解くことで初めて使うことができるのだ。
「別にいいじゃん、危ない物でもないし。火が出たり、ドラゴンが出たりするわけじゃないんだから」
「あんたねえ、魔法を何だと思ってるのよ」
いまだに魔法というものをおとぎ話の中に出てくるようなものと同じだと思っている人は多い。
火や水を出すとか。空を飛ぶとか。
言っておくがああいうのはあくまでお話の中の魔法だ。現実とは違う。
現実の魔法とは、この板、マジックプレートによる古代の知恵にアクセスすることを言う。
このマジックプレートはある意味、古代と繋がっていると言える。この手のひらの中に収まるくらいの長方形の板の中には、図書館の本何万冊以上の情報が入っているのだ。
魔法使いとは、その膨大な古代の知恵に適切に検索し、取り出し利用する者たちのことを言う。
古代文明には、このマジックプレートが数えきれないほどあったそうだが、今の時代には遺跡から発掘された限られた数しかない。
だから魔法使いにはマジックプレートを守るという義務も課せられている。
当たり前と言えば当たり前である。ここに詰め込まれている情報はどんな宝石よりも価値がある。それに加えてちょっとした光や音を発したり、プレート上で絵が動いたりと何種類もの魔法を発現することができる。
だが、先程も言ったように魔法とは万能ではない。マジックプレートを動かすには魔力が必要であり、それが切れてしまうと動かなくなってしまう。
魔力を回復させるには、各地域にある教会に行くしかない。これに魔力を満たす技術は教会の最重要機密だからだ。
「とにかく、教会に行かないことには、ここから先旅を続けられないの」
「分かったよ。めんどいけどしょうがない」
私たちは一番近くの町に向かって歩き出した。
かつて、世界中に溢れる程あったマジックプレート。ということは魔力の再充填もとんでもない頻度だったわけで。
となると、教会だけでそれが賄えたかと言うと実はかなり疑問だ。
たぶん古代人は、自分のプレートを自分で魔力を込めなおす術を持っていたんだろう。
「それができればかなり便利なんだけどなあ」
叶うはずもない望みを愚痴りながら歩く。今は動かない真っ暗な表面だけを見せる魔法の板を眺めながら。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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