空想お散歩紀行 天職への転職
窓の無い部屋。壁はコンクリート打ちでひんやりとした空気が常に感じられる。
部屋の中にある物は、机や本棚など、仕事に必要なものが最小限あるだけで、生活感は皆無だ。
これが地下にある私の仕事場である。ここで誰にも邪魔されず一人で仕事をするのが何よりも落ち着く時間なのだ。
私は最近新しい道を歩き始めた。
今にして思えば、前の仕事はそれなりにおもしろかったが、ストレスの多いものだった。
私はいわゆるデザイナーである。
ただ、一般的なデザイナーではない。
私がデザインしてきたのは、兵器だからだ。
何も、罪悪感からその仕事を辞めたわけではない。私にとっては優れたデザインを生むことが全てであり、その結果として人が死ぬことがあるのは仕方ないことだと思っている。
私が兵器デザインの仕事を辞めたのは、単にクライアントたちとの方向性の違いである。
やつらは、何かと使いやすさとか効率の良さとか、そんなことばかりを求めてくる。
だが、兵器とはそればかりではないことを私は知っている。いや、そちらの方が私にとって大事なのだ。
それは、何よりもかっこよさだ。
それを見ただけで、血肉が踊るような、自分がその兵器を持つことを想像しワクワクするような、それが大切なのだが、頭の固いやつらは何も分かっていない。
だから私は仕事を辞め、今では武器のデザイナーをやっている。
武器と言っても、それは戦争で使うものではない。おもちゃだ。
おもちゃはいい。そこには現実のあれこれを持ち込む必要がない。ただひたすら見た目を重視することできる。いかに誰かをワクワク
させることこそが求められる。
だから今の私は長い道の果てについに天職に辿り着いたと言ってもいいのかもしれない。
人を殺める兵器から、おもちゃの武器への転向。
決して私は平和主義になったわけではない。ただ好きなデザインがこちら側だったというだけだ。
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