いつ、何に、どう注目させるか
英語科教育法IIIの模擬授業第2回目。
指導内容は「リーディングのプロセス」
単純にPre-Reading、Reading、Post-Readingの3段階に分けて考えた時、今回はPre-ReadingからReadingまでの2段階に焦点を当てる。
(尚、この次はReadingからPost-Readingまでの流れ)
学生のスケジュールや興味のあるテーマを選んだ都合上、第2回目の模擬授業で早速ALT役を迎えてのTTを実施することとなった。まだ授業の型も整えてあげられていない段階からTTをやってもらうのは少々心苦しくもあったが、準備段階で二人で協力して色々と考えてくれたようでそういうプロセスをきちんと踏んでくれたならよかった。
一緒に教員を目指す人数の少ないチームなので、一緒に授業について色々語る経験を共有すること自体が貴重だ。
今日のログでは生徒役としての大きな課題と、先生役を務めた学生が悩んでいた「生徒にいつ、何に、どう注目させるか」問題を振り返っていきたい。
課題の残る生徒役
模擬授業の後に毎回行なっている対話型模擬授業検討会では、教師役と生徒役がそれぞれの授業中の行動(Do)とその時々のThink、Feel、Wantを共有することで授業のリフレクションを深めていく。
もちろん教師役の学生は一生懸命準備してきた授業を教師役として全うする分、教師役のWantやThinkを引き出すのはそこまで難しくない。
一方で、生徒役については本当にその学齢の生徒に本気でなり切ろうとしない限り、なかなか大学生としての意見から切り離した学習者の思いや行動は見えてこない。
さらに、生徒役が実際の生徒らしく考え、振る舞うことによって、教師役は授業中に色々な思考を巡らせることになる。教師役の実践の中でのリフレクションそして実践の後のリフレクションを深める役割も生徒役は担っているのだ。
自分が学習者のことを理解するためだけでなく、仲間の成長のためにも生徒役としての成長が強く求められる。
中学2年生ならどう振る舞うか
"Underline texts including 'because'.というALTからの指示。生徒役は一斉に教科書の本文の中からbecauseという単語を探し始めるのだが、3人の生徒役の手元はそれぞれ微妙に違っている。
1人はbecauseという単語だけに線を引き、1人はbecauseが含まれる文の文頭から文末まで線を引き、もう1人はbecause以下の部分だけ線を引いた。
その後先生の指示でお互いの教科書を見せ合ったところで「あ、単語だけじゃないんだ」と気づいて文全体に線を引き足した。
ここは、もちろん先生側からも色々アクション出来ることはあるけれども、生徒役の振る舞いによって先生役にアクションの必要性を突きつけ、検討会でフォーカスを当てられるようなポイントにすることも出来たはずだ。
例えば、みんながみんなALTからの英語の指示を一回できっちり聞き取って手元を動かしていたが、ALTの指示を一回で理解出来ず周りを見渡したり、「わかんないや〜」と活動を投げ出したりする生徒はいないだろうか。
先生から「ペアでどこに線引いたか見せ合ってみて」と指示された際、1人の生徒には隣の席に誰もおらず自然と3人で体を向け合っていたが、(もちろんそういう動きが自然に出来るようになるような授業作り・学級作りも可能だが)先生役を揺さぶる生徒役の役割としては少々物足りない。
検討会でも「3人でやればいいのかなって察して動いた」というコメントが出たが、その「察し」は中学生としてのものか、それとも。
中学2年生ならどう感じるか・どうしたいか
ALTのSophia先生は今日初めて生徒と会うという設定だった。そして授業の冒頭に(自己紹介がてら)母国であるアメリカの食文化について簡単に紹介してくれる。これがこの後の時間で読んでいく教科書の英文の内容と関連しており、先生役の二人は生徒の興味を惹き、内容スキーマを立ち上がらせることを狙ってこの導入を組んだ。
そのALTの先生の話の前後にJTE(Japanese Teacher of English: 主で教える日本人の英語の先生)から"because"という語に注目させるような指導が入った。
「今からALTのSophia先生にアメリカの食文化について話してもらうんだけど、その中にbecauseっていう単語が出てきます。これは『なぜなら〜だから』という意味の単語です。この単語に注意して、聞いてみてください」
という指示があり、そのALTの先生が話す。
"I like hamburgers because it is very delicious. I don't like California rolls because I can't eat seaweed."
実際にはもっと生徒の反応を促すようなインタラクティブなトークだったが、大意はこんなところ。
そしてまたJTEが主導権を握り直し、becauseという語に注目してSophia先生がハンバーガーが好きでカリフォルニアロールが嫌いという内容を振り返る。生徒たちはbecauseの訳し方を習い、Sophia先生の話した文の日本語訳を求められる。
この一連の流れを受けて、私からすると生徒側からは多様なThink, Feel, Wantが出てきてほしいし、なんならそれを表現してDoとして授業の中に明示してほしい。
(そうしないタイプの生徒も多くいることは分かった上で、生徒役が3人しかいないとなると、出来る限り先生役に即興的な指導・修正を求める手がかりとしてアクションを起こしてもらいたいという気持ちがやや強くなる)
もっと中学生としての思考や感情を洗練させれば、「becauseとかよりもっとSophia先生のこと知りたい」とか「アメリカのハンバーガーの話もっと聞きたい」とか「カリフォルニアロールは寿司じゃないからな、あんなの邪道だよ」とか「Sophia先生、カリフォルニアロールより日本の握り寿司が好きって言ってたけど、海苔がダメだから軍艦食べれなくて握り寿司限定なんだなぁ」とか色々思うのではないだろうか。
他にも隣の席の生徒に「アメリカ人、発音やべー」って言ってみたり、「カリフォルニアロールって何?」ってコソコソ聞いてみたり。
役者ではないから入念な役作りをしてほしいわけでも、演技に高い技術や一貫性を求めるわけでもないが、先生役を揺さぶり、教室というコミュニティに影響を及ぼすよう、大学生としての自己を削ぎ落とすことにまだまだチャレンジしていかなければいけない。
(次回は私も生徒役をやろうかな、と迷い中。出しゃばりすぎない方がいいかな。)
ALTの話をどう聞かせるべきだったのか
JTE役を務めた学生はALTの話の前にbecauseという単語に注目して聞いてほしいという旨を伝えた判断の是非について授業後に振り返ってくれた。
今日の検討会のホワイトボードを見ていく。
左下、TeacherのWantのところには「becauseの文の構造を理解してほしい」とありながらも一方で「外国の食文化を知ってほしい」「becauseだけに注目してほしいわけではない」(Don't want)という複雑な思いが表れているが、その(Don't) Wantとは裏腹にある生徒は(ALTの先生の話を聞くというよりは)becauseっていう音が聞こえるかどうかに集中していた(StudentのDo「becauseという音をキャッチ」)。
この先生の思いと生徒の実態とのギャップを受け、「becauseの話するべきじゃなかったかな。でも、それも教えたいし」と彼女の中で葛藤が生まれた。
そしてALTの側のやりづらさをJTEとして意識することでこの葛藤はさらに強まる。ALTは(自分自身の自己紹介も兼ねて)アメリカの食べ物について紹介したいというタイミングだけれども、JTEは生徒たちにbecauseという単語に注目するように言っている。
この状況への何とも言えないモヤモヤ感は、自分が日本語のALTとして非日本語圏で教え始める際に、自己紹介の内容ではなくその中で使われる「なぜなら」という言葉に強く注意が向けられるという場面を想像すると分かりやすいだろう。
もちろんJTEとの事前協議によってお互いに納得済みの流れだとしても、生徒の側の「ALTの先生どんな人だろう」というThinkを(Sophiaは初対面なのに)広げずに終わってしまうことになる。仮に初対面という設定じゃないとしても、「アメリカのハンバーガーって日本のハンバーガーとどう違うんだろう」というThinkもあるかもしれないし、「アメリカのことについて質問したい(けど英語分からないから出来ない)」というWantもあるかもしれない。
そう考えるとbecauseに焦点化させるための指導は過剰だったのかもしれない。
しかし一方で、ただなんとなく聞かせて先生が日本語で補足して終わりにするのではなく、生徒たちにSophiaの発するメッセージを英語でしっかり理解させたいという狙いのもとであれば、むしろ上手く働くかもしれない。
ここから先は私が意見を書くよりもまず先生役の学生の省察レポートを待ちたいところなので、あえてここで止めておく。
用意したアイテムはどれもそれ自体悪くなかった。それでもそれをいつ、どう使うか。あるいは、そもそも使うか使わないか。そこの判断を確固たるものにするには何が必要か。
難しいけれど考えがいのあるテーマを突きつけられた模擬授業だった。
お疲れ様でした!!!
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