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【サピエンス全史(第2部 農業革命)】差別や虚構で形成されてきたサピエンスのコミュニティ
さて、長編に及ぶサピエンス全史も折り返し地点に来た。
この時点で既に膨大な文章量と情報量に圧倒されているけど、まだまだこの後もこのサスペンスフルでロマンティックな世界が続くのかと思うとワクワクする。
というわけで、今回は第2部の農業革命についてのお話。
〜農業はサピエンスの生物としての自由を奪った?〜
農業は、サピエンスが繁栄するための1つのターニングポイントである。
しかし、それはサピエンスにとって進化なのか、という事は著者も疑問視している。
というのも、集団で大陸間を移動し次々と支配してきたサピエンスが、農業を始めた事により一つの場所に定住しなければならなくなってしまったのだ。
そもそも、サピエンスが移動を繰り返していたのは、その場所に敵が現れたり資源が足りなくなった場合、更なる条件の良い場所に移動すれば良かった。
しかし、農業は土地の気候や大地の条件に左右されるため、一度その場所で農業を始めるとその土地に定住し続けなければならない。
嵐や他の集団(敵)に会えば、逃げれば良かったものを、気候や敵から作物を守るために、その場に留まり危険を犯し戦わなければならなかった。
著者はこれを、サピエンスが小麦を育てているのではなく、小麦がサピエンスを家畜化した、と表現した。
小麦は地球上で最も広く生息域を広げた植物であり、その侵攻にはサピエンスが一役買っている、というのだ。
僕の中では、この部において個人的に1番気に入っている表現である。
危険を犯し猟をしながら移動を続けて生きていくよりも、作物を一ヶ所で育てて生活する方が効率的であり豊かな生活を送れると思い、農業を起こしたのに、逆に不便で危険な集団生活になってしまった。そこには、小麦の思惑があったのだ。
もちろんこれは著者の意見であり、これが真実とは思えない。
しかしながら、読み進めていくたびに、著者のシニカルなユーモアがこの本の見どころの一つでもあることに気付いた。
〜集団を結束させるための階層や差別〜
農業の始まりの話はさておき、農業がきっかけでサピエンスは集団生活を開始した。
そして、農業をきっかけに始まった1つの集団が村となり、町となり、街となり、国となっていく。
第1部でも述べられていたように、集団はある一定数以上になるとまとまりがなくなるのだが、何千というサピエンスがどのようにして村や町を形成していったのか?そのカギはやはり"虚構"にあったのだった。
多くのサピエンスが信じる神話出来上がり、想像上の秩序を作った。それにより強力なネットワークが出来上がった。
サピエンスの社会は拡大していったが、想像上の秩序により、個人を無くし、欲望を形作り、共同的主観からなる規律やイデオロギーを作り出した。
そして、想像上の秩序は想像上のヒエラルキーを作り出し、人類史に残る"差別"を作り出してしまった。
人々を結びつけた強いネットワークは、中立的でも公平でもなかった。
自由人と奴隷、白人と黒人、富裕層と貧困層…。
これらの区別は虚構が基となっていて、なんら事実的な根拠はない。
初めて会ったもの同士が結びつくための虚構は、多くの差別的な要素を含んでいる。
簡単に言えば、初めて会った白人同士が黒人の悪口ですぐに意気投合する、という状態が作り上げられており、それこそが多くの人々が繋がり合う"社会"を作り出した起源であるのだ。
現代でも、かつてに比べてはもちろん減ってはきているものの、差別というものは蔓延っている。
差別の起源はただの作り話から始まっている、というこの起源を人々が今一度考え直す事で、差別というものに対する人々の意識が変わるのではないだろうか。
〜「なぜ、男性優位の社会になったのか?」という謎〜
さて、著者がひとつ大きな謎にしている事が、男女の差別だ。
歴史上、神話や法典の中で「男性優位」であった事が多かったのは、自明のことなのだが、ヨーロッパ、インド、中国など、古い歴史のある国々で、なぜ、世界中遠く離れたどこの大陸においても、「男性優位」になったのか?
筆者は、様々な憶測を立てているが、結論は、「わからない」なのである。
実際のところ、一般的に筋力は男性の方があるかもしれないが、それも個体差がある。
その他の能力においても、男性より女性の方が劣っていること、というのは科学的にも歴史的にも事実は無い。
「男性優位」の歴史の謎は、サピエンス全史前半の大きな謎である。
農業革命のラストは非常に読み応えがあった。
農業革命は、その技術ではなく、サピエンスが定住を始めた事によるコミュニティの形成に大きな影響を与えた。
そこには、やはり認知革命によりサピエンスにもたらされた"虚構"の力が大きく寄与している。
という、第2部「農業革命」。
続けて第3部を読みたいのだけど、妻がなかなか下巻を読み終わらないので、しばしここでインターバルになりそうだ(笑)