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【殺人者たちの「罪」と「罰」】殺人に関する複雑で不可解な事実

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆

〜「殺人」とは何か〜

「殺人」というものは、身近に起こると恐ろしいものだが、どこか遠いところで起きるとそれは人々の興味の対象となる。頻繁に小説や映画の題材になり、ドラマティクなエンタメとしての面も持ち合わせている。

では、そもそも「殺人」とはいったい何なのか?そして、それを裁く法はどのように作られていったのか?
これを正確に答えられる人はおそらくいないだろう。というのも、メディアやエンタメで知ったような殺人は現実の殺人とは違う。
現実の殺人は陰惨で不可解なのだ。

本書は、フィクションの世界で知っている気になっている「殺人」について、現実に起きた殺人の不可解さとそれを裁くための法と社会意識の変遷を辿る一冊である。語られる内容は主にイギリスの法制度とその成り立ちであるが、その歴史を学ぶことは日本の殺人に対する法を考察する上でもきっと役に立つだろう。


〜犯意のグラデーション〜

さて、本書の舞台となるイギリスの法律では、人間を殺害する行為全般を「殺人」と呼び、計画的犯意のある殺人を「謀殺」、計画的犯意のない殺人を「故殺」というカテゴリーに分ける(日本でも旧刑法ではこのふたつに分類されていたが、現行法では故意による殺人は「殺人」とされ、過失により人を死に至らしめた場合は「過失致死罪」となる)。
要するに「殺すつもりで殺した」のか「殺す意志がなく殺した」のか、という違いである。
しかし、この二つを現実の殺人において明確に区別するのは難しい。「謀殺」と「故殺」の間には殺人ごとに様々な理由や事情が存在しており、「謀殺と故殺の中間」とも言える状況がグラデーションのように存在しているのである。
心神喪失した者が殺人を犯した場合、難破船の上で自らの命を守るために殺人を犯した場合、医師の杜撰な治療により人を殺めてしまった場合、企業の怠慢により大勢の命が奪われてしまった場合、などなど、本書では「謀殺」「故殺」のカテゴリーでは明確に分けきれない事実を次々と俎上に載せ、それらの事件が現在のイギリスの法にどのような影響を与えたのかを解説している。

巷を賑わす事件が起こるたびに変化していく社会意識や、法の番人たちの葛藤や苦悩は非常に読み応えがある。そして、まだ結論の出ていない議論もまだまだ残っている。
「正しい裁き」のために、社会は常に考え続ける必要があることを思い知らされる。


〜法は考え続け変化していく必要がある〜

さて、殺人に限らず、様々な犯罪には複雑で不可解な理由や事情が絡んでいる。
「人を殺した奴なんて死刑にしてしまえば良い」なんていう、極端で浅はかな意見はSNSなんかで充分である。

人間とはそもそも複雑なもので、罪を犯す人間はさらに複雑なのである。
おそらく、それを解決できる立法の正解などはない。社会は常に考え続け、その時代その社会に合わせた法を構築していくことが求められるのではないかと思う。
変化する社会の中で法も変わっていく必要がある。その変化には社会の一員である一人一人の人間が考え続けなければいけないのだと思う。
本書は、法を考察する上で非常に示唆に富む一冊である。

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