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【21世紀の資本】資本主義が正常であると格差は拡大する

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜まずは読み終えたことが嬉しい〜

無事に読み終えられた!!

とりあえず読み終えた最初の感想はそれである(笑)

本書は半年で50万部を超えた今世紀最大のベストセラー経済書と言われており、おそらく本のタイトルだけでも知っている人は多いだろう。
ところが、700ページにもなる大書で、噂によると、購入した人の9割が最後まで読み切れていないそうだ。
本書の主題や結論は割とシンプルな話なのだが、なぜここまでの大書になったかという理由は、その圧倒的なデータ量にある。

後述する結論を出すために、著者のトマ・ピケティは世界中の過去3世紀に渡るデータを包括的に分析している
しかも、これだけ膨大なデータ分析をしているにも関わらず「本書で示す結論や提案は、不完全なものである」という、謙虚すぎる(!?)姿勢である。

そんな前情報の中、手に取るのをずっと躊躇っていたのだが、経済関係の本や記事を読むとしょっちゅうこの「21世紀の資本」やピケティの名を目にしていた。本書を読まなければ、今の経済のトレンドを理解する基礎が出来上がらない、と感じ、発売から10年経とうとしている今年こそは読まなければ!と一念発起したわけである。

とりあえず、読了出来た自分、おめでとう(笑)


〜「r > g」が普通の世界〜

さて、本書は一言でいうと「格差」に関する本である。
本書の中心となるのが、$${r>g}$$という不等式。
$${r}$$は資本収益率を指す。これは、資本が生み出す収益の割合を指す。不動産から得られる賃貸料や株が生み出す配当金やキャピタルゲインを想像するとわかりやすいだろう。
$${g}$$は産出と所得の成長率を指す。これは、労働で得られる所得と考えるとわかりやすい。国の経済の成長に伴い成長率するもので、GDPの成長率と考えるとわかりやすいかもしれない。

さて、理論的には$${r>g}$$を満たす時、世界の格差は広がっていくことになる。
これはすなわち、上記の不等式を満たす時には、収益を生み出す資本(不動産や株など)を多く持つ人は、働くことなく資本を増やすことができ、労働による所得のみで生活する人と比べ、富を増やす速度が早い。
だいたい、株の配当利回りだけで考えても、高配当な株だけ選べば、資本収益率は3〜4%ぐらいになる。一方、現在の世界ではGDPの成長率は概ね1〜2%ぐらいが普通だろう。この状態が続く限り、一部の多くの資本を持つ人が富を増やし続け、格差は広がっていくことは想像に難くない。

そして、本書ではこの$${r>g}$$を満たすのは、普通の状態である、ということを示している。
過去3世紀のデータから、$${r>g}$$を満たさなかったのは、2回の世界大戦の時のみであった。大戦前は、貧富の差はかなり大きかったのだが、2回の大戦で一部の富裕層に集中していた富の割合は大きく減少した。しかし、大戦後には再び一部の富裕層に富が集中し出して、また格差が増え始めている。
そもそも、GDPの成長率は3世紀のデータを見ても、概ね1〜2%が普通であり(これでも長期的に見ればかなりの成長率となる。例えば、毎年1%成長していれば、50年後には1.5倍の成長をしていることになるし、毎年2%の成長なら40年後には2倍の成長をしていることになる)、GDP成長率3〜4%のいうのは、富裕国に追いつこうとする新興国の成長率に等しい。成熟期に入った富裕国においては、GDPの成長率はせいぜい1〜1.5%程度で通常の推移である。それ以上の成長率は特別な状況なのである。
対して、資本収益率は、本書では少なく見積もっても平均して5%以上はある。GDP成長率が5%を超えることなど滅多にない。
すなわち、本書は、資本主義経済が"正常"に機能している場合には、多くの資本をもつ一部の富裕層が資本市場の複利の力を使って富を増やし、多くの貧者を置いてけぼりにする。世界大戦などの国際的なショックがない限り、平時の資本主義社会では富める者がますます富む、ということを明らかにしたわけである。
そして、21世紀以降、世界的な成長率が急速に伸びることは考えにくく、今後成長は鈍化していき、格差はますます広がっていく、と予測できる。

経済学の本にたまに出てくる「世の中が成熟すると資本主義は平等になる」というクズネッツの楽観的な定説をひっくり返し、資本主義の現実をまざまざと突きつけたわけである。


〜社会正義としての累進資本課税〜

さて、本書において、労働による所得よりも資本収益の方が資本主義のシステムにおいては有利だということが示された訳だが、本書は「労働による所得のみでなく、株や不動産による資本収益を得るようにシフトする」ことを奨励しているわけではないことに注意
実はネット上の「21世紀の資本」の要約や書評を見ていると、$${r>g}$$を根拠に、株や不動産による資本収益を推奨するような記事が散見される(もしかしたら、日本における数年前からの投資ブームも本書の影響を強く受けているのではないか?)。

そんなことを奨励してしまえば、さらに一部の個人に富が集中し、持たざる貧者との格差は開く一方だ。違うのである。
本書の目的は、資本の集中による格差問題を示すこと、そして、社会正義としてその格差を無くすための提案である。

ピケティが示したこの問題の解決策とは、「国際的な累進資本課税」である。
要は、資本を多くもつ者に対して高い税率で課税し、格差を生み出す莫大な資本に直接制約をかけるということだ。
所得に対する累進課税はどこの国でもあるが、株などの金融資産に対する課税を導入している国はそこまで多くない。
というのも、資本に対する課税というのは非常に難しく、一国の政府が個人の資産を正確に把握することはかなり困難である。富裕層は、資産をいくらでも海外に移すことが可能だからだ。
ここで「国際的な」というのがひとつのポイントとなる。当然、どこかの国が累進資本課税を導入したとしても、富裕層が資本を別の国に移動させてしまえば、何の意味もない。そこで、世界中で協調し、どこの国に資本を移動させても各国で個人の資本状況を把握できるようにして課税するのである。

もちろん、ピケティ本人も認めている通り、これはかなり不可能に近い構想だ。大規模な国際協力が必要になるし、各国の銀行のデータを連携して繋げられるようにする仕組みも必要だ。しかし、資本市場の自然に任せたり、インフレに期待して格差を小さくしようとするよりも、簡単で実現可能である、と述べている。この提案がそのまま通らなかったとしても、熟議が必要となるだろう。

というわけで、世界の格差の正体を明かした画期的な一冊。かなり疲れたが、読む価値は大いにある一冊であった。

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