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【パーマー・エルドリッチの3つの聖痕】意外と読みやすかったドラッグハードSF
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆
〜ドラッグ×SF〜
映画「ブレード・ランナー」の原作である「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」(未読)の作者として有名なフィリップ・K・ディックの代表作の一つ。
ディック作品は初めて読んだのだが、数あるディック作品の中から、なぜ最初にこの本を選んだかというと、LSD小説の元祖、なんて言われる通り「ドラッグ」を題材としたものだったからだ。
映画でもドラッグの様なブラックなものを題材にした作品がすきで、もともとSFも好きである。そんな「ドラッグ×SF」の物語に強く惹かれたわけである。
〜意外と読みやすいハードSF〜
さて、ディック作品は興味はあったけど、今までなんとなく手を出していなかった。
というのも、大物SF作家の作品はハードな内容である事が予想される。以前はアーサー・C・クラークもいくつか読んだが、読後の疲労感が凄まじかった。
体力のある時でないとキツいなぁ、と思ってなかなか手が出なかったのだ。
しかし、読み始めてみると意外と読みやすいことに気づく。
意外とページが進むのが早くて、サクサクと読み終えてしまった。
もし、ハードSFに興味はあるけど難しそうで抵抗がある、というのであれば、この作品はオススメできる一冊だと思う。
〜ドラッグ×神×VR(!?)〜
さて、肝心の物語だが、大まかなあらすじは以下の通りである。
地球は気温が上がり、普通に空の下を歩くことも難しくなった未来。国連によって過酷な環境下の火星や金星に強制移住させられた人々にとってはドラッグは必需品だった。
ある日、太陽系から遠く離れたプロキシマ星系から帰還した実業家パーマー・エルドリッチが新種のドラッグ"チューZ"を太陽系に持ち込んだ。非合法にドラッグ"キャンD"を火星に配給している大企業社長のレオは、エルドリッチの新種ドラッグに覇権を取られないよう戦いを挑む…。
あらすじだけ見ると、実業家同士のドラッグの覇権争いの物語のように思えるが、中盤からやや難解な展開になっていき、面白さがグッと増していく。
ディックの哲学的な考え方や世界観はイマイチわかっていないが、「人類の前に邪悪な神が現れた時、人間はどうするのか」というテーマがあるように思える。
たかだか人間の力ではどうにもならない脅威を前に、登場人物たちがそれぞれの思惑でそれに打ち勝とうとする姿がなんとも粋である。
また、それとは別に、このドラッグの効用が非常に面白い設定なのだ。
事前に家具や家電などのミニチュアを用意しておき、その前でドラッグをしゃぶることで、ミニチュア世界に入っていくのである。
1960年代に書かれた作品で、今のVRのような世界が予見されていたのである。
作中にこそ言葉は使われていないが、紛れもなくこれは仮想空間であり、そこに入るために"ドラッグをしゃぶる"というのが、皮肉のように思えて面白い(当時のディックがそういうつもり書いているわけではないと思うが…しかし、「現実の相対性」について書いていることは間違いない)。
久しぶりのハードSFであったが、思った以上に疲れず(笑)楽しめた。
他のディック作品も読んでみたい。