【まぐれ 投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか】勘違いする事を自覚する
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆
資産運用や株式投資の本を色々と探していた時に見つけた本。
人は本当の意味で"確率"を理解しているのか。"ランダム"を理解しているのか。たまたまの偶然と自分の実力を区別して考えられるのか。
膨大な文章量とニヒルなユーモアで、運と実力を見分ける事、そして、冷静に確率を分析する事の出来ないトレーダー達を皮肉る知的なエンタメエッセイ。
著者タレブの口の悪さにニヤリとしながらも、脳みそをぶん殴られるような感覚さえある刺激的な一冊だった。
〜これは楽しんで読む本である〜
非常に分厚い本であり、かつかなりの文章量がある。
著者タレブの主張を全て拾い切る事は一度読んだだけでは非常に難しい(複雑な文章である上に、すぐに横道に外れてしまう)。
かなり骨のある一冊だったが、僕がこの本から(かろうじて)読み取れた、タレブの主張は、なぜ運を実力と勘違いするのか?の一点に尽きる。
その、一点を説くために、著者タレブは手を変え品を変え圧倒的な情報量と文章でしつこく何度も語りかけてくる。
しかし、これは、教養の本ではないし、学術論文でもない。ましてや、リスクを避ける方法論などを述べる説教じみたビジネス本でもない。
タレブ本人も冒頭で書いている通り、タレブが思うところを真っ正直に書いた私事のエッセイなのである。
タレブ自身がはじめにそう言ってくれたおかげで、かなり肩に力を入れずに読み進める事が出来た。
これほど知的さに溢れている本書をニヤニヤしながら、読み進められる贅沢さは、他の本ではなかなか味わえないだろう。
〜運、偶然、確率、憶測、そして、まぐれ〜
本書には何人ものトレーダーが登場するが、みんなほとんど同じ失敗をして金融界から(タレブの言葉を使うと)吹き飛んでいる。
それは、この本のタイトルの通り、運を実力と勘違いしていたからだ。
例えば、1つの金融商品について1人のトレーダーが今後、価値が上がると予言(予測)したとする。そのトレーダーは経済学に裏付けされた知識(憶測)や法則(逸話)を基に、指標に現れたシグナル(ノイズ)がその商品の価値をあげるものだと確信(信念)を持っていた。
そして、その商品はトレーダーの予言(予測)通り、かなりのリターンを発生させた。
そのトレーダーは能力ある投資家(運がいいだけのバカ)として名を馳せ、自分が導き出した法則(まぐれ)は確実(偶然)であり、必然(偶然)であると信じ、自分は優秀(バカ)なトレーダーであると思うようになった。
↑( )内の言葉がタレブの言葉に言い換えたものになる。
タレブに言わせれば、世の中(特にトレーダー界)はランダム性に満ち溢れており、ほとんどの人が正確に確率について理解していない。1000回に1回の出来事で成功した事を偶然とは考えられないし、一定の法則には驚くべき事態(タレブ的に言えば"黒い白鳥")の発生が潜んでいる事を見ないようにしている。
成功には運が大きく関わっている(トレーダーは特に)。もちろん実力に伴い成果を発揮する職業もあるが、その成功が運によるものなのか実力によるものなのか、多くの場合、理性的に見極める事は難しいのだ。
そして、成功した時ほど運を実力と思い込み、成功した時と同じ行動を繰り返す事で、いつか吹き飛んでしまう。
運と実力の見極めは、成功した時にこそ重要なのだ。
〜運や偶然を見極められない事を自覚する〜
さて、確率やランダム、運や偶然を見極められずに吹き飛んできたトレーダーを何人も見てきたと語るタレブは、どのようにそれらを見極め生き残ってきたのだろうか。
実は、本書の終盤でタレブはひとつ告白をしている。
タレブは、自分が非常に偶然に騙されやすい人間である、と言っているのだ。
この本においては、数学、統計学、行動経済学、脳科学、古典文学、哲学などを基に、偶然に対する考え方は書かれているものの、正確に偶然である事を見極める方法が書かれているわけではない。
やはり、偶然を確実に見極める事は非常に難しい。その原因は、感情や私情などの人間らしさにある、とタレブは語る。
どれだけの理論主義者であっても、人間らしさがある事で、偶然に騙されてしまうようだ。
それに対するタレブの対策はただひとつ。
自分が偶然に騙されやすいという事を自分で知ること、である。
と、本の概要をほとんど書いてしまったようだけど、この本はこんな短い文章で表せられるほどの単純な内容ではない。
ご興味ある方はぜひ手に取っていただいて、ニヤニヤ笑いながら、たまにタレブの言葉に頬をぶん殴られる快感を得てみて欲しい笑
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