【どうしても生きてる】鬱屈した気分や不安を言葉にできたとき、生きるしかない世界で前を向ける
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆
〜現代の不安に響く朝井リョウさんの言葉〜
ファンである朝井リョウさんの短編集。
本作も期待通り、心を抉られるような思いで読み進めた一冊だった。
朝井リョウさんの書く物語はいずれも現代的で、今日生きている人たちに響く物語だ。本作で書かれている6本の物語はいずれも、生きていくしかない世界でなんとか生きている人々の物語で、
「これはもはや自分の物語だ」
と、感じることもあるかもしれないほどリアルな物語である。
朝井リョウさんの現代を生きる人々を見つめる視点の鋭さと優しさにいつも感心してしまう。
〜言葉にできない不安を言葉にしてもらう〜
今作を読んで感じた事は、僕が朝井リョウさんが好きな理由は「言葉にできない不安が言葉になる」快感があるからだ。
6本の短編はいずれも傑作なのだが、共通して「あー、こういう不安とか苛立ちってあるよねー」というのを、朝井リョウさんが見事に言葉にしてくれている。
そして、自分の中でうまく言葉に出来なかった不安や苛立ちが言葉になった時、それらの不安や苛立ちの正体や実体が見えたような気がする。
不鮮明なものに対して何も抵抗が出来ないけど、実体として見えた不安や苛立ちには立ち向かう事が出来る。そして、「ああ、僕の不安や苛立ちはこんなものだったのか」と楽観的になる事すら出来る。
そう、月並みだが、言葉にできない気持ちを言葉にしてもらえることが素晴らしい小説体験なのだと僕は思う。
言い表せないモヤモヤを抱えている人は、本作を読めばこの世界が少しだけクリアになるかもしれない。
〜オススメはラスト2作〜
さて、最後にこの短編集の中から僕がぜひおすすめしたいのが、ラストの2作「そんなの痛いに決まってる」と「籤」だ。
この2作はどちらも、僕の不安や苛立ちを見事に言葉にしてくれて、僕の中にあったモヤモヤを晴れさせてくれた。
とくに「籤」は、この短編集の表題「どうしても生きてる」にピッタリの一作だ。
どんなに辛くても、生きるしかない。
生きることしかできない。
何かのひょうしで人生が狂っても、死ぬほどでも無い不幸に見舞われたとしても、
僕たちは下を向きながらでも生きるしかないのである。
物語自体は、かなりネガティブなのだが、僕はこの6作品に強い希望を感じた。
僕たちはこの世界を、どうしても生きている、のである。