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【さあ、生活保護を受けましょう!】簡易な言葉で書かれた生活保護受給マニュアル
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆
〜死ぬぐらいなら生活保護を受けて欲しい、と願う著者〜
「生活保護」という言葉を聞くと、どうしても悪いイメージを拭えない。
数年前に芸能人家族の「生活保護の不正受給」という言葉がメディアで取り沙汰された事や、小田原市職員が「生保なめんな」というジャンパーを着て生活保護利用者の家を訪問する事件、はたまた、暴力団が一般市民に生活保護を受けさせその保護費を資金として暴力団組織に流していた事件、などなど、「生活保護」という言葉をニュースで聞くと暗いニュースばかりだ。
巷でも生活保護を受けた時の"デメリット"ばかり取り上げてられていて、どうも、「生活保護=悪」というイメージがついてしまっているように思う。
しかし、生活保護とは本来「国民のセーフティネット」であり、生きていくにあたり必要な公的扶助制度である。国民の文化的な最低限度の生活を保障するための、
著者は冒頭でこのように書いている。
生活保護は正当な「権利」であり、なんら恥ずべきことではない
著者自身も生活保護を受けていた経験があり、生活に行き詰まって死んでしまうぐらいなら、ぜひ生活保護を受けて欲しい、という著者の願いがありありと込められた一冊だ。
〜生活保護利用の簡易で具体的なマニュアル〜
多少の専門用語は出てくるものの、全体的に非常にわかりやすい言葉で書かれた内容である。
というのも、本書は一貫して保護受給者側の視点で書かれているからだ。
保護費はいくら貰えて、その他の扶助によりいくらもらえるかというのが具体的な金額で書かれているし、生活保護を受けることで、ケースワーカーからどのような事を言われた求められるのか、保護受給者にどのような義務があるのか、などなど、実際に生活保護を受けた場合にどのような生活になるのか、というのが想像しやすい内容となっている。
また、面白いのが、ケースワーカーとの付き合い方についての章である。ケースワーカーが普段どんな仕事をしていて、どんな業務に追われているのかなど、あらゆる面からケースワーカーとはどんな人物なのか、という事を書いている。そして、そんなケースワーカーとうまく付き合い、より良い給付を受けましょう、ということだ。
こういった内容は実際にケースワーカー経験のある人にしか書けないだろう。非常に興味深く面白い章だった。
〜生活保護の「問題」〜
さて、生活保護をめぐる「問題」は、多様なため一概にまとめて言うことは出来ないが、ひとつ個人的に思うことは「生活保護を受給する側の問題」なのではなく「生活保護受給者の周りの人々の問題」なのではないかと思う(本書の中の「黒人問題」の例を使わせていただいた)。
僕の周りにも「生活保護受給者=怠け者」「生活保護受給者=ズルい」と思っている人は少なくない。だが、僕の感覚では、身近な人で生活保護を受けていた人がいるが、その人は決して怠け者だったりズルい人間ではないし、今では立派に仕事と家庭を持つ人だ。
本書においても、「生活保護を受けている家族がいると知られたら離婚の原因となる、とクレームが入る」「生活保護受給者の友人から不正なことをしているという匿名のタレコミが福祉事務所に入る」等の事例が紹介されている。「生活保護を受けることは何ら恥じることではない」と言いながらも、現実には「私は生活保護を受けています」と周りに知られる事を避けなければならない世の中である。
もちろん、不正な生活保護受給は罰するべきだが、生活保護そのものか悪いわけではない。友人だけでなく家族にまで隠さなければいけないような制度では、本意ではない不正も出てくるだろう。不正が発覚すれば、生活保護という制度に対する不信感も膨らみ、さらに制度を活用しづらい社会になっていく。悪循環だ。
根本的な解決は、すべての人が生活保護という制度の意義を理解して、誰でも生活保護を受けやすい社会になる事ではないだろうか。
貧困に悩む人々のセーフティネットとなる生活保護に対して、人々はもっと寛容になるべきではないか、と思う。