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【22世紀の民主主義】これは放言か、本質的な議論か

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆

〜データ科学者が語る民主主義〜

著者は、今やメディアに引っ張りだこの奇才・成田祐輔さん。
彼の発言をYouTubeなどでよく見るが、突飛もない発言をしたかと思えば、冷静な科学的根拠から論じることもあり、(多少ブラックすぎる)ユーモアも兼ね備えている、なんともつかみどころのない人物だ。

そんな成田祐輔さんの専門は、データサイエンスである。本人も述べている通り、政治学や社会学は門外漢であり、本書のテーマである「民主主義」は彼の専門外なのである。

政治学者や社会学者とは違う論理で語られる新しい民主主義はツッコミどころ満載ではあるものの、非常に面白い内容ではある。


〜民主主義は"劣化"した〜

さて、本書は今の民主主義の問題点を提示して、その上で新しい民主主義を提案する、といった流れになる。

ちょうど手元に辞書があるので、民主主義という言葉を調べてみた。

【民主主義】
自由と平等を尊重し、国民によって国民全体の利益のために政治を行う考え方
旺文社 標準国語辞典(第八判) より

学校などでは「みんなのことは、みんなで話し合って決める」とか言った言葉で習ったりする。要するに、国民の暮らしが良くなるように、国のことは国民全員で話し合いましょう、ということになるだろう。

しかし、21世紀になって民主主義国は失敗している。成田さんの提示するデータを見ると、21世紀になってから民主主義国ほど経済成長率が伸び悩んでいる。
その理由は、「民主主義の"劣化"」である、と成田さんは指摘する。

民主主義がダメになった理由は、よく「民度が低い」「大衆がバカになった」などと、(自分自身も含まれている)国民に原因があるように揶揄されることが多い。
一理あるかもしれないが、それだけでは説明が足りない。
大きな要因のヒントとなるのは、やはり21世紀に急速に発展したインターネットである。

インターネットによる情報の拡散スピードは早い。それにより、民主主義の劣化の象徴とも言えるヘイトやポピュリズム的発言が拡散した。個々人が気軽に発信できるようになり、小さな分断がたくさん生まれた。それだけではなく、これは望ましいことなのだが、今まで水面化にあったマイノリティの問題を多くの人々が知る機会が増え、社会の問題が浮き彫りになってきた。
つまりは、インターネットが発展したことにより、社会の課題が山積みになったのだ。

課題が山積みになったこと、多様化した社会で個々人が様々な意見を持つようになったこと。これらに対応する民主主義の方法として、未だに「1人一票の選挙」という仕組みを使っている。このギャップが、民主主義の劣化を生み出している、と考えられるのだ。


〜自動化された民主主義〜

そんな劣化した民主主義を立て直す方法として、成田祐輔さんは、民主主義との闘争、民主主義からの逃走、そして、新しい民主主義の構想、を本書で述べている。

特筆したいのは最後の「構想」である。
今の民主主義の仕組みを成田さん流に新たにデザインしたものである。

それは「無意識民主主義」である。
僕は、「自動化された民主主義」と言っても良いと思う。
ざっくりいうと、人々の求める政策を、アルゴリズムで自動的にデータ収集し、政策目標の決定、実行までをすべて自動化してしまう、というものだ。
成田さんのアイデアが実現すれば、マイノリティの問題も政策の一部として吸い上げられるし、小さな分断から生まれる歪みも大量データの中で修正される。危険な思想はアルゴリズムの中で排除することも可能だ。
何より、もう政治家は必要なくなり、人々は選挙に行く必要すらなくなる。時折、アルゴリズムに問題はないかを確認するだけでよくなる。データ科学者である成田祐輔さんらしいアイデアである。

SFじみた突飛なアイデアのようにも思えるが、民主主義に関する様々な問題点を本質的に解決する提案ともとれる。
科学的根拠に基づいている事もあり、一概にこれをただの放言と嘲笑することも難しい。しかし、成田祐輔さんのキャラクターを知っている僕からすれば、本人がこれをどれだけ本気で言っているのかは窺い知れない。

何はともあれ、新しい視点として面白く読める。成田祐輔、という人物像を知った上で読み進めるとさらに面白い。知らない方は、先にYouTubeなどで彼のキャラクターを知ってから読むと良いだろう。

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