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日本人の「成熟拒否」描く――阿部和重『幼少の帝国:成熟を拒否する日本人』(新潮社、2012年)評
ロリコン、ドラッグ、インターネット、ひきこもりなど、現代日本を彩るさまざまなモチーフを文学の世界に持ち込み、純文学と大衆文学の境界を攪乱し続ける作家=阿部和重(東根市出身)。本書は、そんな著者の初のノンフィクション作品だ。新潮社のPR誌『波』での2010年12月から約一年間の連載をまとめたものである。
アイドル好きを公言し、作中でも自身の名を冠したロリコン青年を登場させる彼が選んだノンフィクションの題材は、日本人の「成熟拒否」。巷にあふれるさまざまな文物や現象を「成熟拒否」――巨大化や強大化を拒絶し、小型化や未熟化を志向する態度――という観点から統一的に把握し、それらを戦後日本の必然として描き出す。
小さいものやかわいいもの、幼いものへのこだわりが、戦後日本の必然とはどういうことか。著者が「起源」として示すのは、連合国軍総司令部(GHQ)最高司令官ダグラス・マッカーサーと昭和天皇が一緒に写っている有名な一枚の写真である。ラフな軍服姿の前者とモーニングで正装の小柄な後者、これが意味するのは、大きいアメリカと小さい日本、すなわち敗戦直後の日本のさらなる敗北である。
しかし、そこで日本人たちは、自身の復興のためにある大規模な価値の転倒――小さいことや未熟なもの、かわいいことこそが正義!――を行ったのではないか。これが著者の仮説だ。この仮説を検証すべく、アンチエイジングの最先端や製造業の現場における小型化技術などを取材していく、というのが本書の基本的な筋である。
ところが、奇しくも連載が始まって間もなく、著者はあの3月11日を迎える。これにより、本書の後半部は、被災地ルポをも差し挟みながら、「成熟拒否」という方法による復興論となっていく。戦後復興ならぬ災後復興。そこでも、果たして「幼少の帝国」は機能を発揮しうるだろうか。著者の旅路がどのような結末に辿り着くことになったか、その答えはぜひ本書で確かめてほしい。(了)
※『山形新聞』2012年11月11日 掲載