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フェミニズムとアナーキズムを節合する――高島鈴『布団の中から蜂起せよ アナーカ・フェミニズムのための断章』(人文書院、2022年)評
タイトルの「布団の中から」とはどういう意味か、副題にある「アナーカ・フェミニズム」とは何か――等など、謎めいた見た目のこの本は、アナーキストであるとともにフェミニストであることを宣言する著者が、その思想=「アナーカ・フェミニズム」のよってきたるところ、二つの思想潮流が結びつくことの必要性、そしてそこから世界がどのように見えるのか、といったことごとを徒然なるままに綴ったエッセイ集である。2019~2022年にさまざまな媒体に掲載されたものが中心となっている。もちろんそれは新型コ
世界の見えかたを変える――松波めぐみ『「社会モデルで考える」ためのレッスン 障害者差別解消法と合理的配慮の理解と活用のために』(生活書院、2024年)評
何らかの障害のある人がいて、その人が(その障害のゆえに)やりたいと思うことが自由にできないとき、それはいったい誰のせいなのだろうか。これまで一般的だったのは、それはその人の心身の損傷(機能障害)のせいと捉える見かた・考えかたで、こうした発想の枠組みを「障害の医学モデル」という。一方で近年は、それをマジョリティに合わせて社会がつくられてきたがゆえの、さまざまな社会的障壁(社会のバリア)があるせいだと捉える枠組みが提唱され、少しずつ人びとの間に広がっている。後者の発想を「障害の社
路上からのフェミニズム入門ーー堅田香緒里『生きるためのフェミニズム パンとバラと反資本主義』(タパブックス、2021年)
貧困問題が専門の福祉社会学者によるフェミニズム・エッセイ集。副題の「パンとバラ」とは、人が人らしく生きていくのに欠かせない「生活の糧(=お金)」と「尊厳」のこと。20世紀初頭、工業化が進むアメリカ北東部、マサチューセッツ州ローレンスにて大規模ストライキを行った移民女性労働者たちが掲げたスローガンが「パンをよこせ、バラもよこせ!」。ここから彼女たちの運動は「パンとバラのストライキ」と呼ばれる。現代のフェミニズムもまた「パンとバラ」を同時に求める「99%のフェミニズム」となってい
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福島の3月11日、その空白を埋める――門田隆将『記者たちは海に向かった 津波と放射能と福島民友新聞』(角川文庫、2017年)
福島県の地方新聞には、毎日新聞系の福島民報と読売新聞系の福島民友とがある。本書は、後者の福島民友新聞が3・11をどう経験したのか、とりわけ浜通り、相双ブロック支社の社員たち6人の「あの日」の行動を中心に記述した震災ノンフィクションである。 著者は、戦争や事件など、災厄の渦中で国難に立ち向かう人びとの姿を描き続けてきた保守派のノンフィクションライター。東京電力・福島第一原発事故に立ち向かう現場職員たちを扱った『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫、2016年)の