滝口克典

1973年生まれ、山形市在住。専門は「居場所づくり」。よりみち文庫(学びの場づくり、2…

滝口克典

1973年生まれ、山形市在住。専門は「居場所づくり」。よりみち文庫(学びの場づくり、2019年~)で共同代表、特定非営利活動法人Sisterhod(ジェンダー平等、2022年~ )で事務局長をつとめる。現在は、いくつかの大学・専門学校・高校で「専業非常勤」状態。

マガジン

  • book review

    これまでいろんなところで書き散らしてきた書評記事のアーカイブです。選書や読書の参考にしていただければ幸いです。

  • Sisterhood読書会

    Sisterhoodの読書会などで読んだり紹介したりした本です。

  • よりみち読書会

    よりみち文庫の読書会で読んだり紹介したりした本のレビューです。

  • 震災文学

    2023年夏から実施している「震災文学読書会」関連の記事です。

  • 〈社会〉のこわれかた/なおしかた

    私たちはどうしてこんな社会に生きているのか。やまがたからの社会学入門。

最近の記事

フェミニズムとアナーキズムを節合する――高島鈴『布団の中から蜂起せよ アナーカ・フェミニズムのための断章』(人文書院、2022年)評

タイトルの「布団の中から」とはどういう意味か、副題にある「アナーカ・フェミニズム」とは何か――等など、謎めいた見た目のこの本は、アナーキストであるとともにフェミニストであることを宣言する著者が、その思想=「アナーカ・フェミニズム」のよってきたるところ、二つの思想潮流が結びつくことの必要性、そしてそこから世界がどのように見えるのか、といったことごとを徒然なるままに綴ったエッセイ集である。2019~2022年にさまざまな媒体に掲載されたものが中心となっている。もちろんそれは新型コ

    • 世界の見えかたを変える――松波めぐみ『「社会モデルで考える」ためのレッスン 障害者差別解消法と合理的配慮の理解と活用のために』(生活書院、2024年)評

      何らかの障害のある人がいて、その人が(その障害のゆえに)やりたいと思うことが自由にできないとき、それはいったい誰のせいなのだろうか。これまで一般的だったのは、それはその人の心身の損傷(機能障害)のせいと捉える見かた・考えかたで、こうした発想の枠組みを「障害の医学モデル」という。一方で近年は、それをマジョリティに合わせて社会がつくられてきたがゆえの、さまざまな社会的障壁(社会のバリア)があるせいだと捉える枠組みが提唱され、少しずつ人びとの間に広がっている。後者の発想を「障害の社

      • 「自己責任」は無責任――戸谷洋志『生きることは頼ること 「自己責任」から「弱い責任」へ』(講談社現代新書、2024年)

        新自由主義の思潮のもと、現代の日本社会にのっぺりと広がる自己責任論。人びとはそのまなざしにより、社会のなかで生きづらさを抱え、誰かに助けを求める人びとを見つけ出しては犬笛をふき、集まった者たちとで血祭りにあげる。「おまえがそうなったのはおまえ自身の責任、誰かに頼ろうとするな」と。そこまで攻撃的ではない人びとも、同じ論理に説き伏せられ、困っているその人に手をさしのべることをとりやめる。「自分には責任がもてないから」というわけだ。 こうした自己責任論の考えかたは、独力で責任を果

        • 路上からのフェミニズム入門ーー堅田香緒里『生きるためのフェミニズム パンとバラと反資本主義』(タパブックス、2021年)

          貧困問題が専門の福祉社会学者によるフェミニズム・エッセイ集。副題の「パンとバラ」とは、人が人らしく生きていくのに欠かせない「生活の糧(=お金)」と「尊厳」のこと。20世紀初頭、工業化が進むアメリカ北東部、マサチューセッツ州ローレンスにて大規模ストライキを行った移民女性労働者たちが掲げたスローガンが「パンをよこせ、バラもよこせ!」。ここから彼女たちの運動は「パンとバラのストライキ」と呼ばれる。現代のフェミニズムもまた「パンとバラ」を同時に求める「99%のフェミニズム」となってい

        フェミニズムとアナーキズムを節合する――高島鈴『布団の中から蜂起せよ アナーカ・フェミニズムのための断章』(人文書院、2022年)評

        • 世界の見えかたを変える――松波めぐみ『「社会モデルで考える」ためのレッスン 障害者差別解消法と合理的配慮の理解と活用のために』(生活書院、2024年)評

        • 「自己責任」は無責任――戸谷洋志『生きることは頼ること 「自己責任」から「弱い責任」へ』(講談社現代新書、2024年)

        • 路上からのフェミニズム入門ーー堅田香緒里『生きるためのフェミニズム パンとバラと反資本主義』(タパブックス、2021年)

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        記事

          「男性の生きづらさ」とは何か?

            先月、世界経済フォーラムが『世界ジェンダーギャップ報告書』の2024年版を発表しました。それぞれの国が、①教育、②健康、③政治参画、④経済参画の四つの領域で、ジェンダー平等をどれくらい達成できているかを、各種データから評価したもので、毎年6月にその結果が発表されています。 本邦はそこで、146か国中118位というたいへん不名誉かつ残念な評価を下されており、それはもちろん先進国のなかではぶっちぎりの最下位であるとともに、国際社会全体のなかでも下から数えたほうが早いくらいの

          「男性の生きづらさ」とは何か?

          福島の3月11日、その空白を埋める――門田隆将『記者たちは海に向かった 津波と放射能と福島民友新聞』(角川文庫、2017年)

          福島県の地方新聞には、毎日新聞系の福島民報と読売新聞系の福島民友とがある。本書は、後者の福島民友新聞が3・11をどう経験したのか、とりわけ浜通り、相双ブロック支社の社員たち6人の「あの日」の行動を中心に記述した震災ノンフィクションである。 著者は、戦争や事件など、災厄の渦中で国難に立ち向かう人びとの姿を描き続けてきた保守派のノンフィクションライター。東京電力・福島第一原発事故に立ち向かう現場職員たちを扱った『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫、2016年)の

          福島の3月11日、その空白を埋める――門田隆将『記者たちは海に向かった 津波と放射能と福島民友新聞』(角川文庫、2017年)

          「日記」としての南三陸批評――三浦英之『南三陸日記』(集英社文庫、2019年)

          著者は、朝日新聞の若手記者。宮城が初任地だったという彼が、東日本大震災後に新たに設けられた「南三陸駐在」として宮城県南三陸町に赴任し、そこで経験した被災地の日常を「報告」した連載記事「南三陸日記」。毎週火曜日、2011年6月から2012年3月までの間、朝日新聞全国版に掲載されたそれに、文庫化に際し2018年に同地を再訪したルポルタージュなどを加えたものが本書である。 著者自身が語るように、外部の記者が出張で現地を訪れ、話題性のあるできごとを「報道」するのとは異なり、自身もそ

          「日記」としての南三陸批評――三浦英之『南三陸日記』(集英社文庫、2019年)

          「いないことにされたものたち」の声を聴く――古川日出男『馬たちよ、それでも光は無垢で』(新潮文庫、2018年)

          著者は、福島県郡山市出身、東京都内在住。かつて「東北」をテーマに超長編『聖家族』(新潮社、2008年)を上梓した小説家である。2011年3月11日より始まった〈東日本大震災〉に際し、そのとき取材で京都にいたという著者のもとには、その直後よりさまざまな発言機会がもたらされる。東北出身の、福島出身の人として、いま何を思いますか、と。本書は、著者によるその返答の言葉の集積である。2011(平成23)年7月に刊行された。 著者自身を語り手とする、一見してルポルタージュふうの導入。京

          「いないことにされたものたち」の声を聴く――古川日出男『馬たちよ、それでも光は無垢で』(新潮文庫、2018年)

          「遺体」はどのように構築されているか――石井光太『遺体 震災、津波の果てに』(新潮文庫、2013年)

          19,000人ほどの死者・行方不明者――関連死を含むと23,000人ほどになる――を出した東日本大震災。それまでそれぞれの場所で生きてきたさまざまな人びとが地震と津波によってほぼ同時にいのちを失い、死者となった。本書は、そうしたたくさんの死者たちの出現に直面し、うろたえたじろぎながらも「死者たちの尊厳」を守り抜こうとした被災下の職業人たち――遺体安置所ボランティア、医師、看護師、市長、市職員、消防隊員、自衛隊員、海上保安庁職員、葬儀社、僧侶など――の見えざる営為を、当人たちの

          「遺体」はどのように構築されているか――石井光太『遺体 震災、津波の果てに』(新潮文庫、2013年)

          「さまよう船」としての被災地――池澤夏樹『双頭の船』(新潮文庫、2015年)

          震災2週間後に被災地に入り、その後も繰り返し東北地方を訪れているという著者による、東日本大震災と被災地の再生をモチーフにした物語。全般的に幻想的な神話のような筆調だが、その随所におそらくは著者が実際に被災地で見聞きしたであろう諸々のできごとがちりばめられている。 その舞台は、タイトルにもなっている「双頭の船」。ボランティアをのせて被災地を往来する(ボランティアバスならぬ)ボランティアフェリーだ。ふつう船には船首と船尾があるが、その船はどちらも船首(あるいは船尾)となっていて

          「さまよう船」としての被災地――池澤夏樹『双頭の船』(新潮文庫、2015年)

          「子どもたち」の3.11――森健『「つなみ」の子どもたち 作文に書かれなかった物語』(文春文庫、2019年)

          東日本大震災の直後、津波被害の大きかった岩手県大槌町と釜石市を訪れたジャーナリストの著者。その惨状をどう伝えるかを考え抜いた末に、彼は被災地の子どもたちに作文を書いてもらい、それをまとめるというアイディアを思いつく。実際に岩手、宮城の50か所以上の避難所を回り、85本の作文を受け取り、それをもとに2011年6月末に刊行されたのが、月刊「文藝春秋」臨時増刊号『つなみ 被災地のこども80人の作文集』というムックである。 本書は、この作文を書いた小中高生とその家族の人びとと著者が

          「子どもたち」の3.11――森健『「つなみ」の子どもたち 作文に書かれなかった物語』(文春文庫、2019年)

          セックスワーカーたちの3.11――小野一光『震災風俗嬢』(集英社文庫、2019年)

          3・11と性風俗といえば、ノンフィクションでは山川徹『それでも彼女は生きていく 3.11をきっかけにAV女優となった7人の女の子』(双葉社、2013年)、フィクションでは廣木隆一『彼女の人生は間違いじゃない』(河出文庫、2017年)などが思い浮かぶ(後者は著者自身によって2017年に映画化もされた)。どちらにおいても、震災をきっかけにAVやデリヘルなどセックスワークの世界に足を踏み入れるようになった女性たちの現状がリアルに描かれていた。 そうした類の一冊かと思って手にとった

          セックスワーカーたちの3.11――小野一光『震災風俗嬢』(集英社文庫、2019年)

          「あいまいな死」を追悼する――彩瀬まる『やがて海へと届く』(講談社文庫、2019年)

          東日本大震災における被災の苦しみを特徴づけることばとして、「宙ぶらりん」という語彙がよく用いられる。例えばそれは、津波にさらわれ遺体が見つからぬままであるような誰かを身近にもつ人びとの心情であったり、それがどういう影響を自身とその家族にもたらすのかがわからない低線量被ばくに見舞われた人びとの境遇であったりする。自分にもたらされた〈傷〉があいまいであるため、それをどう位置づけたらよいかわからず、よって通常であれば次第に始まっていくような回復や治癒のプロセスがいつまでたっても起動

          「あいまいな死」を追悼する――彩瀬まる『やがて海へと届く』(講談社文庫、2019年)

          価値なきものたちをどう生かす?――眞並恭介『牛と土 福島、3.11 その後。』(集英社文庫、2018年)

          「3.11」というのは多種多様なモチーフが絡まり合った複合的なできごとなので、どの場所から見るかによってさまざまな描かれかたというものが成り立つ。本作は、福島の――東京電力福島第一原発事故のもとでの――動物、とりわけ牛とそれをとりまく人びとから見た「3.11 その後」の経験を追いかけたルポルタージュである。著者は、現代社会における動物の意味を問い続けてきたノンフィクション作家。 災害時にペット同伴で逃げるという行動が、近年少しずつ社会的な認知を獲得しつつある。では、畜産農家

          価値なきものたちをどう生かす?――眞並恭介『牛と土 福島、3.11 その後。』(集英社文庫、2018年)

          〈東北〉のいちばん長い日――河北新報社『河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙』(文春文庫、2014年)

           「○○のいちばん長い日」というタイトル、元ネタはもちろん半藤一利のノンフィクション『日本のいちばん長い日』(文春文庫、2006年)であろう。現代日本の決定的な分岐点となった1945年8月15日、戦争の終結か継続かをめぐって国家中枢のエリートたちが何を考え、どんな決断をし、そしてそんな彼らの間でどんな抗争が繰り広げられ、あの結果に至ったのか、「どうする日本」の細やかなプロセスを追いかけ、再現した名作だ。それは、そのあと続いていくことになる戦後日本の縮図をそのはじまりの一日に見

          〈東北〉のいちばん長い日――河北新報社『河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙』(文春文庫、2014年)

          災禍のもとで編まれた希望――『〈場〉のちから 多文化ヤマガタ探訪記2020‐2023』刊行によせて

          年末年始のお休みにこんな一冊はいかがでしょうか? ご案内がずいぶん遅れてしまいましたが、先日、新しい本を出しました。山形新聞の連載記事をまとめた『〈場〉のちから 多文化ヤマガタ探訪記2020‐2023』で、『〈地方〉の思考 多文化ヤマガタ探訪記2018‐2020』(よりみち文庫、2020年)の続編です。県内各地の草の根の活動者たちの現場30か所をめぐり、それぞれの現場の〈ことば〉に耳をすませ、それらをもとに今後の地域のすがたを展望した一冊です(表紙イラストはイラストレーター

          災禍のもとで編まれた希望――『〈場〉のちから 多文化ヤマガタ探訪記2020‐2023』刊行によせて