只管ランニング
ランニングと動禅
ランニングをするときのココロの状態は禅修行における坐禅の状態とよく似ています.ただし、ここでのランニングとはアスリートのように全力疾走のことではなく、息の切れない程度(キロ7分程度)の無理のないペースで走ることを意味します.以前「里山で禅修行のススメ」という記事で、里山での薪割りや畑仕事が禅堂の外での坐禅マインドの継続への助けになるという話をしました.里山でのそういった作務をするのに加えて、ランニングも坐禅マインドを継続できる方法の一つです.
ランニングをする理由は、市民ランナーの場合、健康的な生活をする為とか、マラソン大会で良いタイムで走る為とかさまざまです.マラソンやランニングをしない人たちからすると、時間を使ってわざわざしんどい思いをして「どうしてランニングなんてするのだろう?」と思われる方も多いと思います.ランナーの走る理由は表向きには様々ですが、ランニングをしてただ走っているときは「ただ走ることができるから」ランニングをやっているという方も多いのでないでしょうか.もちろんそれが自分の中で、明確で言葉にすることができるかどうかは別の話ですが.
Just Running
ランニングをしていたり、マラソン大会で走っていると「目標タイムで走ろう」とか「ゴールしたい」という目標は、最初の体と気持ちに余裕がある間はよく頭に浮かびます.ところが20km、30kmと先に進む間に肉体的にも、精神的にもキツくなってきて、最初に思っていた目標はもはやアタマには浮かばず、一歩一歩黙々と足を先に進めることしか意識がいかなくなります.このような「ただ走る」の状態でひたすら走っていくとフルマラソンは余裕で完走できますし、それ以上の70kmや100kmのウルトラマラソン、そして何日間か分けて走るようなステージレースも完走できるようになります.マラソンでゴールできることは達成感があったりしてもちろん嬉しいのですが、ランニングやマラソンをするのはそのゴールまでのプロセスの中で「ただ走る」ことを通して只管(ただひたすら)に何かをする経験をすることができると思います.この経験は単に「ランナーズハイ」という言葉には収まらないものがあると思います.さらに自分の限界や弱さを現実問題として経験することは、ひいては自分自身に向き合うことにも繋がります.
ランニング練習と己自究明
マラソン大会にエントリーした場合、それに向けて練習するのが普通ですが、その練習プロセスにも自分自身と向き合う時間が多くあります.マラソン大会で満足のいくパフォーマンスをするためには、どの時期にどのような練習メニューをすれば良いかということを自分自身で組み立てて実行していくことは自分自身の身体と心と向き合うことそのものです.大会本番では他のランナーもいたりして、雰囲気も助けになって走りやすのですが、その練習となると一人で練習することが多いと思います.自分の身体のシグナルを無視してアタマだけで考えた練習メニューをこなそうとすると身体が悲鳴を上げて故障したりします.また「雨が降ってるから面倒臭い」とか「仕事に追われているから今日は練習パスで」という自分の内面から湧いてくる弱い心に従っていると練習がなかなかできないことになります.ときには、食事や睡眠時間等、生活全体のマネジメントも必要になります.自分自身の身体と心に向き合いながら、自分の目標に向かって努力していく姿勢は、仏教の文脈でいえば「精進」そのものだと思います.
まとめ
トレイルランニングショップのRun Boys! Run girls!さんの紹介ページで、トレイルランニングの魅力についてこのように書かれています.
禅修行の視点からランニングの魅力がよくまとまっていると思います.
・一見無理に思える目標にチャレンジする力=出家のこと
リスクの伴わない自分のconfort zoneから一歩飛び出してチャレンジする精神は、まさに自分の家から出る、出家の精神です.僧侶の形をしているから出家ではなく、自分の慣れ親しんだところを一歩出ることが出家です.
・目標に向けて自分を鍛え上げて達成する力=己自究明のこと
これについては先ほども書いた通り、目標に向かって自分を鍛え上げることは自分の身体と心に向き合うことです.
・もし失敗したとしてもそれを笑い飛ばす力=柔軟心
何かを失敗したとしても、自分の身体と心に全力で向き合った結果であれば、その原因を他に求めるのではなく、自分自身に求めることになると思います.事実として失敗をしても自分自身の中で後悔はないと思います.後悔のない生き方はとても大切です.
もちろん禅修行において坐禅は大切ですが、もっと大切なのは日常生活の中で、生き方の中で修行をどのように消化していくか、ということです.生き方の答えを外に求めるのではなく、自分自身の中に求める、それが大切なことだと思います.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?