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【歴史本の山を崩せ#023】増補改訂版『天正壬午の乱』平山優

《その時、東国では…》

織田信長は宿敵・武田氏を滅ぼしたものの、それからわずか数カ月後に本能寺の変で横死します。
信長の死によって、織田政権は武田氏の旧領から撤退。
武田旧領…すなわち信濃、甲斐、上野の三国に権力の空白が生じます。
徳川氏、北条氏、上杉氏はこれを機に勢力拡大を目指して武田旧領に侵攻。
名立たる三大名による東国の騒乱が天正壬午の乱です。

戦国時代は大名ばかりに目がいきがち。
歴史に残る戦役の類も大名とその武将たちが目立ちます。
実際には、大名は勢力を拡大したり領国を維持するためには各地に根差した地元の有力者たち…すなわち国衆・国人といった勢力の支持・協力を得ることが必要不可欠。
国衆・国人たちは各々、自分たちの利害・思惑によって容易に仕える大名を変えていきます。
「昨日の敵は、今日の友」また「昨日の友は、今日の敵」ということが当たり前のように繰り返されます。
そんな彼らの動向に振り回され、どうにか彼らを味方につけるために右往左往する大名たちの真実の姿。
戦場での軍事衝突だけが戦国時代の「戦争」ではないことがよくわかります。

信長死後、戦国時代の主役は羽柴秀吉になることで、歴史を語る目線はどうしても秀吉目線になってしまう。
秀吉の目が西に向いていたとき、東国では何が起こっていたのか。
小牧長久手で秀吉と激突するまで徳川家康は何をしていたのか?
ここは案外、盲点になっていた部分。
天正壬午の乱はその盲点を埋めるピースのひとつです。

戦国史が好きなひとの間では歴史用語として定着した感じがある天正壬午の乱ですが、この騒乱を専論としてはじめて一冊の本にまとめた本です。
多数のアクターがそれぞれの思惑を持って、文字通り一日単位で戦況が目まぐるしく変化する歴史的過程を膨大な史料を駆使して再現。
「史料に語らせる」という歴史学の醍醐味を味わうことができる労作といえます。

増補改訂版『天正壬午の乱』
著者:平山優
出版:戎光祥出版
初版:2015年
定価:2600円+税

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