【歴史本の山を崩せ#020】『中国注疏講義』古勝隆一
《注疏を通じて海のように広く、沼のように深い漢文の世界を味わう本》
専門的に漢文を習った人でもなければ注疏ときいてもピンとこないでしょう。
漢籍には時代を超えて読みつがれるものも少なくありません。
しかし、時代が変われば社会の様子や文化、風土、思想も変化していき、後世の読者と書いてあることの前提が共有できなくなり、意味が通じなくなることもあります。
俗で例を出してみれば、例えばZ世代とよばれる若者たちに、昭和生まれには当たり前の「電話のダイヤルをまわす」という表現が通じない可能性があります。
日常的な事柄ですらこの有様ですから、ましてや生活に密着していない古典の事柄ともなれば、その乖離はより広く、深くなります。
その乖離を補うために、単語などに注釈を施した注釈書が作られてきました。
書物のタイトルに注という字が含まれているものがそれです。
さて、この注釈自体も決して簡明平易なものとは限らず、注釈に対してさらに注釈を施されるようなものも出てきました。
疏と呼ばれるものがそれです。
ザックリ言うと注疏というものは〈注釈〉と〈注釈の注釈〉ということです。
儒教の重要テキストとされる経書と呼ばれる書物群には注疏が多く、本書はこの経書とその注疏を講義したものです。
例えば経書の最高ランクである、五経のひとつに数えられる『春秋』を読んだことがあるひとならわかると思いますが、本文だけでは記述がシンプルすぎて何が言いたいのかわかりません。
経書に限りませんが、中国古典の漢文を読む際に注疏を活用できるかどうかで読解の深さに雲泥の差が出ます。
ところがこれまで注疏に関して専門家ではない一般読者の手に届くような本は皆無でした。
本書では、そもそも注疏とはいかなるものかという概説にはじまり、実際に注疏を活用して漢文を読むことの実践を行います。
生の注疏を本文と照らし合わせながら、経書に書かれていることを解釈していくプロセスは、これまでの漢文読解とはまた違った趣きを感じることができるでしょう。
「わかりやすく漢文を読む」ことよりも「じっくりと漢文を読み込む」ことを重視しているので、決して簡単な本ではありませんが、海のように広く、沼のように深い漢文の世界を味わうことができる一冊といってよいでしょう。
「経書の巻」とありますが、第二弾も出たら嬉しい。
『中国注疏講義』
著者:古勝隆一
出版:法蔵館
初版:2022年
定価:1800円+税
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