見出し画像

映画メモ 12月初旬

やっと元気が出て来て映画館にも行けるようになった。

①Pushpa 2: the rule ←劇場 南インド任侠(チンピラ)映画続編、遂に公開! 💛💛💛💛💛
②Sookshma Darshini←劇場 核家族VS大家族 ご近所ミステリーの佳作💛💛💛💛
③Mangalavaaram←Amazon Prime テルグ村スリラー+ブラックコメディ 💛💛💛

①Pushpa 2: the rule(インド・テルグ語、2024年) そうだ、密輸しよう!金と家族愛の任侠映画

あらすじ:(パート1は未見ですが…)サンダルウッド(白檀)の密輸シンジケートでのし上がったプシュパ(アッル・アルジュン)は、近しい議員シッダッパをアーンドラプラデーシュ州の州知事にするべく、(買収)資金集めのために大規模な密輸を計画する。以前彼に屈辱的な目にあわされた捜査官シェカワット(ファハド・ファーシル)は、プシュパに恥をかかせ、その計画を叩き潰そうと躍起になる。そんな中でもプシュパの妻シュリヴァッリ(ラシュミカ・マンダンナ:テルグの石田えり)は、彼を強く、優しく支えるのだった。

1990年代~2000年代の南インドを舞台に、一介の日雇い材木切り出し労働者から材木密輸シンジケートのボスに上り詰めた男、プシュパの愛と戦いの日々を描くシリーズ第二弾。

南インド任侠(チンピラ)映画の王道を行く作品で、身分差別、家族内の確執、権力者の腐敗、蚊帳の外に置かれたマスコミと警察、そしてただそれを喜ぶ庶民の姿などが映し出されている。

監督・原案・脚本のスクマールは、『ランガスタラム』や『Virupakshaa』(原案のみ)等でアーンドラプラデーシュ州の田舎の様々なトピックを過去の物語の中で描き出してきた。

今回のサブテーマは、女性に対する暴力である。作中、プシュパがある格好をして神に祈りをささげるシーンがあり、大変印象的だった。そういうお祭りがあるということが驚きだったが。

本作では、①女性に乱暴する男性が頻繁に見られる、②女性への暴行に関わった者を権力者が庇う、というインドの社会背景を捉えている。コルカタの病院で起きたレイプ殺人事件に対する抗議デモに関しても、②は無視できない。

そうした重い部分もありつつ、本作は娯楽作に徹している。冒頭シーンでは、日本の観客や、日本語学習者にはとても楽しいサプライズがある。
私は、
日本、寒いです。さむいさむい!
というセリフが気に入った。

プシュパに頭が上がらない男を演じた名脇役のスニル、ラシュミカ・マンダンナの落ち着き払った極妻っぷり(インドのカップルの愛情表現とはどつきあいです!)、ファハド・ファーシル演じるお高く留まった捜査官の無様さが特に面白かった。

元気な脇役に押されたかと思われた主演アッル・アルジュンは、壊れた拡声器みたいなだみ声で話す単調なチンピラ演技をやる一方、不意にぐっと引き込む演技を見せた。特に最後の方のシーンでの演技がいい。素の顔ってこんななのかなと思わせる余裕も感じた。

大サービスの南インド鉈振り回し映画で久々の当たり。戦闘シーンも斬新、前作で全国で流行した歌曲に比べれば弱いが歌舞シーンもいい。なさぬ仲の家族のもののあはれもばっちり決まった。

この冬一番の大ヒット作になることでしょう。

②Sookshma Darshini(インド・マラヤーラム語、2024年) 怪しい隣人に興味津々、ご近所探偵プリヤ―

あらすじ:主婦で一児の母プリヤ―は就活中。アルツハイマーを患う母親を介護しているマヌエルが隣に越してきた。ある日マヌエルの母が行方不明になり、遠くの駅で発見される。マヌエルの言動に不審感を持っていたプリヤ―は、いい顔をしない夫をしり目に、近所の主婦友達と共にマヌエルの家を監視し始める。そんな中マヌエルの母が再び行方不明に。ニュージーランドからマヌエルの妹ダイアナが帰って来るが、どうもこの一家、何かを企んでいる…。

マラヤーラム映画の十八番、家族ミステリー
マラヤーラム映画は比較的狭い範囲で起こる家族ミステリーや家族ホラーを得意としている。本作も、ご近所ミステリーとして隣近所のお家騒動を描き、あっと驚くラストで楽しませてくれる。

本作は名誉殺人の顛末を描いている。主人公プリヤ―の家は核家族。子供は一人、よりよい生活を求めて子育ての一段落した妻も働きに出る新しい家族だ。彼らの日常を侵す不安要素として、古い大家族の規範が立ち現れるのである。

男尊女卑と言われるインドでも、大家族の中で母親が家長になることもある。多くのインドの映画は、母親を価値づけ、称賛し、力ある存在として描く一方、母になる予定のない女の描き方には苦心しているように思う。

また、しばしばその人が「母」≒女神≒指導者である前に人間だという観点を欠いている。「強い女」やリーダーの女性を描いていても、どこか、その人個人の中に降りていく感じがしない。あくまでも家長の役割だけにフォーカスしているように見えるのだ。

マラヤーラム映画、Ullozhukkuではその家長の役割に疲れた母の姿を捉えている。つまり女キャラの内面を深堀りする映画が皆無とは言えないのだが。

マラヤーラム映画に足りない要素があるとすれば、そのような印象を与えるほどに、女性キャラが全般に控え目に描かれていることかもしれない。

本作においても、探偵役である女性プリヤ―よりも、マヌエルや曲者な親戚のジョンの方が印象に残った。

その印象が、私の側に起因しているのか(知っているか知らないか、男が好きだから、とか下らない理由)、演出のせいなのか、役者の力なのかが判断つかない。

例えばプリヤーは自分の人生をどう生きていくのだろうか。そこが伝わってこない。男の方は何となくわかるのだが。

インド映画界では、女性個人の中に降りて行こうとする姿勢がうかがえるベンガル映画は異色かもしれない。

また、ボリウッド作品では、アーリアー・バットの『HIGH WAY』みたいに直ぐ思い出せる作品があるし、カリーナ・カプールが険しい顔をして出て来る映画は大体何かがある。

更に、来月ようやく公開される予定のカンガナー・ラーナーウト主演・製作の『Emergency』も楽しみである。

…マラヤーラム映画の話じゃなくなってしまった。そうは言っても家族ミステリーとしてはとても面白く、十二分に楽しんでお釣りが来る映画である。

ちなみにチケット代は約120ルピーだった。プシュパ2は同じシネコンで約430ルピーもしたのに!お財布にも優しいマラヤーラム映画!

③Mangalavaaram(インド・テルグ語、2023年) 昔はやばかった?!横溝正史なテルグスリラー

あらすじ:1990年代、ある村で、2人の住民男女の不適切な関係を告発する落書きが発見された。その直後、噂の二人が遺体で発見、自殺と判断される。やり手捜査官のマーヤは他殺を疑い、遺体の検死を要請したが、大地主のプラカーサム・バーブに拒まれる。翌週再び村人の不適切な関係を告発する落書きが見つかり、当該男女二人の遺体が見つかる。一見平和なこの村にもつい最近、後ろ暗い過去があった。村に住む女性サイルが、もめ事の末に村を追い出され、謎の死を遂げていたのだ。村の医師はある夜にサイルの幽霊を見たと言い出し、落書きは幽霊のせいかと村人は震え上がるが…。

過去を舞台とした横溝正史的な村スリラー!
『ランガスタラム』はじめ、田舎の因習を過去として描く中で、今にも通ずるインドの社会が浮かび上がるタイプの映画がある。都会に出て来た大人が「お父さん、お母さんが子供の頃にはな…」と子供に語っているようである。

21世紀以降のインド社会とは、新しい価値観や事物が大量に流入し、目まぐるしく変化した時代なのであろう。

本作では、村の色々な様子がコメディタッチで映し出されている。特に、結婚式の披露宴で突然大喧嘩が始まるシーンは大笑いしてしまった。

人々の言動も含め、表面的には笑える村の日々だが、もう一つ下のレイヤーがどんどん顔を出してくる(まあもともと不穏な感じはしているわけだが)。

こういう話では大体大地主が悪役なのだが…本作の大地主は彼なりに自分の役割を理解している。露悪的だが根は真面目だ。

サイルはある時恋人に悲惨な形で捨てられ、茫然自失の中次々に村の男と関係を持って周囲から疎まれ、大地主から村から出ていくよう宣告されていたのだった。そして自殺を図ったというのだが…。

真犯人は一体誰なのか…最後に明かされる真相も無理が無く面白かった。

コメディの空気をまとった本作、ラストカットが異様だ。全てを知っていた目撃者が道化を装っていたことがわかる。その人物は、一瞬道化の仮面を外したかと思ったらまた道化に戻ってしまう。その瞬間の可笑しさったら無い!

表面的に異様なことが起きても、実は皆がうっすら真相を知っており、全てを知る者は道化を演じている。知らないふりをする方が楽だ…その諦念が、一連のテルグ村スリラーを貫いている。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集