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ジャンプ買って出勤してくる奴

以前の職場に「伏見くん」という後輩がいた。

伏見くんは私より1つ年上だった。入社が私の方が先だったので、職場では伏見くんが後輩となった。

伏見くんはいつも、ニンテンドウDSとドラクエを鞄に入れていた。毎週月曜日にはジャンプも持って出勤して来る。彼のジャンプを私は毎週読んでいた。

いつだったか会社に残っているのが、私と伏見くんだけのときがあった。私たちは仕事を終わらせ、それぞれ少しゆっくりしていた。伏見くんはドラクエをプレイしている。私は伏見くんのジャンプを読んでいた。

ジャンプが読み終わったので、私は伏見くんのドラクエを見せてもらった。

主人公の名前は「ライガ」だった。彼は健太のはずである。「健太がライガって背伸びし過ぎw」と思った。

私がおかしがっていると、伏見くんは急に股間を掻き始めた。

なぜなのか。

なぜ人前でいきなり股間を搔くのか。しかも大変しっかり掻いている。

双手をパンツの中に入れ、ゴシゴシと大きく手を上下させている。

伏見くんは、股間を掻きながら人を見下すような笑みを浮かべていた。

「自分の方がお前より上だ」言葉を発せずとも、顔がそう言っている。

なぜなのか。

「自分の方が上だ」と思うにしても、なぜ今なのか。股間を掻こうが掻かまいが、そこには、上下も優劣もないはずだ。人はみな平等ではなかったか。

「何でそんなことするんだ!」

私は本心から尋ねた。対する伏見くんの答えは明快だった。

「俺はアトピー持ちで、痒いんだから仕方がない」

なるほど。アトピー持ちで痒いから仕方がないのか。私はアトピーに詳しくないので納得するしかなかった。「なんだよこいつ」という感情だけが残った。

伏見くんの印象がかなり悪くなった。ジャンプを買って出勤してくる奴に、ロクな人間はいないんじゃないかと思った。

坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。伏見憎けりゃジャンプまで憎いのだ。

それでも私は、伏見くんの買ってくるジャンプを読み続けた。それはそれ、これはこれ。やっぱりジャンプはやめられない。

毎週毎週ジャンプを読み続け、気がつけば、伏見くんが入社してから1年が経っていた。

1年の月日は、伏見くんを別人ように変えた。

眉毛がなんだか長くなったのだ。濃くなったのではなく、長くなっている。伏見くんというよりお爺さんである。

伏見くんは、お爺さんになってもジャンプを買って出勤してきた。ジャンプだけでなく、たまに漫画娯楽も買うようになっていた。ずいぶん大人になっている。私は漫画娯楽を買ってる奴を初めて見た。

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