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山とお弁当と、ひとときの静寂|兵庫県・五峰山

ただただ、緑の中で静かに過ごしたい――ぼくはそのために山を歩いているのかもしれない。人けのない、できれば景色の良い場所でランチタイムを過ごしたくて、バックパックに装備を詰め込みコンパスを片手に野山を歩く。そんな小さな幸せを求めて山を訪れる人も少なくないことだろう。

さて、そのランチタイムを簡単に済ますか、はたまた気合を入れて豪華なメニューを用意するかは悩ましいところである。

シングルバーナーやクッカーを用意し、たくさんの食材を持ち込み、はく息が白い季節だったら鍋物がいいし、さんさんと照り付ける太陽のもとならそうめんを茹で、きゅうりを添えて、保冷ボトルに持参した氷入りのつゆでいただけば最高だ。餃子を焼いてビールがあれば、即席、山の居酒屋の開店である。

それはそれは、至福の時間を楽しめることだろう。

が、ぼくが思うに、山ランチの王道はやはりお弁当を持参することではないだろうか。

今日は奥さんにのり弁を作ってもらった。

どーだ。

これこれ、こういうのがいい。

バーナーでお湯を沸かしてもいいのだけれど、サーモスのウルトラ保温力の高い山専用ボトルでお湯を持ってきた。のり弁にインスタント味噌汁があれば、もうこれでほっこりできるのである。

光明寺への入り口、展望スポットからの眺め。加東市の街並みが広がる。

お弁当を食べながら、遠くの景色をぼんやりと眺める。

と、1羽の野鳥が目の前に現れた。その距離5mといったところ。逆光でシルエットしか分からなかったが、多分ジョウビタキかな。

野鳥は警戒心がとても強く、人が近づくとすぐに飛び去ってしまう。だからこそ、野鳥愛好家は双眼鏡や超望遠レンズをつけたカメラを構えるのだ。

が、不思議なことに、山で20~30分その場にじっとしていると、隠れていた野鳥が不意に姿を現すことがある。

この現象は、川口拓氏の著書『ワイルド・クエスト』に詳しい。

いわく「人の侵入により崩れた森のベースラインが、元に戻った」のだそうだ。元に戻るのに必要な時間が20分程度とのこと。「あの人間は脅威ではない」と野鳥が判断するのだろう。

20代、30代のころはトレイルランニングにはまり、スピードを求めてよりハードなコースを走ってきた。しかし40代になった今、ランチタイムに見せてくれたこの自然の粋なはからい――こういうのがとても楽しくなってきた。以前は走るのに必死で、小さな自然が見えていなかったのだ。

使い終わったシェラカップをお湯ですすぎ、コーヒーを淹れておやつを食べる。

いつまでもこんな時間が続けばいいのにと、遠くの山並みを眺めていた。

五峰山ごぶさん(扇山)


山頂付近にある光明寺。真言宗の古刹だ。

今回は兵庫県加東市にある低山、五峰山を訪れた。低山ながら展望もよく、緑の癒しを味わう静かな山歩きを楽しむにはうってつけの山なのだ。

JR滝野駅で下車し、播磨中央公園へ。公園内の登山口から山頂付近にある光明寺を目指す。周辺には「滝野温泉ぽかぽ」もあり、下山後の温泉も楽しみだ。

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Takashi Kawaguchi
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