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冬の登山道、春の足音

北風が強く、雪がパラパラと舞っていた。

登山口のシシ避けゲートをくぐり、歩きなれた登山道をゆく。かじかむ指先を吐息で温めながら、向かうのは小野アルプス・前山だ。

ところで、自然の中を歩くときは、視点を一点に定めず、目の力を抜いて視野全体にピントを合わせるようにしている。そうすれば、自然の中のわずかな動きを捉えることができるからだ。視野を変化させることで、勝手知ったる登山道でもきっと何か発見があるはず――。

この時期、特に観察しやすいのは野鳥だな。木々が葉を落とし見つけやすい。

とはいえ、そこは弱肉強食の自然界で生きる野鳥たちのこと。色鮮やかな羽を持つ種でも、想像以上に背景に溶け込み慣れないと見つけにくいのだ。

ガサガサッ、と何者かが落ち葉の上を歩く音が聞こえた。音を手掛かりに、先述の見方でその方向をぼんやりと眺める。黄色い風切り羽に赤い模様、そして赤いくちばし。音の主はソウシチョウだった。アジア南部に分布する外来種だ。

ソウシチョウに罪はないのだが、ちょっと考えてしまう。本来日本にいてはいけない鳥なのだ。生態系への影響がなければいいのだけれど。

山頂にはベンチがいくつかあって、展望が開けている広場がある。その一角に、おそらく植栽されたのであろう、水仙が花を咲かせていた。ヒガンバナ科の多年草であり、山地の雪解けと同時に開花する、春を告げる花のひとつだ。

大型の寒波が到来し、各地から大雪のニュースが届く中、それでも季節は着々と進んでいる。もうじき、ウグイスがその美しい歌声を聞かせてくれることだろう。

もうじき春が、やってくる。

小野アルプス・前山

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Takashi Kawaguchi
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