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FIELD NOTE

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FIELD NOTEは、日々の暮らしの中でつい見落としがちな、身近な自然の魅力や楽しみ方を発信するマガジンです。
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記事一覧

山とお弁当と、ひとときの静寂|兵庫県・五峰山

ただただ、緑の中で静かに過ごしたい――ぼくはそのために山を歩いているのかもしれない。人けのない、できれば景色の良い場所でランチタイムを過ごしたくて、バックパックに装備を詰め込みコンパスを片手に野山を歩く。そんな小さな幸せを求めて山を訪れる人も少なくないことだろう。 さて、そのランチタイムを簡単に済ますか、はたまた気合を入れて豪華なメニューを用意するかは悩ましいところである。 シングルバーナーやクッカーを用意し、たくさんの食材を持ち込み、はく息が白い季節だったら鍋物がいいし

里山に息づく野生の鼓動|夢の森公園

ぼくの故郷、兵庫県小野市には、県下でも数少ない里山生態系が残されている。青野ヶ原台地の東側にはアカマツ林やコナラ林が生育し、湿地やため池には数々の野鳥や植物、昆虫類が生息する。一帯は「かわい快適の森」として整備されており、その散策道の終点にあるのが夢の森公園だ。 JR河合西駅から西に10分ほど歩くと、夢の森公園の散策道に出合う。寒空のもと、ぼく以外に人の姿はなく、静かな雑木林に聞こえてくるのは落ち葉を踏みしめる音と野鳥の鳴き声だけ。広場を散策し、そのまま10分ほど登れば、夢

冬の陽だまり|小野アルプスの魅力

冷えた冬の空気にそそぐ、日の光が暖かだった。 自転車を鴨池公園にとめ池の周囲を散策する。そうして谷あいの登山道を進み、獣よけのゲートをくぐると、そこが小野アルプス・紅山と惣山の登山口だ。 アルプスと名付けられてこそいるが、小野アルプスは”日本一低い”アルプスである。「白雲谷温泉ゆぴか」から福甸峠までの約8kmの間に、標高100~200mまでの山々が連なり、最高峰の惣山、通称”小野富士”でも標高は198.9mしかないのだ。 ゲートの先を東に進み、惣山へ登ってゆく。登りつめ

お茶セットひとつで広がる癒しのひととき

冬のよく晴れたある日、お気に入りのお茶セットを持って近所の河川敷へと出かけてきた。 そこは、特別な場所でもなんでもない。 ただ目の前に川が流れていて、川の向こうには小野アルプスの山々が連なって見える。緑の上に腰かけ、耳を澄ますと、水鳥の鳴き声や川のせせらぎがゆったりと届いてくる――。 太陽はすでに南の空をとおりすぎ、少しずつ西の空へ沈もうとしていた。 静かに自然の風景を眺めながら、のんびりとお茶の時間を楽しむ。そんなときに持ち出すのがシンプルなお茶セットだ。 その場

平荘湖アルプスの升田山

小野アルプス、加西アルプス、播磨アルプス。ぼくの住む播州地域には、アルプスと名の付く山域がいくつかある。アルプスといっても標高はとても低く、先の3つの中でもっとも標高の高い播磨アルプス・高御位山でさえ304mだ。 標高が低いからと侮るなかれ。山頂や稜線から広がる景色にみな満足すること間違いなしだ。 今回ハイクしてきた平荘湖アルプス・升田山も、山頂から眺める景色は素晴らしいものだった。 * 平荘湖アルプスは兵庫県加古川市にある人造湖「平荘湖」をぐるりと囲う低山だ。升田山

どんなフィールドにも持ち歩く、野山のEDCグッズ

野山に何を持ち出すか――これはアウトドアを楽しむ人の共通の悩みと言えるだろう。ここではぼくのEDCを紹介したい。EDCとはEveryday carryの略のことで、要するに日常的に持ち歩く物のことだ。 ポケットナイフ今日のアウトドアでは、ナイフの出番はあまり多くはないかもしれない。しかし緊急時の備えとして、これだけは外せない道具だ。それに人類最初のこの道具は、使い慣れればフィールドでのさまざまなことに役に立つ。 ぼくはスイスアーミーナイフやガーバーの、軽く丈夫な折り畳みナ

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桜から新緑へ

桜のトンネルをくぐり抜けてみると、地元の良さに改めて気づいた

 この街はつまらない、なんて考えていたのは、ぼくが10代のころだった。  電車は1時間に1本しかないし、徒歩圏内にコンビニはないし、大型のショッピングモールや流行の店があるわけでもない。  ただただ街の真ん中に大きな川が流れていて、青々とした稲が風にゆられている――。兵庫県小野市とは、ぼくにとってこんな街だった。あれから20年以上がたったが、街の様子は今もたいして変わらず、あいも変わらずのどかなものである。  この街に帰ってきて、2度目の春を迎えた。  今、おの桜づつ

ヨモギの薬草茶

 野山を歩いていると色々な香りに出合う。  土や、空気に含まれる湿り気の香り。  獣が残した野生の匂い。  そして木々や野草が発する緑の香り。中でもヨモギの放つ爽やかな香りは、あの草餅をほおばる瞬間の、食欲をそそる清々しい香りとして、多くの人の心に記憶されていることだろう。  そんなヨモギを手軽に利用する方法が、薬草茶である。作り方はとても簡単。  ヨモギの若葉を適量刻む。  刻んだヨモギを急須に入れ、湯を注いで数分待って出来上がり。  薬草茶の淹れ方は様々ある

囲炉裏とソロストーブの共通点とは|これからのエネルギーのことを少しだけ考えた

 現代の暮らしの中で、火のありがたさを実感することは、なかなか難しいことなのかもしれない。ぼくは薪での風呂たきも、かまどでの飯炊きも経験がない世代で、ガスコンロのスイッチをひねれば簡単に火が得られる環境で育ってきた。いや、自宅はオール電化で、そもそも暮らしに火が必要ない家庭も今では珍しくないだろう。そんな現代人が、例えばキャンプやバーベキューで火を起こそうとして、なかなか思うようにいかず、そこで初めて火の尊さを思い知るのである。  少し前、仕事の関係で大内正伸先生宅に泊めさ

山や旅の記録をとる道具

 スマートフォンのカメラ性能は毎年のように進化する。もはや写真は「スマホのカメラで十分」という人も多いことだろう。  一方で、その手軽さからどんどん撮影を重ねた結果、どこで、何を撮った写真だか分からなくなることはないだろうか。もしかしたら撮影したらそれっきり、二度と開かない写真もあるかもしれない。  写真と同じく、山や旅の記録方法も随分と様変わりした。例えば登山なら、山地図アプリでログをとり、写真を添えてSNSに共有するのが、今どきの登山記録の在り方なのかもしれない。

モンベル・トレールワレット|アウトドアにおすすめの小さな三つ折り財布

 山に出かけるときの、悩みのひとつが財布だった。日常に使うような大きな財布を持っていくわけにはいかないし、コンパクトな財布でも使いづらいとストレスになる。ならばいっそ財布を持たなければどうか。  電子マネーで全ての支払いを済ませられるといいのだが、山の施設ではまだまだ現金が主流だ。あれこれ試行錯誤して、たどり着いたのが「mont-bell (モンベル)トレールワレット」である。コンパクトで軽い財布ながら、紙幣や硬貨を使いやすく収納できる点が気に入った。 小さい 軽い

ビクトリノックスの小さなポケットナイフ

 10数年ぶりにポケットナイフを新しくした。  長年の使用に耐えてくれた「ビクトリノックス・トラベラー(現・クライマー)」は既に傷だらけだ。まだまだ現役で使えるのだが、そろそろ買い替えてもいい頃合いだろう。  ぼくが新しく選んだのは同じくビクトリノックスの「エクセルシオール」、旧称スーベニアだ。世界で初めて女性によるエベレスト登頂および七大陸最高峰登頂を果たした田部井 淳子さんが愛用したことで知られる、シンプルなポケットナイフである。  アウトドアナイフと聞くとどのよう

紅葉の京都一周トレイル

 ひんやりとした、秋の爽涼な空気を感じながら、栂ノ尾バス停を出発した。  雨上がりのトレイル。  ぬかるんだ地面にできた水たまりに、1枚の色づいた紅葉が浮かんでいる。昨夜の雨の影響だろうか。清滝川を流れる水が、青白くにごっていた。  栂尾・槙尾・高雄は三尾と呼ばれる、京都を代表する紅葉の名所である。高雄から清滝川沿いに広がる錦雲渓は、清流に映える紅葉が美しい。今日は錦雲渓を伝う京都一周トレイルを、栂ノ尾から嵐山までつなぐ。  水をたっぷりと吸ったコケの緑が目に鮮やかで