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『飴売り具學永』を読んで。

親戚から借りた本を読み終えた。

以前、「関東大震災の後の朝鮮人虐殺事件について」の講演会に連れて行ってくれた親戚だ。

こちらの講演会では、事件の残酷さ、重さについて初めて知ることができた。

その後、事件だけでなく朝鮮の文化などについても興味を持ち、映画の「福田村事件」も観に行った。

こちらの本では、朝鮮の人たちがどのような状況下で亡くなっていかれたのかが、一人の青年の物語を通して描かれている。

表紙。
裏表紙。

表紙には、"唯一人名前・年齢がわかっており、墓もある青年" と書かれている。
諸説あるようだが、"数千人の朝鮮人が虐殺された" というのに。

いかに残酷であったのかが、こちらの文章だけでも想像できるのではないだろうか。


※ここからはネタバレ注意!


主人公のク・ハギョンについては、もちろん全てのことが分かっているわけではないようだ。

そのため、日本に来ることになったきっかけなどは、フィクションとして描かれてある。
フィクションとは言っても、"当時朝鮮から日本に渡っていくことになった一般的な在日朝鮮人の話を取り入れて" 書かれているらしい。

よく、"強制的に連れて来られた" などという表現も聞くが、どうやらそればかりではないらしい。

ク・ハギョンの場合は、"安全に生きることのできる場所を探すため" であったようだ。

元々持っていた土地を奪われた一家が、政府からの監視対象になり、そこに住むことが難しくなった。
そのため、父親の勧めで、日本に行って仕事を見つけ、家族を呼び寄せるつもりだったようだ。

つまり、日本のほうが安全だと信じて、家族のために一人で海を渡ってきた、ということなのだろう。

当時の朝鮮の人たちの思いは分からないが、逆の立場で考えてみると、それだけでも胸が張り裂けるような複雑な思いを抱いていたのではないかと思う。
ク・ハギョンも、海を渡りながら涙を流していたようだ。

そんな彼も、埼玉の寄居村という所で暮らし始め、本の表紙のような笑顔で飴売りをできるまでになったのだ。
彼の明るい性格に惹かれ、彼のことを好ましく思う友人もたくさんいたようだ。

ただ、どんなに素晴らしい人間でも、誰かには嫌われる。
むしろ、そうやって好かれるからこそ誰かからは嫌われる。

彼も例外ではなかったようだ。

こちらに関しては、民族の違いなどなくとも、同じ日本人同士でもあり得ることだ。

そもそも、人間一人一人が違うのだから、民族の違いなど関係ないことなのだろう。

そんな中、起こってしまった大震災。流言飛語。
その流言飛語を、あたかも本当のことであるかのように、戒厳令を出してしまった日本政府。

物語の後半は、「なんで?」「どうして?」の連続だった。

ク・ハギョンに対して、一方的に嫌っていた人物、斉藤が先導して自警団を駆り立てる。
最初は、"暴動を起こしている朝鮮人が大勢押しかける" とのデマを信じてのことだったのかもしれない。

それでも一向にそのような気配はない。

そこで目をつけられたのが警察署だ。
警察署で匿われている朝鮮の人たちだ。

もしかしたら、隣の村などからも自警団を集めてきたものの、何もなく終わらせることなどできなくなっていたのかもしれない。
終わらせる勇気がなかったのかもしれない。

もちろん止めようとする人も居たが、一度燃え上がった炎はそう簡単に消すことはできない。
消そうとしたら、その本人も巻き込まれてしまう。

その結果、 "警察署を襲撃して朝鮮人を虐殺する" という、残酷な事件が起こったのだ。
その中にク・ハギョンも居た。

講演会でのスライド。

上の画像が、もしかしたらその事件の現場だったのかもしれない。
それとも、他にも同じような事件がたくさんあったのだろうか…

文字だけだとあまりピンとこないが、想像すると、あまりにも恐ろしい。

警察ですら自警団から彼らを守ることができなかったのだから、本当に逃げ場などどこにもなかったのだろう。

殺された彼らがその後どうなったのかは分からない。
ただ、少なくともク・ハギョンだけは、友人の菊次郎が遺体を探し出してくれたようだ。
そして今でもお墓が残っているらしい。


「過去に目を閉ざす者は、現在に対してもやはり盲目となる」

かつての西ドイツ、ワイゼッカー大統領の演説より。


こちらの言葉は、ク・ハギョンの物語が始まる前に、"推薦の辞" として、天木直人さんという方が文章に引用されていた。

更に、このようにも書かれていた。

(朝鮮人虐殺事件は、)単なる流言飛語に迷わされた日本人の朝鮮人に対する加害事件ではなく、植民地支配下にあった朝鮮の人たちに対する日本政府と国民の組織的な犯罪であった疑いがある。

推薦の辞より。


自分も、講演会、映画の福田村事件、飴売り具學永…と、様々な媒体でこちらの事件を知って、深く考えさせられた。

加害者である日本だけではなく、被害者である韓国政府も、あまり事件の真相究明には積極的ではないようだ。

もちろん日韓関係を考慮してのことだとは思うが、だからこそ、お互いに目を背けてはいけないのだと自分は思う。

このままだと、どこかに歪みが残ったままになってしまう。


身近すぎる話なってしまうが、ご近所付き合いなどとも似ていると思う。
隣り合う市町村や都道府県などとも同じように思える。


何か問題が起こったとしても、まるで何も無かったように振る舞う…
それでも事実は事実。

必ずどこかで人間同士、憎しみなどの感情が残ってしまうだろう。
メリットなど全く無く、デメリットしかないように思う。

それでも、それは、人間に心があるからこそ。
悔しいことだが、そううまくはいかないのだろう。


ところで、映画「福田村事件」にも出てきた "朝鮮飴" とはどんなお菓子であろうか。

気になったので取り寄せてみた。↓

パッケージ。
開けたら真っ白!(片栗粉?)
フォークで取り出してみた。
一般的な飴とは全然違う。


想像していたのは硬い千歳飴のようなものだったが、実際は柔らかく、弾力があった。

ただ、当時、ク・ハギョンが売っていた朝鮮飴がどのようなものかは分からない。
表紙を見ると、ハサミを持っていて、箱の中身も違って見える。

それでも、映画で見た朝鮮飴とは似ている気がする。

味は、映画で記者の女性が言われていた通り、甘かった。
口の中でふんわり広がるような、やさしい甘さだった。



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