子供時代、悪夢だった1冊の本。今、ページをめくったら・・・
小学3年生か4年生のとき、封印した本がある。泣きながら厳重に。
コナン・ドイル「まだらの紐」だ。児童文学の名探偵ホームズシリーズである。本文の挿絵が怖すぎて、ページがめくれなかった。
あれから何十年と経った今、どうしても封印本の「怖い挿絵」が見たくなった。
◆偕成社の名探偵ホームズシリーズ
残念ながら自分の本はどこを探しても見つからない。そこで古書サイト「日本の古本屋」で、当時発売された「まだらの紐」を入手した。
古い児童書「まだらの紐」、偕成社版。
300ページ超の単行本には、「まだらの紐」の他に「ボスコム谷の惨劇」「悪魔の足」の2編が収録されている。クラシカルなカバー絵が上品だ。ちなみに本文の挿絵は、カバー絵とは別の作家が描いている。
私の「まだらの紐」は従姉妹からのお下がりだった。カバー絵の異国情緒とおぞましさに、ゾクゾクしながら譲り受けたのを思い出す。
◆私はなぜ封印してしまったのか
偕成社版の古本が入手できたのは幸運だった。私の封印本が出てきたとしても、元の挿絵は見られない。なぜならマジックで落書きしてあるからだ。
恐怖の挿絵は小学生女児を脅かすのに十分な迫力があった。思わず「うわっ」と本を投げ出したのを覚えている。このままでは読み進められない。浅知恵の極みというか、怖い絵の上から落書きをして誤魔化した。それだけでは不十分で、二度とその絵を思い起こさないよう、紐でグルグル巻きにして、泣きながら封印した。
その後、この本をどう始末したかは覚えていない。捨てたのか従姉妹が取り戻したのか、行方は依然謎である。
◆最初から読んで挿絵ごと味わおう
物語の顛末は知っている。だからといって挿絵をパラパラめくって確認するだけでは面白くない。あの頃に戻ったつもりでリベンジ読書だ。
児童向けホームズとはいえ、遜色なく読める翻訳に嬉しくなった。ディテールは省略されているが、物語の威厳や緊張感、スリリングな展開は十分だ。児童文学、侮れない。しかも挿絵は冒頭からおどろおどろしい。これは期待できるかも。
出た! このページだ。
白目をむいた女と背景の暗闇……。当時の心霊再現フィルムや心霊写真を思い起こす……。今見ても、割とゾッとするな、これ。いやいや、凄みのある良い挿絵ではないか。
小学生だった私は女の顔を見なくてすむよう、まず消しゴムをかけた。するとぼやけてもっと心霊写真風になり、上からギャグ顔を落書きした。下品なセリフを追加して笑いにしようとしたが誤魔化せず、紐で縛り上げて封印したというわけだ。
◆デジタルで当時の落書きを再現してみる
どんな落書きをしたかは、セリフも含めて覚えている。今は気軽にデジタル加工できるので、記憶を辿って落書きを再現した。
「パンツはくの忘れた」、「ドッキーン」。これが昭和小学生女児の考える低俗セリフだ……。封印本の顔は消しゴムの摩擦で毛羽立ち、ギャグ顔にリメイクしても怖かった。
今、手元にある再入手本「まだらの紐」には、勿論こんなゲスい落書きはしていない。本家本元は恐怖に引きつる表情の挿絵効果により、物語は一層の緊張を迎えるのである。児童書の「まだらの紐」、一気に読了。大満足。
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