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【インクルーシブ・リーダーシップ】多様な部下をマネジメントする管理職の行動(坂爪他, 2020)

今回は、とあるグローバル企業に対して行った、インタビュー調査をもとに編み出された論文を紹介します。

坂爪洋美, 武石恵美子, 松浦民恵, 中川有紀子, & 松原光代. (2020). 多様な部下をマネジメントする管理職の行動―スイス・ドイツのグローバル企業に勤める管理職へのインタビュー調査から. 生涯学習とキャリアデザイン= Lifelong Learning and Career Studies, 17(2), 157-179.

どんな論文?

スイスやドイツのグローバル企業に対するインタビュー調査を通じて、多様な部下をマネジメントする管理職の行動を抽出したものです。

この論文における問題意識は、多くの管理職が「多様な部下をマネジメントして成果を上げるために何をしたらよいのかがわからない」ことです。

その謎を解き明かす一つの方策として、筆者らは、ダイバーシティ・マネジメント先進国であると同時に、生産性も高いといわれるスイス・ドイツのグローバル企業の管理職に対するインタビュー調査を通じて、多様な部下のマネジメントに求められる管理職の捉え方や、行動を明らかにしようとしました

先行研究の調査の中では、これまで来たような、多様性がもとらすプラスやマイナスの影響が、以下の引用のように纏められています。

多様なメンバー間でのコンフリクトが発生するというように、プラスの影響とマイナスの影響の双方をもたらすことを明らかにしている。代表的なプラスの影響としては、創造性の向上以外にも、チームの売上高や生産性、製品の品質や量、 チームイノベーション、チームのパフォーマンスや効率性に対する上司の評価、チームメンバーによる自己評価といった一連の指標の向上があり、一方マイナスの影響としては、職場集団のまとまりを意味する集団凝集性や協働の低下、メンバー間でのコンフリクトの増加がよく知られている (Joshi, Liao, and Roh, 2011)

このような、職場のメンバーの多様性と成果との間に存在する調整変数としては、①戦略、②部門の特徴、③人事施策、④管理職のリーダー シップ、⑤組織風土/組織文化、⑥管理職の個人要因といった 6つが取り上げられることが多い (Guillaume et al., 2017)ようです。

その中でも、この論文は④に着目します。職場のメンバーの多様性と成果との間に存在する調整変数として取り上げられるリーダーシップとしては、

  • 変革型リーダーシップ

  • エンパワメント・ リーダーシップ

  • サーバント・リーダーシップ

  • オーセンティック・リーダーシップ

  • LMX(リーダー メンバー交換理論)

  • インクルーシブ・リーダーシップ

があるようで、その中でも注目されているのが、多様な部下を巻き込むインクルーシブ・リーダーシップ、との紹介がなされています。

また、多様性をもたらす属性の分類を整理したJacson and Joshi(2011)を参照して、以下の表のようにまとめてくれています。(ありがたい!)

P163


どのように調査したのか

スイス・ドイツのグローバル企業5社11名の管理職(9名が課長、2名がその上のクラス)を対象に、以下のようなインタビューを行い、その内容をカテゴリーに分けて整理しています。(特に、分析手法に関する記載はなし)

<インタビュー項目>
■部門の現状 ・ 部門の構成(部門の人員構成ならびに業務内容)・ 部下の働き方の現状(労働時間、休暇取得、柔軟な働き方の現状)
■多様な部下のマネジメント ・ 部下の多様性が高いことに対する評価と効果 ・ 部下個人ならびに部門の目標達成(パフォーマ ンス向上)のために行っていること ・ 多様な部下をマネジメントする上で心掛けていることならびに困難 ・ 部下の育成のために管理職として行っていること、工夫していること
■会社(人事部等)からのダイバーシティ・マネジメント推進に向けた支援 ・ 多様な部下のマネジメントに関して管理職に対する会社(人事部等)からの支援・企業としてダイバーシティ・マネジメントを推進する上での課題

なお、対象となる管理職は、「マネジメントする部下を持つ課長クラス(front-line manager)という条件で依頼を行い、具体的な選定は企業に一任した。」と記載されています。

多様性を活かす管理職の行動とインクルーシブ・リーダーシップ

インタビューの結果、得られた管理職の行動をカテゴリー分けし、それらを、Randel et al.(2018)の整理に基づいたインクルーシブ・リーダーシップに即して整理しています。このILの整理は、インクルージョンの2軸である、「所属感」と「独自性」を高めるリーダーシップ行動として、5つの行動をもとにしています。

P174

感じたこと

過去の多様性と成果の関連性などをレビューし、様々な観点で纏めているため、頭の整理になる論文です。

多様性と成果の間に存在する調整変数として、様々なリーダーシップが取り上げられる中、なぜ、インクルーシブ・リーダーシップに着目したのか
この論文では、そのあたりが特に記載されておらず、気になるところです。

また、5つのIL行動と、今回の調査で見られた多様な部下を持つ管理職の行動は、いくつか重なっているものがあります。これは、IL行動の分類に重複間があるのか、それとも、行動の多義性によるのか。今の整理のままだと、実務目線では少し扱いにくい印象を受けます。

もう一点、気になるのが、インタビュー対象となる管理職の抽出方法です。多様な部下を持つ管理職を各企業に一任したとのことですが、マネジメント行動がうまく行っている管理職なのか、そうでないのかによっても、抽出された行動はお手本にすべきなのか、そうでないのかという捉え方も変わる気がします。
(まずは、多様な部下を持つ管理職の、ありのままを捉えようとしたのかもしれません。)

ただ、先行研究が全般的に丁寧に整理されている点は、刮目に値します。自分のような駆け出しの研究者には、とてもありがたい整理が満載で、整理に役立ちました!


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