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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILは心理的安全性を介して革新的行動を促す!?(Mansoor et al., 2021)

今回の文献も、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)の効果要因について調査したものになります。

Mansoor, A., Farrukh, M., Wu, Y., & Abdul Wahab, S. (2021). Does inclusive leadership incite innovative work behavior?. Human Systems Management, 40(1), 93-102.

ここ数年でかなりの数のIL研究が出てきているのですが、網羅的に見ていくと、似たような概念が調べられていることがわかってきます。心理的安全性や革新的行動も、その1つです。


どんな論文?

この論文は、従業員の革新的行動(Innovative Working Behavior:IWB)に対するILの影響を調べたもので、心理的安全性が両者を媒介することも調査しています。

パキスタンの銀行で働く従業員から収集した217のサンプルをもとに、構造方程式モデリングという統計的手法によって分析されたもので、結果、ILとIWBの間には正の関係が描かれ、心理的安全性の媒介も示されました。

この論文で新しいのは、IL⇔IWBの間に、心理的安全性が介在する、という点です。

つまり、ILが心理的安全性をつくり、その結果、従業員がミスや対人リスクを恐れずに発信できるようになるため、革新的行動も生まれやすくなるのでは、と筆者が仮説を立て、それが示されたことに意義がありそうです。


なぜ、心理的安全だと革新的行動につながる?

この点について、文献をもとに補足したいと思います。以下のようなポイントから、心理的安全→革新的行動、といった関係が説明されています。

  • 心理的安全性は、自分には革新的なアイデアを提示する可能性があることを人々に認識させるのに役立つ。

  • 心理的安全が確保されている従業員は、組織の成功のために前向きな変化を提案するために、経営陣が下した決定の是非について自由に質問を投げかけることができる(Burke et al., 2006)。

  • Janssen(2002)は、IWBはリスクテイクと関係があり、従業員が心理的に安全な環境を見つけられなければ、創造的なアイデアについて発言することは控えられると結論付けている。

  • しかし、支援的なリーダーシップが存在すれば、従業員はそうでないと感じるようになる(Creat, 2009)。

  • 従業員が心理的に安全であれば、ネガティブな結果を恐れることなく発言し、自分自身を表現することができると考えられる。

これらを踏まえ、実際に研究を行った結果、IL→心理的安全性→革新的行動、のパスが有意に認められました(ただし、IL→革新的行動の直接効果も認められたので、「部分媒介」となります)。
著者は以下の通り結果をまとめています。

従業員の新しいアイデアの推進や実行に対するモチベーションの向上は、リーダーとフォロワーの関係の強さに直接関係していることを提案しました。従業員が結果を恐れず、新しいアイデアを実行するリスクを取ることを奨励するためには、リーダーは、従業員が新しいアイデアを実行するために必要な情報を提供する必要がある。

ちなみに、過去の投稿でも、革新的行動に関する別の論文を取り上げていますので、ご関心あればそちらもご覧ください。

また、媒介分析に関して詳しく知りたい方は、こちらのサイトがわかりやすかったです。


感じたこと

IL→心理的安全性、IL→革新的行動、という研究はあっても、この3者をつなぐような研究がなかった、という点に着目し、それらの関係性を実証したという着眼点は参考になりました。

ILがかかわる概念を新たに見つけようと探していても、結構幅広く研究がなされていることに気付くので、「まだ明らかにされていないこと」(=リサーチギャップといいます)を見つけるのに苦労します。

しかし、この研究のように、先行研究で見出されたパスをつなぐとどうなるのか?という視点で概念を整理するのは有効そう、と感じました。

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