【インクルーシブな風土】アイデンティティに配慮した人事管理がインクルーシブな風土を高める(Li et al, 2019)
前回に引き続き、インクルーシブな風土が組織成果にもたらす影響を調査・分析した研究を見ていきます。
どんな論文?
この論文は、オーストラリアの大学教授らによって研究された内容です。
問題視したのは、歴史的に不利な立場にある社会集団の従業員(いわゆるマイノリティ)の方々は、組織がダイバーシティ・マネジメントに関する義務を果たしていると認識する可能性が低く、その結果、組織に対する感情的なコミットメントが減少する、という点です。
「組織がダイバーシティ・マネジメントに関する義務を果たしているという認識」は、Diversity Promise Fulfillmentと紹介されています。Promise、つまり心理的な約束(契約)を組織に対して期待する、という感じです。
この問題解決の糸口として、企業における「アイデンティティ」を意識した人事上の意思決定や取り組み、つまり人事管理が行われて入れば、インクルーシブな風土が従業員に認識され、組織コミットメントに好影響を与える、と考えました。
こうした考えのもと、オーストラリアの100組織・3221名へのアンケート調査を実施した結果、以下の図のように、インクルーシブな風土が、組織コミットメントを媒介する結果が示されました。
ちなみに、アイデンティティ・ブラインド・プログラムというのは、少数派のアイデンティティを考慮せず、多数派と同じ人事管理を行うことを指し、アイデンティティ・コンシャス・プログラムというのは、少数派集団のアイデンティティに考慮した特別な施策を行う人事管理を指します。
この研究から得られる示唆
研究結果から、従業員の組織コミットメントを高めるためには、組織がダイバーシティ・マネジメントに対して期待に沿う施策を個人が認識することが大事で、その認識をつくるためには、インクルーシブな風土をつくること、そのために、アイデンティティに配慮した人事管理の必要性が明らかになりました。
中でも、マイノリティのアイデンティティを意識したプログラムが適切に設計され、適切に実施されることで、従業員や組織の成果がより効果的に促進されることが期待されるというのは、貴重な発見です。しかも、少数派のみならず、社員全体への影響も見られました。
オーストラリアにおいても、この発見事実の有用性がありそうです。以下に該当箇所を引用します。
この研究は、職場に対する認識や取り組みを尋ねる回答と、個人の認識を尋ねる回答の両方を用いる、いわゆるマルチレベルの研究となります。(分析方法が、実は色々と大変です・・・)こうした、組織が行うべき取り組みと、従業員が心理的に感じることを架橋するような取り組みとして、評価に値するものです。以下に、本論文の結論を記載します。
感じたこと
インクルーシブな風土をつくる要因が、アイデンティティに配慮した人事管理にある、というのは興味深いです。
過去の研究で、ダイバーシティ・マネジメントはマイノリティに配慮した考えで、インクルージョンはすべての社員が帰属感と独自性の発揮を目指すもの、とされていますが、今回の研究では、少数派のアイデンティティに配慮した人事管理が、職場のインクルーシブな風土に影響を与えることがわかりました。
これは、会社の取り組みとして、マイノリティに配慮しているということが、結果として、誰も取りこぼさないという組織に対する印象に繋がり、結果として、感情的に会社に対するコミットメントを高める、という解釈もできそうです。
オーストラリアの企業を対象とした論文なので、日本にどこまで当てはまるかという文化差は考慮に入れる必要がありますが、インクルーシブな風土への影響を調べた研究は少ないため、参考になります。
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