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学級通信 #5 - 顔パンツ -
新型コロナウイルスが変えた中学生
顔パンツ
マスクが手放せなかった新型コロナウイルス流行時代の忘れ形見である。
今でも医療機関では、感染予防のため、マスクの着用が義務付けられている。学校においても、新型コロナウイルスが第5類に移行した令和5年5月8日までは、生徒・職員全員が身に付けていた。その後は、本人や家庭の意思に委ねるとし、「着けなさい」とも「外しなさい」とも言えない状況が続いている。
あまりにもマスクに慣れすぎたコロナ禍で、マスクを外して素顔を晒すことを恐れる生徒が現れた。給食時には、マスクの下を引っ張り、そこに生じたすき間からちぎったパンを食べる。マスクを外さずに体育に参加した結果、熱中症になる。
なぜそこまで頑なにマスクを外そうとしないのか。
私は、ルッキズムが関係していると推測する。
ルッキズムとは、外見や容姿に基づいて人を判断したり、差別したりする思想や社会現象のことである。
友達と思い出写真を撮る際には、フィルターが欠かせない。
マスクを着用した状態が美しく見える人を『マスク美人』と呼ぶらしい。
男性にいたっては、色白で、一重か奥二重のすっきりとした目元、鼻が高く輪郭がシャープのあっさりした容姿を「塩顔」と呼ぶ。
派生語に「しょうゆ顔」や「マヨネーズ顔」もあるらしい。
まさか『ケッチャプ顔はないだろ~。』と半信半疑で検索したら…なんとあった!「ソース顔」ほど濃くなく、「しょうゆ顔」ほど薄くない顔立ちのことらしい。
さすがに「タバスコ顔」はないらしいが、あったとしたらどのような顔なのだろう…。英語で"hot"は辛いや暑い以外に、「イケてる」という意味がある。だとしたら、日米共通の調味料顔の最上級は「タバスコ顔」なのでは???とも思う。
話が逸れたが、現代の日本では、特に「目が二重」「目が大きい」「顔が小さい」が整った顔の条件になっている。私が中学生だった20年弱前も、一重の友人が、毎日一生懸命、アイプチでまぶたの線を書き足していた。その後、彼女は、高校卒業後に美容整形によって念願の二重まぶたを入手していた。
中学生でも、美容整形を施術する子どももいる。もちろん未成年なので、親の同意書が必要であるが、飽くなき美への追求が早熟化している。
一時期、美容整形はコンプレックス産業の代表格だったが、今や大手美容整形クリニックには「青春二重術」なる学割も存在する。
整形に関する賛成・反対議論が、以前よりかは白熱しているように感じないのは、単に関心がなくなったからなのか、はたまた、お金でコンプレックスが解消できるのならいいのでは?という結論に至ったからなのかは定かではない。それでも、美容医療のトラブルは後を絶たないので、気を付けたいところである。
ところ変われば「美」の価値観も変わる。
顔の小ささや鼻の高さが、さほど「美」の基準には影響のない国もある。なんだったら、まぶたが一重か二重かなんかは気にも留められないくらいらしい。
唯一マスクから見えている「目」。アイプチやら二重整形やら、日本はどうも、「目」にこだわる国のようだ。顔文字にもそれが表れている。
日本 (^-^) (°Д°) (>_<)
海外 :) :( XD
海外は「口」で表情を作るが、日本はとかく「目元」で気持ちを表現しようとすり。
(かつてメールで自分の感情を伝える補助役を担った顔文字だが、今では『おじさん構文』と揶揄されてしまうので要注意)
同じ場所でも時代が変われば、「美」の価値観もまた変わる。
平安美人は、しもぶくれ、細い目、太い眉毛、おちょぼ口、とがった小さな鼻、ふっくらした扁平顔、サラサラの長い髪、白い肌が絶対条件だったという。特に顔面のパーツに関しては、現代とはまるで正反対である。
江戸時代の浮世絵師、菱川師宣の代表作『見返り美人』。このモデルが現代に降臨したら、『#見返りブス』とタグ付けされて拡散されそう。
最近『かわいいだけじゃだめですか?』という歌をショート動画やらなんやらでよく耳にする。「当たり前だろ!!」と心の中で合いの手を入れているが、それはそれとして、ルッキズムを象徴するような曲だなーと思う。
かわいい・かわいくない・イケメン・ブサイク云々はともかくとして、清潔感だけはあった方がいいと思う。ルッキズムの呪縛。いつまで続くのやら。
第5号の学級通信は、コロナ禍に作成したものだ。
やれ検温、やれ健康観察カード、加えて濃厚接触?出席停止扱い?あの頃のカオスに比べて、比較的穏やかにはなったものの、感染対策としてではなく、周囲の視線や自身の容姿を気にして、綿製マスクが酸素マスクになっている中学生。コロナ禍の影響は未だに尾を引いている。誰もが自分らしく生きる社会にはほど遠い。
個性を認める教育が進み、いつかマスクの呪縛から解き放たれる日を願って。
どこかの誰かの何かの足しになりますように。