レモンマンまちがえちゃった「掌の童話」 1
その日僕は、しょげていた。
僕が徒競走で負けるなんてことは絶対にありえない。
四年生全体で、学校全体で一番足が速いんだ。
日本中の小学校と競争しても負けやしないって信じてた。
それでも負けたんだ。
これは陳腐な話なんだろうけれど、今日の運動会のことを考えながらだから足が重い。
トボトボ・・・・・・って、こんなんだろうなって思いながら一人で家に帰っていると、
「ねえ、ちょっと、速田君」
僕を呼ぶ声がした。
―誰だ?―
僕の家は小高い丘の上の団地にある。
団地に登る近道は雑木林を抜けるようになっていて人通りが少ない。
「不審者に気をつけなさいよ」って、お母さんから耳にたこができるほど注意されている。
そろそろ、日が翳ってきていた。
蝉の声と秋の虫の声が聞こえる。
振り向いたら案の定、おかしなやつが立っていた。
―ゲゲッ! なんだ、こいつ?―
あまりに驚いたんで声も出なかった。
それに、きょうの運動会のショックがあったから、自慢の足で駆け出すこともできなかった。
「きょうは運動会だったんだよね?」
そいつは勝手に話しかけてきた。
「天気もいいし、絶好調だった。四年生の選抜リレー。青組のアンカーだった。みんな君には一目置いている。勉強は苦手だけど、運動会では誰にも負けたことがなかったものね」
その通り、きょうは僕が通っている学校の運動会だった。
そして僕は四年生の選抜リレーのアンカーだった。
「みんなが注目していた。きょうはスターだったはず、だよね?」
<続く>
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