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レモンマンまちがえちゃった「掌の童話」 2

僕がきょうのリレーでバトンを受けたのは六組中、三番目。

先頭から三メートくらい。

絶好の位置だった。

途中の直線コースで一人追い抜いて、カーブも無事駆け抜けた。

ゴールの白いテープが見えたときには先頭のランナーが手の届きそうな位置にいた。

「追い抜ける! そう確信したときだよね、君の体が思いっ切り前になげだされたのは。地面の上をゴロゴロ転がって、正面のテントの手前で止まったのは。君の脳裏には、その瞬間の空の青さがいやに鮮やかに残っているだろう?」

―こいつ、どこかで観てたのか?―

そいつは、ニッ、と笑って続けた。

「陳腐だねえ。よくあることだよ。よくある運動会の風景だ」

確かにその通りだけど、油断してたんだ。

僕の予想していなかったことが起きてしまった。

ゴールが見えたとき、下級生の男の子がゴールテープを持って、僕の走るレーンの前に飛び出てきたんだ。

そして、こけたんだ。

すぐに起き上がってゴールしたけど、ビリから二番目だった。

手も足も、シャツもズボンも、ドロだらけだった。


こいつが現れたとき、僕がどんなまぬけな顔をしていたか、自分ではわからないけど、こいつ、会った人にはいつも絶対に驚かれているはずだ。

当たり前のことを聞いてきた。

「突然で驚いたかい?」

―(本当に)当たり前だよ!―

・・・・・・まだ声がでない・・・・・・

「怖がらなくていいよ」

―そんなわけにはいかない―

だって変だ!

顔はレモンだ!

その上チョンマゲだ! 

殿様チョンマゲだ!

目と鼻と口は豆粒みたいに小さくて、申し訳程度に付いているだけだ。

着ているものだって、㋹のマークが胸に付いた水色のウェット・スーツみたいなのだ。

おまけに紺色のマントまで着けている。

―驚くな、っていうのが無理だろう!―

<続く>

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