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(9) 国連軍ー考察の情報提供で、 人々が地球連邦軍設立を想像する ?

ウクライナ侵攻終結の式典に、当時の国連事務総長だったモリが事務総長の名代として参加していた。ロシア連邦からロシア共和国に体制変更して15年にあたり、連邦時代は外相、副外相だったセルゲイ首相、アルテイシア外相も侵略、加害者側として参列している。2人は侵攻前に役職を解任させられたので、声高に非難される事はなかったが、それでもロシア人に対する怨嗟の声は根強く残っている。周囲からの視線はキツイものがあるが、耐え忍ぶ義務が2人にはある。
また、現職の事務総長がキプロス島では暗殺対象となった。未遂に終わり事なきを得たとは言え、嘗ては双方の兵士、民間人に死傷者が出た紛争の式典に、イギリスの代表者がNATO側の一員として参列しており、警備上の観点からも出席は避ける判断をしたようだ。当時の国連事務総長がベネズエラ大統領として出席を予定していたので、名代とする方向で纏まったらしい。
モリの隣にはロシア首相と、その逆にはプルシアンブルー欧州本社社長のゴードン・サムスナーが居る。会長のサミアの夫、ゴードンと知り合ってから40年経ち、昨日痛飲した二日酔いで痛い頭を時折もみながら、顔だけは神妙な趣で二人は臨んでいた。
侵攻が始まる前夜は、軍事大国同士の茶番劇を見ているかのようだった。ロシア軍がウクライナ国境に「演習」を名目として大部隊を派遣した事で、問題が顕在化する。日本政府は即座に非難の声を上げた。軍隊を派遣した事も然ることながら、日本が所有権を得たロシア側の農場に布陣したので、「ウチの農場を荒らすな!」と当時の金森首相が中指を立てて抗議した。農地保護を理由に、自衛隊の派遣を国会内で議論を始めたのも、当時のセルゲイ外相から「マズい状況にある」と連絡が届いていたからだ。 しかし、ロシアが「演習」だと公言している以上、派兵は出来っこないという声が大勢を占め、協議は最初から難航した。      
 ロシア軍の動きを警戒したウクライナは、NATO軍に交戦の準備を説き続けていたが、EU、NATOへの加盟を持ちかけておきながら、加盟・加入に到っていないウクライナに対し、欧米は再び二枚舌外交を始める。お約束の定番、ダブルスタンダードだ。ロシアの派兵で緊急度の高まった状況下では急にトーンダウンして、後ろ向きの姿勢となる。NATOに守ってもらいたい一心のウクライナと、加盟を前提とした支援は出来ないと突き放すNATOの間で、話は平行線を辿る。そもそも、NATO・EU加盟を前提にして交渉を重ねていた両者のプロセス自体を、ロシア首脳部が面白く思わなかったのが全ての発端となった。軍隊を進軍させて、両者の動きがどう出てくるのか、ロシアが知りたかった部分もあるだろうが、「鶏が先か卵が先か」の論争が両陣営の緩衝地域で起きてしまった格好だ。ロシアとNATO側で事前協議もしないまま、EU側がウクライナの帰属先の鞍替え希望案を支援してしまったのが反省点だろう。ロシアがどんな反応をするか見誤っていたと判断せざるを得ない。 境界地の国家元首でありながら、地政学に不慣れだった俳優出身大統領が率いるウクライナ政府を窘める訳でもなく、民主主義を持ち出して受入れて、ロシア側の出方を軽視したNATO陣営にも責任は少なからずある。  結果的にウクライナの嘗ての宗主国ロシアは、武力制圧の姿勢を次第に露わにしてゆく。         対峙する相手が一定の軍事力を持っていると急に弱腰になるアメリカは、アフガンのタリバンに敗れた後だっただけに「第三次大戦、核戦争になりかねない」と言い出し始めて態度を豹変する。アメリカの背後で遠吠えしているだけのNATO内の欧州国も、アメリカの言い分に追従するしかない。アメリカ抜きでロシアに対峙する度量も無かった。                  土壇場で梯子を外された、地政学に不慣れなウクライナは、針の筵状態に追い込まれてゆく。ウクライナ以外のロシアの周辺国が、アメリカ陣営の脆弱性に改めて気付いた教訓となったのが、この時の唯一の収穫だろうか。

日本が公的資金を投じて両国の国境部に農地を獲得したのは、単純に食料自給率を補う為だ。日露間で北方領土返還と平和条約の締結を協議していた際、補完プランの一つとなった。「日本はロシア・ウクライナ間の緩衝役になる」といった名目も掲げて、耕作放棄地を次々と購入し獲得していった経緯がある。小麦を始めとする作物の収穫を確認してからロシアは国境を越えて進軍する。「農地を荒らしたので、整地費用は後で支払う」とロシアから一方的に通達してきた。金森首相が中指を立てたのはこの時だ。     
この頃、日本の盟友であるセルゲイ外相、アルテイシア副外相がいよいよ更迭されそうだとの連絡を受けて、日本政府とモリは動き出す。      
イラク、シリアに展開中の国連軍向けの自衛隊の無人航空部隊を、ウクライナに移動させる交渉をウクライナ政府と秘密裏に調整していた。プルシアンブルー社の欧州本社がキエフにあり、国境周辺の農地管理を日本政府から委託され、航空機製造工場、造船所、自動車組み立て工場、ソフト開発事業と同社のデータセンター、そして製パン工場がオデッサに集中していたので、社長のゴードンがウクライナの日本大使と共に、ウクライナ政府と交渉に当たっていた。

 自衛隊が海外派遣に出る方法として、当時も今も2つしか実例が無い。国連軍にAI無人兵器を主力とする部隊を送るか、アメリカが主導する連合軍に平和維持活動名目で参加するかしかない。ロシアが国境を越える予兆をセルゲイ、アルテイシアルートで連絡を受け取るか、偵察衛星と将校の盗聴で自衛隊が把握次第、ウクライナに急行する段取りを講じる。   
イラク、シリア国境に居るIS掃討作戦に漏れが出てはいけないので、倍以上の兵力を日本とビルマから派遣する体制も整える。最悪のケースとして、安保理の開催を待たずして、事務総長の独断で国連軍として自衛隊に出撃命令を出す覚悟を決めていた。

イラク、シリアに派遣されている航空戦力、陸戦部隊だけでは、ロシアの戦車隊の動きを初動だけで封じるのは、絶対的に足りず、不可能だった。それだけの規模の戦車と陸戦部隊をロシアは国境沿いに展開させていた。モリは事務総長として何度かロシア入りし、大統領の顔色を探り、国境を訪れる。ウクライナ側の日本政府の農地を訪れ、ロシア軍の大部隊を眺めながら、あーでもない、こーでもないと策を講じていた。

先ずは進軍の阻止が最優先なのだが、自衛隊内に発足したばかりの諜報部隊のレポートは、旗色の悪い内容で埋め尽くされていた。ロシア側の威嚇でもあり、その上、演習目的で派遣するような規模では無いのも明白で、弾薬数も燃料も、輸送量は明らかに戦時を見据えた規模になっていた。
ウクライナの裏に陣取る、NATO陣営に対する牽制の意味合いもあった。開戦前、開戦直後、欧米各国の首脳はプーチンの御用聞きの様にロシア訪問を続けていただけで、彼らにはプーチンを説得するだけの材料も手段も、何一つとして手元に持っていなかった。ただプーチンとの議論が平行線をたどるばかりとなり、戦時を見据えた対ウクライナ支援を想定し、周辺国での難民受け入れ体制とウクライナへの武器提供手段を内々で協議を交わしてゆく。ロシアの侵攻後は「民主主義を断固として守り抜く」と漠然とした物言いだけで済ませてしまう。  一国が生贄のように晒され、その背後から、励ましの声と共に援助物資を送るだけとなる。中世の地方豪族が大国に蹂躙される様を遠巻きに見ている周辺豪族に、EU、NATOは成り下がった。西側諸国の首脳が「民主主義」を口にする度に、薄っぺらい言葉になっていった。

クリミア侵攻時の短期間での制圧の経験則から、今回も短期でウクライナ南部を併合出来る自信がロシアにはあったのだろう。対話している双方の言い分が、和平願望と実力行使といった、全く異なる視点を掲げて相対しているので、話はいつまでも平行線を辿るだけだった。

NATO陣営が揃いも揃って対ロシアで及び腰となり、国連事務総長が同じ場へ出て交渉を求めても、ロシア側から軽んじられているのも分かってはいた。最大の懸念であるNATOが部隊を動かさない、動けないとロシアは分析していた。平和維持活動が大前提の国連軍と自衛隊には、万に一つでも派遣の可能性は無いと見切っていたのだろう。                   「黒海が封鎖される前に、ペイント弾やウクライナ軍向けの弾薬類、医療物資、そして燃料がオデッサの工場倉庫に格納出来たのは大きかった。あれが無かったらと思うと、今でもゾッとするよ」欧州社長のゴードンは今でこそ笑っているが、それこそ不眠不休でやつれ切った表情だったのを思い出す。ロシアも欧米各国も、まさかプルシアンブルー社が大量の物資を集めているとは、誰も気付かなかった。日本と国連の介入は完全にノーマークだったのだろう。          
結果的に事務総長がカラ手形を切って、自衛隊の無人部隊が国連軍として参戦する。参戦と言っても、航空自衛隊機と自衛隊の陸戦部隊が放つ弾はペイント弾であり、実弾は橋を壊し、ロシア陸軍が進行する街道に穴を開ける、限定的な軍事介入だった。実際には、オデッサに備蓄していた膨大な弾薬をウクライナ軍に提供していた。本来、自衛隊的には弾薬供与自体もNGで、ウクライナ軍との共同戦線など到底、構築はできない。それでも国連軍として自衛隊の偵察衛星を使い、戦力分析情報をウクライナに提供し、ウクライナ軍と作戦立案を行い、ウクライナ軍の手薄な場ではロシア軍の航空機、戦車、車両にペイント弾を当て続けて、進軍を食い止める立場を徹底していた。しかし、次第に損壊、破壊されるケースも増えてゆく。ドローンや無人機、そしてバギータイプのロボットが何機も落とされ、何体も破壊されたが、実数を把握したくない程の損失が出始めると、自衛隊も流石に方向転換を計る。    

ロシアが市街地へミサイルを放ち、民間人を虐待・虐殺するようになると、自衛隊はウクライナ軍との連携策を取るようになってゆく。無人機が上空から哨戒活動を行い、ロシア側の戦車や装甲車などの車両を見つけると、ウクライナ軍へ座標情報、映像などを含めて提供する。通過する街にバギーロボットが居れば、ロシアの車両を狙撃して、キャタピラーやタイヤを破壊して、進軍の勢いを止め、行動不能に追い込んだ。
路上で修理、停滞している車両をウクライナ空軍が爆撃し、確実に仕留めてゆく方法に転じていった。捜索活動を請け負い、行動不能状態に自衛隊が追い込み、ウクライナ軍が最後に鉄槌を下して戦果とする。分業体制を取るようになってから、効果を上げていくようになる。
やがて、NATOからの武器弾薬提供が本格化し、それにかこつけて自衛隊も国連軍として悪ノリしてゆく。早期の紛争終結が何よりも求められるからだ。紛争が生じて3ヶ月続いたあたりから、相手戦車のキャタピラ部をより破壊力のある実弾を放って破壊し、再生不能にしていった。自衛隊の無人機は相手のコクピットの風防ガラスもしくはアクリルをペイント弾で青く染めて、ロシアパイロットの視界を妨げる。操縦困難と判断したロシア人は機体を捨てて脱出する。ウクライナ空軍の戦闘機不足を「ロシアのパイロットが、やむなく機体を放棄した」形で、支援していった。           
バギーロボットの狙撃情報が集まってくると、AI上の射撃能力が日々更新されて、精度が高まっていゆく。プルシアンブルー社の経営陣も、モリも、人型ロボットの開発にさらに乗り出してゆく。「兵器産業が工業化に貢献する」こいつは真実かもしれない、この時初めて、そう実感した。
ロシア陣営とNATOは共に核兵器を所有しているので、核の抑止力の論理が働く。    
とは言え、隣国同士の争いなので核の利用後の批判は半永久的なものとなる可能性が高い。プーチンは小型核兵器の戦術核の利用をチラつかせながら、往年の大戦のような古風な戦闘スタイルに固執し、多くの車両と陸兵を動員してきた。第2次大戦、ベトナム、朝鮮戦争の映画を見ているかのような交戦風景をバギーロボットとグライダー、ドローン等の無人機がが撮影し、記録に纏めていた。                     ロシアの航空戦力と陸戦能力を自衛隊のAI兵器で凌駕しながら、モリは旗色が悪くなりつつあるクレムリンに日参し、ロシア経済のロシア軍の喪失内容をレポートとして提供し、メディアに公表した。 開戦から半年程経過して、ロシアの通常兵器の大半が稼働できない、もしくは必要な兵器量が揃わない実態と、交戦継続不可である現実が世界中に公開され、停戦、休戦に向けた協議が始まってゆく。    
ーーー                     キエフの広場に設けられた演台にモリが立つと、大きな歓声が上がる。安保理から後に糾弾され、事務総長の職を解任される寸前まで行きながら、ウクライナを侵攻から守った人物として、毎年のように招待されている。 今回は事務総長の文章を代読するだけなのだが、「私がこの場に立つよりも、前前任が居る方がウクライナの皆さんはよっぽど嬉しいでしょう?」という一文をモリは故意に読み飛ばし、後で国連から指摘され、事務総長直筆の文面が全て公開される。   

ウクライナ大統領もあれから何代も代わり、当時の閣僚経験者は誰もいなくなってしまったが、あの時の国連憲章違反とも言える一連の騒動が、「自前の戦闘力を持つ」という発想のきっかけとなった。
式典終了後、ウクライナのメディアの単独インタビューに応じたモリは、「月面基地に滞在する各国の軍関係者を束ねるのは、国連軍であるのが望ましいと考えるようになりました。国連軍が宇宙空間でも平和維持活動を行うのです。例え、月面で紛争が生じたとしても、場を収束出来うる軍事力を、国連は備えるべきです」 
宇宙での防衛活動を国連軍に担わせる話題を取り上げる事で、地球連邦軍の土台となる国連軍の存在を世界に認めさせる。宇宙という新たなフィールドを国連軍に委ねて、既成事実の積み上げをしてゆく。
「煙幕を撒き散らして、事の本質を見失なわせる」そんなトリック手法を、モリが使いはじめた。
 ーーーー                       台湾、北朝鮮資本のパシフックバンク社の欧州支社に着任したばかりの趙飛燕 欧州社長と、ドイツ製鉄大手のティッセンクルップ(TC)社のモリ・アユム 会長がブリュッセルのホテルの一室で地元地銀の頭取を挟んで座り、記者会見を行っていた。           
ホテルの中に入っている王室御用達店の菓子と飲料が、記者、カメラマンに振る舞われ、地銀の頭取の満面の笑みと共に、明るい会見場となっていた。パシフィックバンクとTC社が共同出資して、ベルギー・ブリュッセルに拠点を構える大手地銀 バシュメット・バンク社をパシフィックバンクの傘下に収めるという趣旨で、ベルギーとドイツ、そして欧州社長を排出した台湾と何故かイタリアで大々的に取り上げられるニュースとなった。
TC社のメインバンクだった日本のプルシアンブルーバンク、ベネズエラのレッドスターバンクから、パシフィックバンク社の系列銀行となる同地銀が今後はメインバンクになるという顛末が、衝撃となったかもしれない。
ベルギーのみならず欧州の金融界と、ドイツの産業界では、「地銀が欧州の巨大鉄鋼メーカーのメインバンクになった」と話題になる。世界を代表する巨大バンクから地方銀行への変更という前代未聞の状況に、TC社が金融業へ進出するのではないかと先読みする向きもある。この記者会見の数時間後に、イタリアの産業界も湧くことになる。イタリアのセメント大手のイタル社もレッドスターバンクとの取引を止めて、イタリアの某地銀をメインバンクにする契約をパシフィックバンクと共に結ぼうとしていると、同社HPのニュースリリースに投稿された。         

翌日、パシフィックバンクの広報が残っているのは契約行為だけで、イタル社のヴェロニカ柳井会長が日本からイタリアへ帰国次第、三社間で契約締結すると言う。

アジア・南太平洋の金融機関として産声を上げたばかりのパシフィックバンクが、半年を経たずして欧州に進出する。プルシアンブルーバンクとレッドスターバンクが業務提携レベルに留めていたのとは対象的に、地銀を傘下に収める方向性を打ち出してきた。単なる企業買収ではなく、ドイツとイタリアの老舗大手企業のメインバンクとしてのポジション込みの資本参加なので、地銀の取扱額の規模が従来比で倍以上となり、経営が一気に好転するのが目新しい点といえる。頭取が終始喜んでいる理由が、脱地銀、有力バンクへの昇格が確実視されるからだ。          
こんなウルトラCが出来るのも、投資対象となった地銀に出資する3社がモリ家の関係者が長を努めているからでもある。欧州全体でもトップテンに入る売上規模を誇る企業が選んだ金融機関として、ネームバリューも信用力も自ずと高くなる。TC社のモリ・アユムは、ドイツの有力地銀とも資本提携の交渉を重ねているとブリュッセルでの会見場で認め、パシフィックバンクの張飛燕は、ドイツだけでなく欧州全体への進出を考えていると野心を露わにした。           

パシフィックバンクの傘下入りに同意した地銀は将来の成功が約束されている、として株価が上昇する。ブリュッセルはEUの本拠地なので状況は異なるが、ドイツの地銀もイタリアの地銀も、ティッセンクルップ社とイタル社の本社がある都市の銀行なので、各国の首都や大都市を基盤とする地銀を傘下にしながら金融機関として拡大をしてゆくだろうと邪推される。パシフィックバンクの出資者でもあるプルシアンブルーバンクとレッドスターバンクが日本と中南米での事業拡大時に取った手法を、パシフィックバンクは欧州の地で踏襲するのではないかと誰もが想像する。ベルリン、ミュンヘン、ローマ、ミラノを基盤とする地銀の株価まで期待値から上昇する程だった。   
また、会見場となったホテルではベルギー王室御用達ブランドの菓子と柳井ファームのコーヒーが記者達に振る舞われたが、何故か王室御用達ブランドのパンとチョコレートの日本製の新製品の試食も会見場の前のホールで行われていた。会見の前後の時間で記者達がお約束のように騒ぎ出す。市販の電子レンジでその場でパンを焼いて振舞い、日本の砂糖「和三盆糖」とベネズエラのカカオがベースとなったチョコレートが王室ブランドの格調を高める。ベルギー内の各店舗で日本製の新商品として販売を始めており、売り切れの新商品になっているのだという。        

日本の工場での生産の模様も小型のモニターで紹介される。製造ラインには先日、プルシアンブルー社がダウンサイジングした陸兵ロボット「バルバドス」を発表したが、同じロボットが製造ラインに立ち並び、作業に従事している。    

「このパン工場ではロボットが製造を24時間体制で製造しています。クッキー、チョコレートも同様です」とモニター画像にテロップが出る。  プルシアンブルー社のロボット「Nakedシリーズ」だった。ボディは陸兵ロボ、バルバドスと同じだが、実装するAIがパン製造用途のAIで動くので、AI自体も簡易なものが使われている。このパンが特殊フィルムで梱包されて、ベルギー、欧州に向けて1時間で到着する。 人件費を抑えられるので生産コストは安く済み、日本の空輸便は早くて安いので、ベルギー店頭での価格もベルギー製品並みに抑えられる。「この値段でいいのか?」という反応が記者たちから返ってくる。パン製造の映像だけで、「メイドインジャパン製品の強み」を誰もが想像する。

「モリの子息達が結束して、動き始めた」「30を越えた兄弟達が選手引退後のプランを描き始めたのではないか」といった記事が、サッカーメディア、スポーツメディアでも取り上げられ話題となる。何しろ、杜家の子息が居を構える欧州がフィールドになる。各国のトップクラブの主力選手で知名度はある。その一人、ブリュッセルの英雄となった弟のモリ・カイトが日本で国王から勲章を貰い、ブリュッセル市からは国王御用達ブランドの日本国内の販売権を得たと知っている。日本の工場で製造したという新商品である食品は、興味本位で手にとって、誰もが一口食べて罠にハマる代物だった。日本からの輸送機が毎日のように欧州の主要空港に到着する日も、そう遠い先の話ではないだろう。
 
ドイツ、イタリア、スペインでシーズン開始前のプレマッチで、日本で試合に出てコンディションを維持しているモリ兄弟が普通に躍動し、結果を出してゆく。サッカーメディアが速報記事とゴールシーンをアップして報じると、各クラブの本拠地にある、モリ兄弟が経営する衣料品店や飲食店の売上が上がる。店内では新たにレンタル配備された「Naked」が甲斐甲斐しいまでの動きで客に応対する。「ロボットが店員」という真新しさもウケるポイントとなる。         

年間を通じて体のキレを維持するための医療スタッフ役、各選手が事業家の顔を持っていながら、トレーニングを減らさないトレーナー役、日々の医療情報、体調情報から食事メニューを考案する調理役を一体のロボットが全てこなし、それぞれの選手に付き添っている。道路交通法が改定されて許容されれば、ドライバーもこなす。  

5年に渡る個々の選手の情報が蓄積されているが故の、サポート内容とも言える。30を過ぎたモリ兄弟はキーパー以外のポジションをこなせるのだが、その理由の一つが、サポート役のロボットの存在であり、AIにあるのは間違いないと、各サッカーメディアが断定する。 モリ・アユムが始めて、兄弟間に浸透した「オールラウンダー」は、選手寿命を伸ばす効果も得られる上に、喜ぶのは選手よりも所属クラブであり、監督だった。
試合中の選手交代枠は5人と限られているので、試合相手に応じて可変的な対応を考えて臨むのが通例となっているが、どのポジションでも無難にこなす選手がチーム内に居るだけで、戦術と選択肢に更に幅が出る。重宝がられるのも当然かもしれない。杜家、柳井家の人々がオーナーを務めるクラブ・チームでは既にロボットが使われているが、Nakedも従来型のロボットと同じように、選手のマッサージもすれば、練習相手にもなるので、足が交錯するなどの接触時に怪我をしないように頭部以外はラバーを纏っている。唯一、コーナーキックやセットプレーの練習だけは動作を止める。ジャンプした際にロボットの頭とぶつかるのは、非常に危険なので。
また、このタイミングに合わせて、プルシアンブルーグループ企業の流通部門と建設部門でも「Naked」が登場する。          

バルバドスの名前で陸兵ロボとしてニュースリリースをしておきながら、同じ筐体で別用途のロボットをコンビニ、スーパー、デパート、様々な建設現場で一斉に稼働させている。介護や医療補助、バストラック、電車のドライバー等の職種ではヒト並みの思考力が求められるので、エリカやサクラの万能型のロボットが使われるが、一定の技能を備え、マニュアル通りに業務をこなす分には、ダウンサイジング型ロボットに業務を委ねる「効率化」を計り出した。メディアからの取材に対し、プルシアンブルー社の広報は「まだ、テスト運用の段階です」と回答したが、昨年から様々な場でテストを行っていたと、人々からの投稿で、実は本運用なのだと解釈される。ロボットを様々な場で見かけるのは、日本、北朝鮮、ベネズエラでは当たり前の光景だが、ウクライナにあるプルシアンブルー社の欧州本社は、Nakedのレンタル事業を欧州でも始めるとニュースリリースを出し、問い合わせが殺到する。  

事業家、サッカー選手として成功を収めているモリの子息達が、事業を制限することなく拡大の意向を明確に掲げて見せる。親の看板と資金に頼ることなく、自分達が起こした事業で徒党を組んで行動を始めた。彼らの父親が自分達が立ち上げた政党や政府に対しても、大臣、議員、社員、省庁に対しても、個人には自立を求め、部門には独立採算を強いるようなトップなので、子息であろうが、独善独歩の基準が自然と身に付いているのかもしれない。父親のモリには自前の金融機関を手にしてから、経営者として無双を始めた経緯がある。 
子息達も金融業へ触手を伸ばしたので、何かしらのプランを秘めているのかもしれないと、あらぬ期待を抱いてしまう。子息達は 必ずしも父親のアプローチや手段を踏襲しようとは考えていないのだが。       

パシフィックバンクを核にした欧州進出の報に接して、身内、特に母親達から問題視する声が上がり始める。放任主義の父親が状況を一切把握していないのは当然とは言え、兄弟間、養女間だけで物事を決め、話を進めるのはオカシイでしょうと母親達が子供たちに噛み付く。 親達だけでなく、日本政府関係者も一般の人々と同じように報道で初めて状況を知る。  
ドイツやイタリアレベルで話がクローズする分には、まだ良いのだが、そこに日本のプルシアンブルー・グループが何らかの形で絡むと、同社の資本を所有し、大株主でもある与党が「知りませんでした」とは言えない。 今後、欧州各国で金融機関を傘下に加えようものなら、金融機関が属する各国とも協議する時間も必要となる。どうせ、各国のメガバンクのシェアを奪っていくつもりなのだろうし、各国政府から見れば、自国の金融業を荒らしかねないパシフィックバンクの進出は歓迎しないだろう。平成の日本政府であれば、叩き潰していたかもしれない。「日本だって、メガバンクと電力会社と経団連を破壊したじゃないか」と言われれば、言い返せないのだが。
プルシアンブルー社が純然たる民間企業であれば良いのだが、半官半民企業なので、国際協調は避けることが出来ない。          

最近は大統領秘書官であり、養女の杏がベネズエラ大統領府に居るので、兄弟間、養女間の計画、そして何よりも父親の行動をそれとなく把握出来たが、杏がアジアに大使として赴任するとなると、「連絡係」という名の監視役が居なくなる。監視役の不在は連合を組む上で双方にとって好ましくない。連絡係は必要だと日本政府内で意見が一致して、候補者の選考・擁立が始まろうとしていた。                 
ーーー                     結局、自選、立候補でことが決し、周囲も承認して決まったらしい。         
「内閣改造を早々に計画中。貴殿を日本国政府顧問職から解き、その代わりに与党幹事長職を解任する柳井純子を日本政府の顧問とし、ベネズエラ大統領府へ派遣する。相応の役職で柳井氏を迎え入れて欲しい」とモリ・ホタル官房長官名義で、金森鮎から家族内連絡網で連絡が届く。    

「驚きました。後任の幹事長は誰がやるんですか?」 子供達が欧州で事業拡大策に打って出たので、母親達が動揺しているのは知っていた。 

「子供達が日本に帰ってこないかもしれない」という漠然とした不安があるのだろう、とモリは見ていた。 「里子さんが幹事長になって、私が外相になって、太朗ちゃんが官房長官に復帰」と鮎からの返信が帰って来る。 プライベート通信だが、政府間連絡文書以上のセキュリティ対策が施されている。 

隣で果物を食べていた杏がタブレットを覗く。
「イタリア議会解散の可能性も当分無くなったし、党内運営をママに学ばせようって考えたのかな?」

「僕がビルマにいた頃、ママ達が協力して幹事長職を請け負ってくれてたから、問題ないとは思うけど・・」
ビルマと東京を結んで、5人のママさん議員と通信で遣り取りしていた頃が懐かしい。厄介ごとは副首相兼外相だった鮎と、副外相の櫻田に対応して貰ったが、その数カ月後には議員辞職して、国連勤務に転じてしまった。極めて短い議員生活だった。。。  
しかし、仕事内容はともかく、今回は前首相の後任だ。外相経験があるとは言え、周囲が前任者と比較してしまうだろう・・。                
「ママ達が揃えば、無敵なチームになるんだろうけどね。そうも行かないしねぇ」    
杏も柳井前首相の後任というのが引っかかっているのだろう。里子の補助役をアレコレ想像してみるが適任者が思い浮かばない。       

「あ、そう言えば。幸乃ママが北朝鮮での立候補を辞めて、私の代わりにここに来るって言ってたんだけど。あの話はどうなったんだろう?」  

杏の話にピンとくる。北朝鮮選挙で越山、櫻田以外の家族の立候補は過剰だと前々から考えていた。北朝鮮で「杜姓の露出」は控えた方がいい。自分が顧問として週一のペースで通っているのだし・・。      
「柳井さんの地盤は、元々僕の選挙区だ。補選の候補者として、幸乃、志乃の姉妹が立候補してもいい。それに、杏が立候補してもいいんだよ。柳井さんの後任候補だから、母親の選挙区を引き継ぐ、世襲イメージからは離れるだろう?杏の代わりに京都の姉妹に、日本と北朝鮮のベネズエラ大使を任せればいいんだからね。幸乃も志乃も定期的にベネズエラに帰って来なければならない。君は与党と政府のメディア戦略を担って、お母さんを支えて上げればいい。どうせ、それが遣りたいことだったんだろ?」          

思いつきの人事にしてはいいかもしれないと思っていると、驚いた杏の顔が嬉しそうな表情になってゆく。議員になりたがっているのが分かる、そんな顔だった。

(つづく)


結局、有耶無耶に・・


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