【観劇レポ】信じる力 ミュージカル「アナスタシア」
ミュージカル観劇レポ。少し間が空きましたが、秋の観劇ラッシュの最後を飾るのはミュージカル「アナスタシア」大阪公演です。
我らがプリンス・田代万里生くんのファンクラブのおかげで、オーケストラピットを挟んで前から2列目のどセンターという特等ロイヤル席でした。真正面でプリンスを拝めて、もう僕どうなるんだろうと思いました(どうもなってません)。ハァァァ…!!ステキな時間ッッッッッッ!!
興奮しておりますが、できるだけ冷静にレポを。キャストはこちら。
信じる強さ
一家もろとも惨殺されたロシア王朝ロマノフ。実はそのうちの一人の皇女・アナスタシアが生き延びていた、という実際にあった噂話をもとにしたファンタジー作品。
火のない所に煙は立たぬ、といいますが、アナスタシア生存説が囁かれたのは、当時の人々の希望や願望の象徴だったのかなと思います。時代の節目に生まれる不安や先の見えなさから作り出された希望。帝政が終わりを迎えたロシアの変化は、作中冒頭や、(2幕のリリーの見せ場でもある)クラブのシーンでも表現されています。
本作では、アナスタシアが記憶を失いながらも本当に生き延びていた、という設定でフィナーレまで進みますが、ストーリーを通じて描かれるのは、信じるということの強さかなと感じます。
記憶を失いながら、自分をアナスタシアだと思い続けるうちに、本当に皇女らしく振る舞うことができるようになったアーニャ。その強い姿が、ディミトリの心を動かし、皇太后の心の闇を晴らすことにも繋がります。
ディミトリもまた、最初はお金目当てだった中で、アーニャの強さや心に惹かれ、本当に彼女がアナスタシアだと、アナスタシアであってほしいと、信じるようになります。そしてその結果、皇太后を動かし、自身の人生も大きく変えることになります。
そしてグレブはまた異なる「信」、つまり敬愛する父を信じることで生きてきた人物。他の方の感想をリサーチしていると、万里生くんのグレブは特にその要素が強いのかもしれませんが、父がやったこと(王家一掃)が正しいことであったと肯定することが、自分のアイデンティティになっている。もはや「盲信」「信仰」に近い。
信じるとは、時に毒にもなるもので、グレブにとっては100%ではないにしても、毒のように、呪いのように作用していたところがあったのかなと思います。終盤でアーニャの覚悟を前に引き鉄を引けず、いわば自分をアナスタシアと信じたアーニャの強さの前に屈したグレブですが、フィナーレの顔つきはどこか憑き物が落ちたような、晴れやかな顔でした。父をただ「盲信」していたのが、父の子であることを「誇りに思う」というように、少し捉え方が変わったように見えます。
グレブと同様に、皇太后もまた、「アナスタシアは生きていない」と信じることで、欲深く哀れな人々を忌避し、自分自身とかつての思い出を守っていました。
アーニャとディミトリ、グレブと皇太后、それぞれが信じることの強さと救い、強さ故の呪縛を体現していたのかも。
キャスト談
主人公アーニャはWキャスト、今回は葵わかなちゃん。強かさと、お転婆さと、同時に品性を感じるヒロイン。歌ももちろん素敵ですが、セリフ芝居が本当に上手だなと感じました。記憶は朧気ながら、皇女として体に染み付いている振る舞いやプライドが滲み出て、ドレス姿で登場したときは息を呑みました。そのシーンのディミトリと同じ表情してたかも。
ディミトリはトリプルキャストで、相葉裕樹くん。ばっちこと相葉くんといえば、僕の中ではシンケンブルー。松坂桃李に「殿!」って言うてるイメージが強いのですが、いやーハンサムディズニー正統派王子様でした。ずっと観たかったんですよね、ばっちのミュージカル。
育ちは良くない設定ですし、世間や境遇への反骨心が溢れる役ではあるのですが、タキシードや正装がキマりすぎて、隠しきれない品の良さが出ているディミトリでした。初見での印象は、ラプンツェルのフリン・ライダーみたいな役。
本作のヴィラン的な位置づけになるキャラ、グレブもトリプルキャスト。もちろん今回観たのは我らがマイフェアプリンス田代万里生。マタ・ハリのときのラドゥもそうですが、もうプリンスの軍服姿だけで僕は血湧き肉躍り弾け飛びそうなんですけれども、この激重感情どこにやろう。好き。愛重めユーモアのある悪くないなーいなーいなマイフェアプリンス…ハァァァ…!!良いな…!
姿勢は相変わらず良いし、軍隊っぽい直角な動き、そして何より演技の振れ幅。ミュージカル俳優は歌のうまさが話題になりますが、「俳優」ですから。
アーニャを前にして、新しい友としての紳士的な(?)面と、警視副総監としての超絶ドスのきいた威圧感。初対面のアーニャにいきなりお茶を誘う真っ直ぐさ。アーニャの前でのドギマギした青年感。終盤の揺れ動く心と、「父の子」を貫徹しきれない弱さ・惨めさ。なにこの振れ幅。アーニャとの初対面時のセルフエコーも最高でした。コミカルな面は、モンローやワームウッドでの経験が活きているのかな。
ディズニーでいうところのヴィランポジションですが、悲劇的な最期を迎えるでもなく、とても人間味のあるキャラ。フィナーレの晴れやかながらなんとも言えない表情がもう筆舌に尽くしがたい絶妙なお顔で、やっぱり万里生くんは「俳優」やなと思いました。ゴチャゴチャ書いたけどシンプルに、好き。
ディミトリの相方・本作の三枚目であるヴラドはWキャスト、大澄賢也さん。愛嬌たっぷりのかわいいおじさん。本作のマスコットと言っても過言ではない。アナ雪でいうオラフ。ほぼ常に笑ってる。
華やかな宮廷も、泥臭い生活も両方を経験していて、色濃い影のある時代の中で、明るく剽軽に生きるのは実はすごいことでもあるなと、観終わってからふと思いました。ある意味強かさですよね。
アナスタシアの祖母にあたるマリア皇太后は麻実れいさん。この作品のプリンシパルで唯一のシングルキャスト。よくぞ走り抜けてくださった。王朝は滅びてもなお皇太后として在り続ける、気品のある佇まいはさすが元タカラジェンヌ。纏う空気が違います。一方でアーニャがアナスタシアだと受け入れてからは、まさにおばあちゃんたる優しく慈悲深い空気を作っておられ、演技で空気を変えるというのはこういうことだと、肌で感じました。
皇太后が絶望に満ちた表情から、終盤に爽やかな微笑みをたたえるようになる様子は、本作の1つの象徴的なところだと思います。
皇太后を支えるリリーはトリプルキャストで、堀内敬子さん。敬子さんと言えば圧倒的歌唱パワーですが、本作はお茶目さや艶も魅力。コミカルな振る舞いが多いですが、プリプリしてる敬子さん、かわいかったな…。
ヴラドとの文字通り濃厚な、口紅が取れるほどのキス…キスというか接吻…はものすごかった(ものすごかった)。接吻もすごかったですが、ヴラドとのダンスで超絶複数回回転も見せてくださり、さすが四季の花やなあと思いました。
トップオブエンタメ
ミュージカル作品としては、LEDの映像もすごく魅力的で、ロシア、パリをはじめとした各シーンの情景に奥行きがでていました。事前に万里生くんが宣伝やブログで言及していたので、より楽しめました。アレクサンドル3世橋とかオペラ座が出る度に、万里生くんのパリ旅行が思い出される…いや僕一緒に行ったわけじゃないけど(許されるなら行きたいが!!)。
個人的に印象深いのは、ロマノフ王朝の衣装。美しくて、舞踏会のシーンはずっと見ていて飽きません。まあ僕がそもそも西洋ミュージカルの舞踏会シーンが好きだからなんですが。
ちなみに序盤で皇帝が幼いアナスタシアに向かって、「皇帝が今夜最初のダンスをお望みだよ?」といって娘に手を差し出して踊りだすシーン、めっちゃ好き。言葉のユーモアと品が良すぎる。自称ユーモアのセンスがあるらしいグレブにも見習ってほしい。いや、万里生グレブは別の意味で品良いか。
演技、音楽、衣装、舞台装置、映像と、まさにこれぞトップオブエンターテイメントたる現代ミュージカル。
白鳥の湖
作中中盤の見せ場でもある「白鳥の湖」のシーン。登場人物が一堂に会し、オペラ座でのバレエ上演に合わせてそれぞれの思惑や感情が交差する、これぞ舞台演劇の醍醐味とも言える場面です。
劇中劇を演じられるキャストのバレエもすごくて、劇中カーテンコールのシーンでは一応SEとして拍手の音も入っているのですが、我々観客の拍手も割れんばかりで、ほとんどSEが聞こえないくらいでした。
アーニャ、ディミトリ、グレブが、それぞれ白鳥の湖の登場人物とどこかリンクするようにも見えて、美しかった。音楽は有名ですが、意外とストーリーは知らなかったりしますよね。僕も終演後にあらすじをGoogle先生に聞いたもの。
余談ですが、観劇後にこうして歴史とか作品とかを追い調べするの、好きなんです。
アフタートーク
今回はアフタートーク付き。
カーテンコールがあっさりめ(2回)だったのは、ソワレでアフトクがあったからだと思います。
司会は関テレの藤本アナウンサー。少なくとも関西ではおなじみの方だと思いますが、キャストが出てくるまで拍手は勿体ないから取っておいて!的なことを仰っていて、謙虚やなと感じました。
アフトク出演はわかなちゃん、ばっち、マイフェアプリンス万里生の3名。劇中のお衣装で登場。軍服万里生くん…ッッッッッッッッッッッッ!!とても良い…ッッッッッッッッッッッッ!!
冒頭の挨拶で、わかなちゃんとばっちがわりと真面目に進める中、うちのプリンスが平常運転で「こんばんは〜田代万里生ですっ!(爽やかスマイル)」なの、本当に良い。役とのギャップで藤本アナも驚いてたけど、往年の万里生ファンだけはこの瞬間笑ってた。平常運転やから。
万里生くんが普段からこんなキャラなのか、という藤本アナのふりから、グレブとディミトリはあまり絡みがない(というかグレブは基本孤独)という話に。舞台上の絡みがないと、仲良くなるのも簡単ではないようです。マッサージルームで施術を受けるばっちの脚が長すぎるというエピソードくらいしか接点が…だそうです。このエピソード語るときの万里生くんが、まじでこの人、人間のことが好きなんやなって分かって尊いオブ・ザ・イヤー。
それぞれが演じる役について。わかなちゃん曰くアーニャは強い女性。ばっち曰くディミトリは反骨心の塊。マイフェアプリンス曰く、この物語はグレブの成長でもある。グレブと父の設定は、見る人によって解釈が分かれそうですが、演出家から受けたものとしては、グレブの父は任務をしっかり遂行して、その良心の呵責により自ら命を断った(アーニャはたまたま生き残った)ということらしいです。
それぞれの思い入れのあるシーンという話題では、ばっちは電車のシーン(アドリブがきく)、万里生くんも電車のシーン(自分も乗りたいの意)、わかなちゃんはオペラ座(白鳥の湖)だそう。
ミュージカル博士・万里生によれば、あの白鳥の湖のシーンでは、原典ではグレブのアクションシーン(警備員を倒して忍び込む)というのがあるらしいです。スーツ万里生のアクションとか観たいんだが?観せて?
最後はわかなちゃん、ばっち、万里生くんの順にご挨拶。締めらしく、裏方スタッフやシングルキャストのおかげで無事に公演ができる、というまとめができるうちのプリンス、本当に人間よくできてると思いませんこと?思うよね?思ってください。
総括
2020年の初演時は、流行病のせいで大部分が中止になった本作。東京公演ではいくつか中止やキャスト変更がありましたが、無事に10/31に大千秋楽を迎えられ、本当によかった。
今回の公演、マイクの音量が全体的に小さめ?だった気がして、その点は惜しかったのですが、魔法や不思議な力はあまり登場しない中でもファンタジーな空間が出来上がっていて、作品としてとても良いものだったなと思います。
あと一回くらい追加でチケット取ればよかった…。トリプル、Wのキャストも多いので、他のキャストも観たかったな。次に再演する時は複数観劇確定です。
芸術の秋、良い締め括りでした。再演や音源化はいつでも待ってます!!