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すべてのオナラには物語がある

すべてのオナラには物語がある
              ステファン・ゲイツ

ステファン・ゲイツ著「おならのサイエンス」柏書房 2019年より


昔、畜産に関わっていたことがある。
牛の種付けをする際の作業は、牛のお尻側で行う。

そうすると
時々、牛の肛門がムズムズしていることに気が付く。

「まずい!来るぞ!!」

そう思ったときには、もう遅い。

Bawoooo!

「ギャー~~~」

こうして牛のオナラを顔面で受け止める。

しかし、そんなに臭くはなかったような気がする。
牛舎が臭かったから、わからなかっただけかもしれないが。

それに比べて、私のオナラは臭い。

だから我が家には家訓がある。

私がどこでもオナラをしてしまうので、制定された家訓だ。

「今からオナラをします!」
と言うと、家族はみな避難し始める。

おかげで、ちょっと楽しい。
子どもたちも楽しんでいるようだ。
たぶん。

それにしても、なんで私のオナラはくさいのだ?

そこには、オナラの物語があった。

<参考図書>


オナラとは何?

おならの約75%は、食事などの際に飲み込んだ空気が出てきたものだ。
残りの25%が消化の過程で発生したガスで、そのほとんどは腸内細菌が食物繊維を分解する際に作られる。

オナラの成分の多くは、
二酸化炭素、水素、窒素、メタンなど無臭の成分で出来ている。
そこに、香りづけとして
硫化水素、メタンチオール、トリメチルアミンなどが加わる。

この香りづけこそが個性だ。
人によってオナラの性質はずいぶん違ってくるらしい。

まずは、
食べたものがオナラになるまでの旅路をのぞいてみよう。

消化の旅の物語

旅の1:口~食道
「咀嚼(ソシャク)と蠕動(ゼンドウ)運動で胃へGO」

母が良く言っていた
「よく噛んで食べなさい」

よく噛むと唾液がでる。
唾液には、消化酵素のアミラーゼがふくまれていて
糖質を分解してれる。

口の中から既に消化は始まっているのだ。
30回は咀嚼したい!


(ほかにも咀嚼することで得られる恩恵がある。
気になる方は、こちらの記事も併せて読んでください。)


飲み込んだ食べ物は、食道の上から下への収縮活動である蠕動運動によって胃まで運ばれる。

旅の2:胃
「胃酸と酵素で加工&分解」

胃液に含まれるプロテアーゼという酵素でたんぱく質を分解。

胃液には胃酸も含まれ、細菌を殺し、たんぱく質を変性させ、食物を再度調理加工する。

食物は胃に15分から4時間程度滞在するが、ほとんど栄養の吸収は行われない。

胃の蠕動運動でまぜまぜしてドロドロにした食物は、小腸の最初の部分である十二指腸へと送り出される。

旅の3:小腸
「栄養吸収の最前線、長さ約6m、8時間の旅」

ここで食物の栄養がほとんど吸収される。

最初の十二指腸で、
胆汁による脂肪分解、
膵液による糖質・脂質・たんぱく質を分解、
胃酸の中和が行われる。

細かく分解が進んだ食物は、小腸の内壁から栄養として吸収される。

旅の4:大腸
「ガスを生み出す最前線!」

来たぞ来たぞぉ〜
ここがオナラの最前線だ!

大腸の主な役割は、食べかすから水分を吸収・圧縮して、その食べかすを肛門へ送り出すことだ。

大腸には約100兆もの微生物が存在していて、中でも細菌が水溶性食物繊維を分解することでオナラが生成される。

オナラは直腸に待機させられるが、
たまってくると圧を感じ、オナラを出したくなる。
その際、わずかに肛門括約筋を緩めると、オナラは肛門にわずかな隙間をあける。

そして、
「ぷぅ~♪」と外へ出ていく。

こうして、消化の24時間~72時間の旅を終え
オナラは、外の世界へと生まれ出るのだ。

音の物語

なぜ、オナラは「ぷぅ~♪」となるのか?

これがわかれば、いつでもすかしっ屁ができる。

イヤイヤ
すかしっ屁などと言っている場合ではない。
オナラの音にも秒単位の、短くも壮絶な物語があった。

物理学の分野なので、詳しいことはわからないが、
オナラの音は、直腸にかかるオナラによる高い圧力と、オナラが肛門を通り抜けようとする際の低い圧力とのせめぎ合いの末に生まれる。

高い圧力と肛門括約筋のわずかな緩みをテコにしてこじ開けた肛門だが、肛門が開くと圧が下がり、肛門が閉まろうとする。その開閉の繰り返しが1秒間に20回(20Hz)以上起こったうえで、オナラが外に飛び出してきたならば、人間の耳に聞き取れる音で

「ぷぅ~♪」

となってくれる。

人間がオナラを音として認識するためには、1秒間に20振動(20Hz)以上の音のゆれが必要となるそうだ。

音を出したくなかたら、肛門括約筋を緩めれば大きく肛門が開くので、音はなりにくくなるのだが、
一緒にうんこが出るリスクもあるので注意が必要だ。

ニオイは語る

さあ!

「ぷぅ~♪」という産声と共にオナラが外の世界に生まれ出た。

「クンクン」

どんなオナラだろうか?

「これは、少なくて無臭だ!」

食べたものは?

きっと
米、トマトとレタスとアボカドのサラダ、ズッキーニの炒め物、ブドウとオレンジとスイカのフルーツポンチを中心とした食材だったのかもしれない。

これらは、
ガスの発生を抑えて、ニオイがつきにくい食材の代表だ。

食べ方の習慣は、
小食で、ゆっくりよく噛んでいるにちがいない。

一度の食事量を減らすと、胃からゆっくりと食物が送られ、小腸でしっかりと消化を行うことができるので、大腸でのガス発生が抑えられるのだ。

食事の時、実は空気も一緒に飲み込んでいる。
普段は気管に行く空気だが、モノを飲み込むときは気管に蓋をしている。
だから、空気は食道へと送られる。
食事をかき込んだり、食事を飲み物だと思っている人は、空気も沢山飲み込んでしまうようだ。
逆にゆっくりと、よく噛んで食べる人は空気を飲み込む量を減らせる。

体型は
やせ型だろう。

ただし、たんぱく質と食物繊維が不足しているので注意しておこう。


続いてのオナラは?

「Bawoooo!」

牛?!
いや、ここは牛舎ではなかった。

「クンクン」

どんなオナラだろうか?

「これは、多くてくっさぁ~!」

タマゴが腐ったようなニオイに、傷んだキャベツのようなニオイが混ざっている。

食べたものは?

全粒粉パン、キクイモ、アスパラガス、肉か魚、プロテインパウダー、食物繊維が豊富な野菜を中心とした食材だったのかもしれない。

全粒粉の穀物は食物繊維が豊富で、ガスの量を増やす。
食物繊維が豊富な野菜も同様だ。
アスパラガスは消化されると、メタンチオールを発生させ、傷んだキャベツのようなニオイとなる。
肉や魚やプロテインパウダーなどたんぱく質類は、
消化されると硫化水素を発生させ、腐ったタマゴのようなニオイとなる。

キクイモは特別だ。
世界一のオナラ食材なのだ。

こんな言葉が残されている。

この植物を食べると、汚らわしく不愉快で
悪臭芬々たる屁が出るうえに、
腹がよじれるように痛む。
人間より豚に与えるべき食材だろう。

              ジョン・グディヤー

キクイモには、イヌリンが豊富に含まれ、これによって大腸で活発にガスが生成される。

ジョン・グディヤーは
この言葉をどんな顔で言ったのだろうか?
気になるところだ。

現在、キクイモはスーパーフードとしての呼び声が高い。

腸内環境を整え、血糖値の急上昇を抑え、血圧上昇を抑え、免疫力向上に効果がある。

キクイモは
「人間にこそ与えるべき食材だろう。」

実際のところ、
オナラから食べたものを細かく言い当てることはできないのだが、

一つだけまちがいないことがある。

私のオナラがクサい理由だ。

1日3回~5回はプロテインパウダーを摂取し、アミノ酸を摂取しながらトレーニングし、たんぱく質食材をよく食べることによって発生する
硫化水素によるものだった!

クサいオナラをそれでも愛そう

このように、
様々な食材が口に入り、消化の旅を経て、肛門でのせめぎ合いの末
この世に生まれ出るオナラは、

食材によっても、性別によっても、消化スピードによっても、腸内環境によっても、ニオイや量が変わってくるという。

そう

ステファン・ゲイツ

なのだ。

それぞれの要因があいまって
絶妙に混ざり合った、その人にしか出せない香りをお届けする。

まるで、イーグルスのコーラスワークのように、
絶妙に美しいハーモニーを聴くようなものではないだろうか?

EAGLES Sayonara Japan Vol.1 より

とはいえ、オナラはクサい
特に他人のオナラはまちがいなく毒ガス兵器だ。

では、オナラは悪なのか?

やはりオナラは我慢したときが良くない。

まず、腹部に不快感、膨満感が広がり、徐々に苦痛になっていく。

体内にオナラが長時間とどまっていると、やがて血液に吸収され、吐く息にニオイがつくようになる。

さらには、げっぷとしてオナラが放出される。

最悪の場合は大腸憩室症となる。オナラを我慢しすぎると、腸壁に小さなポケット(憩室)ができ、それが炎症を起こすと穿孔性憩室炎に進行する場合がある。やがて敗血症となり、発見が遅れれば死に至る。

オナラをするにしても、
TPOをわきまえなければならないことはわかるのだが、恥ずかしさのあまり、我慢をし過ぎることは避けたい。

オナラは自然に出るものであり、消化がきちんと行われている証拠なのだから、むしろ食物繊維をしっかり摂ったことを誇りに思いたい。

だが大丈夫、
わかっている。

口には出さないが、
きっと我々は、だれもが自分のオナラのニオイを愛している。

私も、私のオナラが大好きだ。

そして、
私のオナラにも、あなたのオナラにも、
すべてのオナラには物語がある。

オナラはクサいが、

クサいオナラをそれでも愛そう。

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