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ガウディ建築について知っておくべき10のこと
2024年の夏にバルセロナへ旅行した際、多くのガウディ建築を巡ってきた。
旅行前にある程度の知識をインプットしたものの、現地で作品を見て新たに学んだり知ることが多く自分の中で整理がしきれていなかったため、どこかのタイミングで復習し直したいと思っていた。
年末はゆっくりする時間があったため、積読になっていた本を消化した。
そしてその中の一冊に「ガウディの伝言」というガウディに関する本があったのだが、個人的にとても面白かったと感じた。
「ガウディの伝言」は20年近く前の2006年に書かれた本なので少し古いが、著者の外尾さんは日本人としてサグラダ・ファミリアの彫刻担当として建築に携わった方。
石工として実際に業務に携わった立場からサグラダ・ファミリアについて分析しているのが面白いなと思って読んでみたのだが、新しい学びが得られる非常に良い内容だった。
当記事では本からの学びを抽出しつつ、ガウディ建築を訪れる前に知っておいたらもっと楽しめたのにと感じたことを、次回訪れる際のためにもまとめておく。
ガウディ建築について知っておくべき10のこと
図面ではなく模型を使用した
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ガウディは職人たちとコミュニケーションする際に、一般的に用いられる図面ではなく模型を使って説明していた。
図面の場合は発想が二次元になるため、実際の建築における立体のダイナミズムが失われるらしい。
また、職人は専門的な教育を受けていないことも多いので、図面を見てもらってもあまりピンとこないとのことだ。確かに立体的な模型で理解してもらったほうがイメージも湧くし、職人たちのモチベーションも高まるだろう。
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そして、最初の模型通りに作ることにこだわるのではなく、建物を作りながら模型を柔軟に修正していった。
そのため、最初に図面があったとしても最終的には無意味となることも多かった。実物のバランスを見ながら模型も最適化されていったとのこと。
このようなプロセスが、カサミラやサグラダ・ファミリアのような建築がユニークとなった所以で、二次元的な発想では決して思いつくことがない方法だと思った。
現場の人間に考えさせ、意見を吸い上げる
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サグラダ・ファミリアは現在、着工から140年以上の年月が経つが、今まで死亡事故が一件も起きていないとのこと。
建設現場は過酷で、足場の悪い中危険な作業をすることもあるだろう。
普通ならこれだけの期間作業を続けていれば、大きな事故が起こっても何ら違和感はない。
しかし、サグラダ・ファミリアではそのような事故が一件も起きていないと言うのだから、単純にすごいと思う。
日々の業務において、ガウディは現場の人間に考えさせ、意見を吸い上げる風土を作っていたようだ。
現場の職人に考えさせることで、機械のように思考停止状態で働くことができない仕組みを作った。そうすることで各々が細心の注意を払うようになり、結果的に大きな事故を防ぐことができているようだ。
ガウディ建築は主に直線で構成されている
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ガウディ建築には曲線が多用されていると思われがちだが、これは見かけ上は正しい側面はあるものの、建築に携わっている立場からすると少し間違った解釈らしい。
正しくは、「曲面はあるが、曲線はない」とのことだ。
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サグラダ・ファミリアでは、あらゆる部分に双曲線面や放物線面が多く使われており、これらの面は直線によって構成されている。
力学的に負荷が大きくかかるのは、水平と垂直が交わる部分である。ガウディはそれらを減らすため、接合部分を放物線面などの曲面でつなげたり、柱を放射状に枝分かれした構造を採用するようにした。
ガウディは自然からインスピレーションを得て、これらの独特な構造を見出した。
水平と垂直が交わる構造はそもそも自然の秩序に反しており、非合理的であるとのことだ。
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またガウディは必要な部分には幾何学を用いたが、秩序のみに縛られる考え方には固執しなかったとのこと。この偶然性も大事にするという考え方も、自然に倣ったものだ。
例えば、サグラダ・ファミリアに装飾されたぶどうの実などは、特定の秩序に基づかずに崩れないように積み上がっていった結果、現在のような形になっている。
秩序と無秩序をバランス良く配置し、目的に応じて最適な使い方をすることで、ガウディ建築の唯一無二な雰囲気が生まれている。
機能とデザイン(構造)と象徴を常にひとつの問題として、同時に解決している
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ガウディは、建築における機能とデザイン、宗教的な象徴を組み合わせ、総合的に問題解決をしていた。
彫刻一つ一つにはデザイン的な意味合いがあるだけではなく、建築の機能的にも必要不可欠なものとなっているのだ。
例えば、構造的に脆いサグラダ・ファミリアの階段室を構造的に強いベランダで補強した場合、ベランダにおいてどうしても石が薄い部分が出てきてしまうため、脆さの問題は解決されない。
そこで、そのベランダの石が薄い部分を蔦の彫刻で補強することで、デザインとしての意味合いに加えてベランダの脆さを補強する役割も担うものになっている。
またベランダは彫刻の台座としての機能も持ち、結果的に階段室においてはすべてが必要な要素になるのだ。
このように、物事をホリスティックに捉え全体最適を実現した結果、サグラダ・ファミリアのような美しい建築が仕上がっていった。
感覚だけを頼りにするのではなく、拠り所となる数値を基準にしている
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ガウディは感覚的に建築を作るのではなく、理論にも基づいた設計を行った。
サグラダ・ファミリアにおいては、7.5メートルおよび17.5メートルの比例数を基準として採用し、全体の大きな寸法を決定した。
感覚を頼りにするとどこかでほころびが生じ、全体が崩れてしまう。
一方で拠り所となる数値があるからこそ、形を大胆に発想し、それをうまくまとめ上げることができるのだ。
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また7.5メートルという数値はおおよそ10歩分の距離ということで、カタルーニャ人にとっては古くから馴染みのある数値とのこと。
誰にでも直感的にわかる数値を基準に置くことで、チームとしての認識統一を容易にしたようだ。
ゴシック建築とギリシャ建築を進化させた新しい建築である
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ガウディ建築は、ゴシック建築とギリシャ建築を融合し進化させた新しいものである。
ゴシック建築は窓が大きく、ステンドグラスによって光が多く入るのが特徴だ。しかし重厚な建築を保つための厚い壁だけでなく、フライングバットレスと呼ばれる外部からの大きな支えを必要とするため、生産性が非常に悪いという弱点があった。
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一方でガウディは、有名な逆さ吊り実験に基づき力学的に効率の良い形状を見出したことにより、厚い壁やフライングバットレスをなくしながらも採光部分を大きく取った建築を実現した。
また、ギリシャのパルテノン神殿などに見られる角のついた柱を一本の柱内で複数パターン組み合わせることで、進化させた二重らせん構造の柱を実現するなど、独自の建築様式を追求した。
結果的に建築に地中海らしさをもたせつつ、光が多く差し込む明るい協会を実現した。バルセロナの太陽の魅力を最大限引き出すことができる建築だ。
建築を自然に還す発想で設計した
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ガウディの作品は、「人間は何も創造せず、ただ発見するだけである」という考え方の下に作られている。
ガウディが自然からインスピレーションを得て、建築に反映させてきたという話は有名だ。
しかしそれだけではなく、無駄なものは極力出さず、自然界における循環や調和を意識した作品づくりを行っていたということは注目すべき点だ。
例えば、グエル公園の陸橋を支える柱には、公園内の道路整備のために掘削された石が無駄なく使われている。
また柱の上にはヤシなどが植えられており、水はけなどの問題にも対策がされている。
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グエル公園のベンチには、工場から出たり寄付された不良品のタイルを使用している。
特に当時はリサイクルなどの概念もほとんどなかっただろう。欠けたりヒビが入って商品にならなくなったタイルは、通常行き場を失うが、芸術として昇華することでこのような素晴らしい作品が生まれた。
また、タイルにはバルセロナの強い日光を拡散させる機能もあるとのことで、機能面についても模索をしていたとのこと。
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世界文化遺産のコロニア・グエル教会では、割れたタイルや瓦などの他に、工業地でもあるコロニア・グエルで出た織り機の廃品なども利用されている。
その他にも、コークスの燃えカスであるスラブまでも使用し、外観を周囲の黒松に調和させることに成功した。
個人的に感銘を受けたのは、ガウディは現代のように、エコそのものを目的としてエコ活動をしているわけではないということだ。
当時において、自然の秩序を乱すような建物づくりは合理的ではないという思想を持っていたことには、ただただ尊敬する。
ガウディブルーも機能的
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カサ・バトリョには美しい青が使用されており、しばしばガウディブルーと呼ばれる。
もしかしたらこれは有名な話かもしれないが、カサ・バトリョの青のタイルも視覚的に美しいだけでなく、機能面も追求されている。
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カサ・バトリョのタイルは、上層階から地上階に近づくにつれて、深い青から白へグラデーションのように色が変化するようにデザインされている。
これは、光が差し込みやすい上層部には光を吸収しやすい濃紺を配置し、光が届きにくい下層階には反射率の高い白を配置したという意図がある。
各階に届く光の量に色を対応させることで、美しいデザインと機能性を実現している。無駄や矛盾がない考え方は改めて素晴らしいと思う。
科学者的というより職人的
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科学者的か職人的かと言ったら、ガウディはどちらかというと職人的との見方が有力らしい。
ガウディのスタイルとしては、自然を直感的に捉えた上でとりあえずものをつくり、失敗から学ぶというもの。その中で、理論や公式は補助的に使っていく。
これは現代の視点から見ても合理的であり、あまり違和感はない。
机上の理論だけで無理やりやってもうまくいかないことを理解しており、自然が持っている秩序を直感的に捉えることを重要視していたようだ。自身の作品において、対応させるべき形や色を模型で作り、実験で確かめながら修正していった。
このようにガウディ自身は学者的な側面も持っており理論の大切さを知っていたものの、それ以上に実験の重要性を理解していたようだ。
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実際、ガウディの多くの建築は、理論だけで考えていたら到底たどり着くことができない境地だと思う。
個性が称賛されるカタルーニャ地方独特の風土も相まって、他の建築家の作品と比較しても明らかに異端な作品が生み出された。
良いパトロンがいたからこそ名作が生み出された
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ガウディは優れた才能の持ち主であったことは疑いようがないが、ガウディ一人の力で名建築を生み出し続けることができたかというと、そうではない。
建築をつくるためには施主が必要だし、資金も多く必要だ。
そのため、グエル公園の名前の由来にもなったエウセビオ・グエルが生涯にわたってガウディのパトロンとなってくれたことは、彼の人生における一番の幸運だろう。
もちろん、グエルを惹きつけたのはガウディの几帳面な性格と誠実さだったと思うが、運命的なめぐり合わせの要素も大いにある。
成功する人は、誰よりも運を引き寄せる才能を持っているのだなと感じた。
編集後記
年末の余裕があるタイミングで、昨年撮影した写真を振り返りながらガウディについて勉強し直すことができたのは非常に有意義だった。
「ガウディの伝言」は単純に読み物としても面白く、前半は建築的な特徴について、後半はガウディの人生について主にまとめられている。世界的な建築に日本人が関わっているということはとても誇りに思う。
本では、この記事なんかよりもさらに詳しく深い内容が書かれているので、バルセロナ旅行をしたい方はぜひ読んでいただければと思う。
ちなみに僕が昨年訪れたガウディ建築については、下記記事でまとめている。
写真もテキストも大ボリュームな記事のため、読みやすさに関して決して万人に配慮した記事とは言えないが、後で自分で見返した際に詳細を記録しておいて良かったと感じる。
興味があれば読んでみてほしい。
ではまた。
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