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死ぬのがダメだと言うのなら。【エッセイ】

「死にたい」僕がそう言うと、今まで笑ってテーブルを囲んでいた友達が、急に真剣な眼差しで「死ぬなんて言うなよ」と止めてくる。

「死にたい」僕がそう思うと、気を利かせたブラウザが、広告や動画で一生懸命に「死ぬなんていけません」と止めてくる。

「死にたい」僕がそう聞くと、いつもはあまり人に興味のない僕が、相手のことが心配になって「死ぬのはやめといた方が」と止めている。


 死ぬことってそんなに悪いことなのだろうか。「生物学的に……」とかっていう説明は聞き飽きた。そんなことは分かってる。僕が知りたいのは、社会的にどうかってこと。

 21世紀に入ってすぐに生まれた僕は、社会というのは過酷で残酷なものという常識の中で育ってきた。睡眠を削って働く日々。つながりが断たれてボロボロの人間関係。真実を隠そうとするメディア。金に目を輝かせる企業と政治。成長という宗教を信じてやまない企業戦士。奴隷を求める支配者たち。こんな世界が楽しいと思う人がいるのなら、その人は地獄の底でも笑うのだろう。

 僕らはみんな「死にたい」と思いながら、その気持ちを誤魔化しながら生き延びている。何も解決したわけじゃない。僕らはただ、誤魔化すのが上手かっただけだ。

 僕が「死にたい」と言おうものなら、大勢の人が止めに入る。あなたもその大勢のうちの一人だろう。でも、その人たちは僕に何かをしてくれるだろうか。あなたは僕に、何かをしてくれるだろうか。

「死にたい」と言ったあの人に、僕は何もしてやらなかった。何もできなかった。僕には無理だ。社会を変えることなんて。その人の人生を輝かせることなんて。

 無責任な僕らに、死にたい人を止める権利があるだろうか。その人に残された唯一の逃げ道を塞いでおいて、新たな道を作ってあげられないのなら、それは正義だと言えるのだろうか。

 死にたかった僕に光り輝く道をつくってくれたのは、本だった。僕が間違っていないってことを教えてくれた哲学書。楽しそうな世界に誘い込んでくれた小説。孤独な夜にそっと寄り添ってくれた詩集。

 今ならあの人に何をしてやれるだろうか。そんな思いで、僕は今日も筆を執る。

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