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【効く名文】悲しみは口から吐き出した方がいい/「怒りのぶどう」③スタインベック

「怒りの葡萄」は、ノーベル文学賞作家のジョン・スタインベックによるアメリカ文学。初版は1939年。ピューリッツァー賞受賞。

翻訳家が出版社によって異なります。私が読んでいるのは、岩波文庫(大橋健三郎訳)です。


主人公・ジョード(殺人の罪で仮釈放中)と元カリスマ説教師・ケイシーが、故郷に帰ると、住民が一人もいないゴーストタウンになっていた。

そこへ、近所に住んでいた青年・ミューリーが現れる。この土地が作物が育たない不毛の地になってしまったことで、地主や銀行により脅迫的に、住民たち(農民)は、他の土地へ追いやられることになってしまったと話す。

しかし、ミューリーはどうしても住み慣れた地を離れることが出来ず、監視の目から逃れながら、一人きりで踏みとどまって暮らしているという。当然、水も食料もない状態でである。


心のうちを打ち明けた後に、ミューリーは後悔する。

「たぶん、おら今みてえなふうにしゃべっちゃァいけねえよ」と、彼(※ミューリー)はいった。「たぶん、あんなこたァ自分の頭ンなかにしまいこんでおかなくちゃいけねえことなんだろうな」

怒りのぶどう(上)岩波文庫/第6章

それを受けて、ケイシーが言う。

「いいや、おまえさんはしゃべらなくちゃァいけねえよ」と、彼(※ケイシー)はいった。「悲しがっている人間というやつは、ときにしゃべってその悲しさを口から吐き出しちまうことができるもんだ。ときにゃ人を殺したいと思っている人間が、口で人殺しのことをしゃべって、実際は人殺しをしなくてすむこともあるもんだよ。おまえさんはまちがっちゃいなかったんだ。もししねえですむなら、人はだれも殺しちゃいけねえよ」

同上



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