腸活

腸内細菌の研究では、生菌をたくさん取りましょうという「プロバイオティクス」の考え方と、元々おなかの中にいる腸内細菌をパワーアップしましょうという「プレバイオティクス」の考え方があります。
 プレバイオティクス効果には、食物繊維が非常に有効であると考えられます。腸管の上皮細胞はネバネバしたムチン層で覆われていますが、それがバリアーとなって有害な細菌などの体内への侵入を防いでいます。ところが、ムチン層に棲んで共生している腸内細菌は食物繊維が足りなくなるとムチンを食べてしまい、ムチン層が薄くなり結果としてバリアー機能が弱ってきます。その結果、炎症を起こしたり、感染症を起こしやすくなったりします。これが、潰瘍(かいよう)性大腸炎などの炎症性腸疾患の一因になるとも考えられています。こうしたことは以前から言われていましたが、今は分析技術が発達したことで科学的にも裏付けられています。

腸内フローラと病気との関わりについては、病気の人と健康な人の比較研究で、両者の腸内フローラが異なっていることがわかっています。病気の人では腸内フローラの多様性が低下し、そこにいる細菌の種類が減っていました。
 菌種の数が減ると、本来そこに一定数いた菌種がつくりだしてくれた有用な代謝物の量が減ったり、腸内フローラのバランスが崩れることで増えた細菌が余計な代謝物をつくってしまったりします。その結果、体にとって良い代謝物を吸収できなかったり、逆に悪い代謝物を吸収してしまったりして、だんだん体調が崩れてゆくものと考えられています。
 その場合、腸内フローラの変化は、原因なのでしょうか、それとも結果なのでしょうか。原因であり、結果でもあると考えています。腸内フローラが悪くなると健康状態が悪くなり、健康状態が悪くなれば、腸内フローラのバランスがさらに崩れる悪循環に陥ります。それがどこかでリカバリーされないことで、病気になってしまうのです。

海外の研究で、トップアスリートの腸内に、運動能力を高め、運動成績に影響するという細菌が生息していることが確認されました。「ベイロネラ属」の菌種なのですが、この生菌をマウスに経口投与すると運動能力が15%もアップしたというのです。運動すると筋肉などで乳酸が産生されますが、「ベイロネラ属」の特徴は乳酸を代謝し、体に有用な短鎖脂肪酸(酢酸やプロピオン酸)をつくり出すのです。
 トップアスリートたちは、コンマ何秒というわずかな差を争います。運動能力が15%もアップすれば、競技の結果に大きく響くことになるでしょう。
 私たちの研究でも、トップアスリートは一般の人たちに比べて、明らかに異なる腸内フローラをもっていました。大きな違いは細菌の種類が多く、腸内フローラがとても多様性に富んでいる点です。特に短鎖脂肪酸のひとつである酪酸をつくる細菌(酪酸菌)が多い。酪酸には腸管運動を活発にし、便通を改善する作用があるなど、体によい効果があることがわかっています。
 また、激しい運動やそれに伴うストレスで筋肉や内臓にダメージがたまりがちなアスリートの腸内には、抗炎症作用のある物質を作り出す細菌が多く存在します。激しい練習をしても短時間でダメージ回復できることが、トップアスリートになる条件のようです。逆に言えば、ダメージを修復できない人はトップアスリートになれないともいえます。腸内細菌には、そうした力もあるのです。
 運動と腸内フローラの関係で言えば、トップアスリートのようなハードな運動は必要ありません。すなわち、楽しむレベルの運動であっても、腸内フローラは良い方向に変化します。多様性が増し、酪酸をつくる細菌が増えるのです。運動がこのように腸内フローラを容易に変化させるメカニズムはまだわかっていませんが、運動による適度な刺激が、腸内フローラによい影響を及ぼしているのではないでしょうか。

バランスの良い食生活と腸活を意識する事で色々な利点が得られるかもしれませんね。

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