スラヴォイ・ジジェク『パンデミック』(ele-king books)を読む

ここで取り上げる新型コロナウイルスに関する知見は、複数の報道をまとめただけであり、オリジナリティーはない。最も信憑性の高い知見については、厚生労働省の新型コロナウイルスのページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html)を、様々な学説について証拠(エビデンス)の観点から評価分類をしたページとしては、京都大学の山中伸弥教授によるページ(https://www.covid19-yamanaka.com/)を参照するのがいいだろう。

新型コロナウイルスついては、そのうち次のコロナウイルスが登場して旧型になることから、今回のウイルスはSARS-CoV-2、その感染症についてはCovid-19と呼ぶのが良いのではないかと思われる。Covid-19については、各国でワクチンの開発競争が盛んで、いくつか治験の段階に進んでいるものがあるとの報道がある。一方、一旦、Covid-19から快癒した人が、再度、Covid-19に罹患し、二度目の発症で重症化したという報道がいくつかある。これについては、本当に一旦体内からSARS-CoV-2がなくなったのか、或いはSARS-CoV-2は無くなっておらず、潜伏期間に入っていただけではないのか、といった議論があり、検証は定かではない。しかし、これらの事象から抗原-抗体反応が出にくい感染症である可能性があり、そうであるとすると、ワクチン開発が難航する可能性がある。また、Covid-19が免疫システムを破壊するので、抗原-抗体反応が出にくいという説もあるが、これらについては研究の進展を待つしかないようである。

Covid-19のワクチンが、最も開発が進んでいるものでも治験段階で、商品化には至っていないことから、治療薬はどうかという事になるが、いずれはCovid-19の専門薬が開発されるのかも知れないが、今は既存の薬で、Covid-19が抑えられないかという事だが、候補に挙がった薬はすでに別の薬効で使用されている薬なので、すでにわかっている副作用は、製薬会社が公表している薬の説明書でわかる。報道で上がった薬を、この方法で副作用を調べると、主に以下の点が懸念される。代表的な副作用の症例だけを挙げた。詳しく知りたい方は、直かに薬の説明書を見てください。
◆抗マラリア剤
・メフロキン 心臓病
・クロロキン 心停止、失明
◆抗インフルエンザ薬
・アビガン 胎児に対する影響
◆抗エイズウイルス薬
・カレトラ 膵炎、不整脈、糖尿病
◆エボラ出血熱治療薬
・レムデシビル 肝臓障害
◆寄生虫感染症治療薬
・イベルメクチン 私が調べた範囲では副作用は少ない。        実際にCovid-19に効くのかは、各病院での治験の結果を待たないとわからないが、各国、どの薬を先に効能や副作用について検証するかは違っており、薬理的な理由だけでなく、下世話な話ではあるが、行政と製薬会社の関係によって国の政策としての検証の優先度が変わって来るという側面もあるようである。私が調べた範囲では、イベルメクチン、これは2015年のノーベル生理学医学賞を受賞した大村智先生が発見した抗生物質ですが、これが副作用も少なく、一番良いのではないか、そしてCovid-19には血液凝固で血栓ができやすいとの声があるので、イベルメクチンとヘパリン等の抗血液凝固剤の併用が良いのではないかと素人考えですが愚考しますが、これについても専門家の研究を待ちたいと思います。

ということで、Covid-19については、ワクチンと治療薬の開発と、認可が下りて、病院に行き渡るまでを考えると、約2年ほど、マスクとソーシャン・ディスタンスを考えた自粛生活をせねばならず、また、2年後も完全にウイルスをゼロにできるはずはなく、ウイルスを抑え込みながら共存するという半自粛生活が恒久的に続く可能性が高いというのが、私の想像です。

さて、スラヴォイ・ジジェクの『パンデミック』(発行Pヴァイン、発売日本IBS(株)、ele-king books、中林敦子訳、斎藤幸平監修・解説)だが、「アメリカ(いや、どこの国でも)・ファースト」を批判、マーチン・ルーサー・キング博士を引きながら「今、同じ舟に乗っている」ことを強調、ジョルジオ・アガンベンの見解、メディアや当局がパニック感を煽ることで引き起こされた例外状態を利用して社会統制を強めることを批判する立場を否定し、否が応でも、マスク・検査キット・人工呼吸器等の製造から、経済政策まで、「戦時共産主義」的な政策を取らないといけない、このウイルスは中国共産党政権に対する「五点掌爆心挙」どころか、世界資本主義に対する「五点掌爆心挙」として同じ生活を続けることを許さなくさせるのではないか、というものである。なお、ジジェクはナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』の「惨事便乗型資本主義」に終わる可能性も視野に入れている。後半、アクターネットワーク(ANT)理論で知られるブルーノ・ラトゥールの評価が行われ、人間存在を特別視せず、非人間の観点から人間を「アクタン」として捉えようとする。

最初にワクチンと治療薬の話をしたのは、今のような自粛生活は約2年間であり、その後は、元の状態にまでは戻らないが、やや緩和された状態で、半自粛状態になるのではないか、と思われるからである。ウイルスのせいで、永久に完全自粛が続けば、資本主義の死に繋がり、ジジェクの言う「戦時共産主義」的になるのかも知れないが、やや弱体化した状態で資本主義は続き、極端な事にはならないのでは、と思うのである。(とはいえ、世界史は予想をはるかに超える。今のように誰もがマスクをつけた状態になるとは、数年前は思いもしなかった。)

一方で本書の解説をしている斎藤幸平氏の『大洪水の前に』が主張しているように、今と同じ資本主義的な経済成長を続けると、環境問題(マルクスのノート類には惑星の物質代謝という言葉で、エコロジーに繋がる見解が書かれているというのが『大洪水の前に』で説かれている事柄である)によって人類は存亡の危機を迎えるという事もあるし、斎藤幸平編『未来への大分岐』ではポール・メイソンが、情報テクノロジーのもたらした革命は、これまでのイノベーションとして資本増殖には繋がらない、データやソフトウェアが無料で出来てしまう、ということから資本主義が瓦解する可能性がある。コロナウイルスが致命傷でないにしても、様々な要素が複合的に押し寄せて来ていて、「戦時共産主義」でないにせよ、資本主義の次のシステムを考えないといけない時が来ているのは確かに思えるのである。

その際、「一国二制度」を破壊した香港国家安全維持法が示したように、或いは『パンデミック』で、ジジェクが書いているように、中国は共産国なのに、左翼のマルクス主義研究会の学生すら逮捕・拘束して、裁判の被告に変えてしまう国であることが示しているように、中国の共産主義が、資本主義の次の理想形であってはならないし、スターリン主義に帰結するロシア・マルクス主義もまた、社会の理想の形にはなりえないだろう。

トマ・ピケティ『21世紀の資本』を意識しつつ、経済格差の是正は手放さず、かといって政治的自由や言論表現の自由等の精神的自由をも手放さない、そういった理想形はあり得るのか。結論を言えば、あり得るが答えだが、そのための戦略を、ここで考えて行こう。そりためには、さまざまな思考実験もしていこう。そのように考える。



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