業界の常識に、波を立てる一石に。
「いくら庵治石が有名でも、石を加工する職人がいなくなったら庵治石は流通しなくなってしまう。」
当たり前のことですが、はっきり言葉にした瞬間お腹の底がヒヤッとしました。
どうも!たぶん、加工。です。
これはどんな産業でも同じですが、自然のものを道具にするためには素材を加工する技術が必要不可欠です。とりわけ庵治石は、その硬さから加工が非常に難しく、高度な技術が必要とされてきました。そしてその技術は、現代にいたるまで一部を除いてほとんど墓石の製造に費やされ、それが普通とされてきたわけです。
しかし、そんな牟礼庵治の石材界隈に一石を投じた職人がいます。
有限会社髙橋石材 髙橋輝。
たぶん、加工。のメンバーとしてミレニアムラブレターの製作にも携わったベテラン職人に、この「一石のたくらみ」を取材しました。
▼前回記事はこちら!
髙橋 輝(たかはし あきら)
プロフィール
1.大型製品の施工を得意とする、数少ない石屋。
―大正5年創業ということは、髙橋石材さんは歴史ある牟礼庵治の石屋さんの中でもかなりの老舗ですよね。
髙橋:
そうですね。
石屋自体はひいおじいさんのときからやっていて、会社になったのがおじいさんときです。(※)丁場を持っているので、採掘から製造・加工・施工・販売まで一貫してできるのが僕らの特徴です。
―その中でも特に、寺社仏閣や鳥居など、大きな石材製品の施工がピカイチとお聞きしました。
髙橋:
確かに、そこは強みかもしれませんね。
大きい仏像とか鳥居とか、芸術家のモニュメントとか、人間の何倍もあるものを据える技術はあると思います。うち以外でできるところはたぶん、1、2件くらいしかないんじゃないかな。
―えっ、少ないですね。やっぱり特別な技術が必要だからですか?
髙橋:
うーん、技術も必要だし、専用の道具や機械も必要ですね。
たとえばこの鳥居。最近建て替えたものなんですけど、笠の部分だけで7トン、それが2つで14トンあります。柱は8~10トンくらい。7~8人がかりで、2日ほどかけて施工しました。
地面には基礎を敷いて、柱と同じ大きさの穴を開けて、そこに柱を刺して色んな道具や機械を使って自立させるんですけど、これだけ大きいとトンって当たっただけですぐにバーンと砕けたり、割れてしまったりするんですよ。石は大きければ大きいほど扱いが難しいんです。
そこを僕のおじいさんが色々考えて、綺麗に立たせる方法や安全に施工する方法を編み出したんです。そのノウハウを僕らが今受け継いでやっている感じですね。だから、すごいのは僕というか、おじいさんなんですよ。
―その方法を忠実に再現できている髙橋さんもすごいと思います。高橋さんご自身は得意分野などありますか?
髙橋:
さっきの鳥居のような、現場での施工かなあ。
あとは文字彫りですね。文字彫りは自社の工場でもやるし、現場に彫りに行くこともあります。
―ミレニアムラブレターでは、原さんのりんごも作られてましたよね。
そうですね。
ミレニアムラブレターのような細かい加工を細工というんですが、細工は父や他の職人さんの手元を見て覚えた感じです。父が何でもできる人なので、本当にもう、見よう見まねというか。
専門ではないんですが、ミレニアムラブレターの製作は色々考えて、試行錯誤して…楽しかったですね。
▼髙橋さんの父、二郎さんは現代の名工にも選ばれている
―あのりんごは、髙橋さんのものづくり精神がすごく感じられたで作品でした。
髙橋:
お客さんが納得できるものを、というのはいつも考えています。
ミレニアムラブレターでも、お墓でも、それ以外でも。それは絶対……うん。それだけは絶対だと思ってます。
2.通例に逆らって挑んだ、あじストーンフェア。
―お墓と言えば、今年の(※)あじストーンフェアに髙橋さんは墓石を持ってこなかった、とリーダー(古市)から聞いたのですが…。
髙橋:
あ、そうそう。お墓、持って行くの嫌だったんですよ。
代わりに新しく立ち上げた「in pouch」というブランドの商品を持って行きました。
in pouchとは「軒下の」という意味です。庵治石、その中でもとりわけ(※)錆石を使った屋外家具のブランドで、ほぼ僕の独断で始めたものです。半年前くらいから進めていて、ストーンフェアでお披露目した形ですね。
―めちゃくちゃおしゃれ!かなり思い切りましたね!
髙橋:
そうですね、ぶちかましてやりました(笑)。
「今年のストーンフェアはこれでいく。墓石は持って行かん」って宣言したら、社内では案外すんなり通っちゃって。でも、父や母はきっと怖かったと思います。
―というと?
だって、毎年みんなと同じように墓石を持って行って、みんなと同じように並べてたんですよ?それが今年はみんな墓石を山のように積んで来る中、自分たちは小さな石の家具を数点持って行ってるだけですから。目立つし、周りもちょっとびっくりしたと思います。
だけどこれは突発的な思いつきでもなければ、奇をてらってやったわけでもないんです。前々から考えてたんですよ。庵治石で何か新しいことができないかって。
それは他でもない、この産地の現状にいよいよ危機感を感じ始めたからなんです。
3.きっかけは世界のバイヤーが集まる東京の展示会。
髙橋:
「AJI PROJECT」って知ってます?
―㈱蒼島さんが運営されている庵治石の雑貨ブランドですよね?
髙橋:
そう。庵治石の雑貨ブランドの先駆者的な存在なんですけど、きっかけをくれたのは㈱蒼島の社長 二宮力さんでした。
▼株式会社蒼島
去年の6月頃です。AJI PROJECTが東京のインテリアライフスタイル展に出展すると力さんから連絡があって、「こんな世界があることを知ってほしい」とこのイベントに誘ってくれたんです。
インテリアライフスタイル展には全国のおしゃれなインテリアや雑貨がたくさん並んでいました。しかも、展示の仕方も僕が知っているものとはまるで違う。みんな趣向をこらしてて、個性的で、すごくおしゃれで…もう、ほんとに「うわ~!」と思って。
めちゃくちゃかっこいいんですよ。びっくりしました。
もう、ずっと感動しっぱなしでした。
それで、その中にAJI PROJECTの商品や庵治石が他と遜色ないくらいかっこよく並んでいるんです。
お客さんも国内外からたくさん、本当にたくさん来ていました。衝撃でした。
でも同時に、「ストーンフェアって、ほんまにあれでええんかなあ」と思って。
みんな同じものを並べて、お客さんも決まった人ばかりで、一般の人はほとんど来ない。一部の石屋を除いてほとんど価格競争。その上業界内の墓石需要は右肩下がりでどんどん少なくなっていっている。
こんなことを続けていたら本当に…本当に今に何もできなくなってしまう。牟礼庵治の石材産地自体がなくなってしまう。
一番のきっかけはこれでした。
このままじゃだめだ、何か新しいことを始めなくてはと思いました。
―それで髙橋さんも新ブランドの立ち上げに踏み切ったんですね。
髙橋:
はい。
でももう一つ偶然が重なって、大学時代の先輩と丁度このイベントをきっかけに再会したんですよ。先輩はデザイナーになっていました。
先輩とはててて商談会の会場で落ち合いました。
ここには僕たちと同じような地方の職人さんが、独自の技術を応用して作り上げた商品がたくさん展示されていました。そして、こっちもやっぱりすごかった。
すごくワクワクしたし、僕も頑張ればこんな風に東京や世界のバイヤーを相手にしていけるんじゃないかって、勇気ももらいました。
それで、再会した先輩に冗談めかして「こんなことやりたい。何か考えてよ」って言ったんです。そしたら、香川に戻ってきてから「本当に何かしたいと思ってる。考えるから一緒にやろう」って先輩から連絡が来て。
そこから具体的に話が進み始めて、今に至るという感じです。
4.業界の常識に、波を立てる一石に。
―実際、やってみた感触はどうですか?
髙橋:
まだ始めたばかりなのでなんとも。とりあえず走りながら考えてます(笑)。
最初は真似されたらどうしようとか、嫌やなあって思ったんですよ。だけど力さんに「真似されたらそれはみんながええなと思ったってこと、成功だったってことやないか」って言われて、「それは確かにそうやなあ」と思って、そこからは気にならなくなりました。
この業界は競合が協力会社、みたいな、ちょっと不思議なところがあって、仲はいいんですけど内訳がわかりすぎてしまう分、色々と気を遣うことも多くて。
でもそんなの、今は本当に気にしていません。
だからストーンフェアにもin pouchだけを持って行ったんです。
今のままではだめなことがわかっていても、ほとんどの人は動かない。いや、動けないのかもしれません。高度経済成長期以降、もう長いこと大きな変革も起こっていない業界なので。みんな怖いし、どうしたらいいのかわからないんだと思います。
でもそれじゃ新しい人は入ってこない。若い職人だって育たない。ここで変わらなければ、庵治石の職人たちに未来がないのは確かなんです。
今、力さんが「この産地を変えるんや」って言って、必死で先頭に立って旗を振ってくれている。僕たち石工が世界に向かって行くための道筋を作ろうとしてくれているんです。
「みんなこっちや!」「ついてこい、ついてこい!」言うて。
それは他でもない、この産地に残っていく僕たちや、これからを背負っていく若い職人たちのためにやってくれている。僕はそれが嬉しくて仕方がない。
だからついて行くしかないと思った。僕はそれについていくしか。
ストーンフェアの件は、その意思表示でした。
波風が立ったってかまわない。それで、真似でもいいから来年、再来年と少しでも僕たちみたいな人が増えていってくれたらと思うんです。
みんなで世界に向かって、この産地を盛り上げていけたら。
5.もう一石のたくらみ。
―ありがとうございます。たぶん、加工。のメンバーとも、そういうことができたら面白いかもしれませんよね。
髙橋:
そうなんです。
たぶん、加工。でも、今回みたいな何か新しいことをおこせたらと思っています。
実際、メンバーの何人かとはそんな話をしていて、結構前向きな返事がもらえているんですよね。
―たぶん、加工。にはそれぞれ違う特技を持った石工が集まっていますし、他ではなかなかできないこともできちゃいそうですね。
髙橋:
やりたいですね。
AJI PROJECT ともin pouchとも違う、新しいこと。
もうそのタイミングに来ていると思います。
たぶん、加工。とは?
たぶん、加工。ブランドサイト