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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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記事一覧

157.チュークの大男

2005.2.15 【連載小説157/260】 TWCの一行がパプアニューギニアを後にしてミクロネシア連邦のチュークへ向かったとの連絡が入った。 早いもので昨年の7月7日にスタートした航海は8ヶ月目に入り、訪問国も8ヶ国となる。 「チューク」という地域名をあげても聞き慣れない人が多いだろうから、まずは簡単に解説しておこう。 チュークはヤップ・ポンペイ・コスラエと共にミクロネシア連邦を構成する州で、正確にはミクロネシア連邦チューク州ということになる。 1989年までは

156.生きる活力

2005.2.8 【連載小説156/260】 昨日、僕は12時5分長崎空港発のORC便で福江島に到着する香山波瑠子を迎えるために路線バスで空港へ向かった。 つい1週間ほど前に初訪問者として降り立った空港に、今度は来客を出迎える立場で立つ。 こんな不思議なポジションを得ることができるのも「旅を人生の住処とする」僕ならではの楽しさだ。 そこに暮らす「生活者」では決してないが、ある程度の滞在時間を重ねたが故に既に単なる「訪問者」ではない、という中庸にして曖昧なポジションを僕

155.異国への最前線

2005.2.1 【連載小説155/260】 久賀島という島に着ている。 「ひさかじま」と読むこの島は面積が38.85平方kmで人口は600人弱。 南西に位置する福江島から船で20分の静かな離島である。 と、紹介してもこれらの島を知る人は少ないだろう。 が、長崎県の五島列島に属すると記せば大体の場所を思い浮かべていただけるのではないだろうか? 九州西部に複雑に入り組んだ地形で存在する長崎県。 その西の海上に南北に連なる島々が五島列島である。 まずは前言撤回ではない

154.再び「島」へ戻れ

2005.1.25 【連載小説154/260】 「この国は島じゃなくて大陸だ…」 パプアニューギニアから届いたトモル君のメールの一節である。 彼がそう感じたのも無理はない。 世界で2番目に大きな島であるニューギニア島の東半分を占める同国の面積は46.2万平方kmで日本の約1.25倍。 彼がTWCの航海で巡って来た国々の面積を順番に並べると キリバス:720平方km。 ナウル:21.1平方km。 ツバル:25.9平方km。 フィジー:1.8万平方km。 バヌアツ:1

153.極楽鳥の暮らす島

2005.1.18 【連載小説153/260】 遥か彼方の南太平洋に大きな楽園の島があり、その島の奥深き森に世にも美しい鳥が棲んでいる。 虹のごとき羽根を持つその鳥には足がなく、風を食べながら一生涯を飛び続けるという… かつて西洋にそんな伝説があったという。 大航海時代の頃の話である。 この伝説の鳥は絶滅の危機を乗り越えて21世紀の今も存在する極楽鳥である。 もちろん、「足がない」とか「風を食べる」というのは作り話で、足を切り落とされた剥製を持ちかえった貿易商あたりが

152.環境と観光の関係性

2005.1.11 【連載小説152/260】 2005年2月16日。 いよいよ京都議定書が発効する。 ようやくたどり着いた感のある発効ではあるが、米国の離脱で一時は困難と思われていたこの計画がロシアの批准によって実現へと進んだことは後世に歴史的な意味を持つだろう。 地球環境というテーマにおいて「開発」から「回復」へのベクトル転換が行われようとしているのだ。 「文明」がその軸足をアクセルからブレーキに移す画期的な国際決定といってもいい。 もっとも、具体的な施策や目標値

151.厳しい船出

2005.1.4 【連載小説151/260】 2005年は厳しい船出となった。 2004年末26日に起こったスマトラ沖地震とインド洋大津波の被害は大きく、死者は10万人を大きく超えた。 人類は20世紀以降最悪と評される天災の痛ましい傷跡と共に新年を迎えることになってしまったのだ。 旅と共にある豊かな日々。 未だ見ぬ土地とそこに暮らす人々との高度情報ネットワーク。 トランスアイランド発、観光元年。 本来ならば『儚き島』の新年第1回となる今回の連載を、僕はそんなスロ

150.流木舎から

2004.12.28 【連載小説150/260】 ハワイから島へ戻った。 今年も年末年始はNEヴィレッジの自宅でゆっくり過ごす予定である。 まだトランスアイランドへ来たことのない読者向けに解説すると、この島はハワイ同様に湿度が低い上、常に何処からか風が吹いていて過ごすやすい。 おまけに僕が暮らす木造ハウスの周囲四方には大きな椰子の木が立っていて、直射日光を遮るから、室内にいると体感温度は20度強といったところだろう。 Tシャツ1枚で暮らしていれば、エアコンなど必要ない

149.新しく深きハワイ

2004.12.21 【連載小説149/260】 非日常空間における知的余暇活動という意味での「旅」と「読書」の類似性。 機会あるごとに僕が強調してきた消費者市場におけるこの関係は、その生産者(発信者)の側にも成り立つのではないだろうか? 「観光開発」と「小説創作」の類似性ということである。 そこには舞台装置としての国や街がリアルであるかヴァーチャルであるかの差があるし、創作に費やす時間とコストは桁違いである。 が、大きなプロット(筋書き)に基づいて小さなパーツを組

148.遠くて近き宇宙

2004.12.14 【連載小説148/260】 「nesia3」のメインスイッチをONにすると、画面上に太平洋が立ち上がる。 トップ画面のベース地図はユーザー個々が自由に範囲指定できるものとなっている。 例によってプログラマーのエドガーが開発したプログラムだ。 (友人エドガーの紹介は第96話) 僕は北緯45度と南緯30度を上下で固定し、東のハワイ諸島と西の東南アジア間を横スクロールするトップ画面にカスタマイズしている。 この設定なら転々とする僕の創作活動範囲が全て含

147.真の友好は何処に

2004.12.7 【連載小説147/260】 以前に、大小様々な国で構成される世界は「個」の「独立」を前提とする「分散」傾向の中にあり、国家の吸収合併や統合話はないと記した。 21世紀ネットワーク社会における「集中」と「分散」というキーワードを通じて「独立国家の可能性」を論じた回だったと思う。 (第126話) が、最近の中国・台湾問題を見るに前言撤回しなければならないな、との思いがある。 祖国日本に近しい隣国同士において、「ひとつの中国」原則を掲げる中国と、「一辺一

146.南太平洋の十字路

2004.11.30 【連載小説146/260】 僕がシンガポールと日本へ20日間の旅を重ねている間に、TWCの一行は長いフィジー滞在を終えたようだ。 昨日、次なる目的地であるバヌアツ共和国のポートビラへ向けて旅立つたとの報告が届いた。 久しくTWCの報告を怠っていた。 今週はフィジーのその後をレポートしよう。 (前回報告は第138話) 島へ戻って驚いたことは、エージェントの面々がフィジーへと旅立っていたことである。 先に現地入りしていたハルコのことは既に紹介済みだ

145.宇宙へ繋がる闇

2004.11.23 【連載小説145/260】 TQジャパンのオフィスは六本木ヒルズの高層階にある。 あえてそこを拠点に選んだのではなく、ミスターAが関わる組織の遊休スペースを活用したことによる。 このオフィスのユニークなところは、窓に向かって7人着席可能な半円形テーブルが置かれたミーティングルームだ。 眼下に巨大都市東京を見下ろしながら会合を行うことができるのである。 (TQ社については第143話、ミスターAに関しては第136話) 神島の取材を終えて東京へ移動した僕

144.連鎖する旅情

2004.11.16 【連載小説144/260】 観光体験を具体レベルの感情に落としこむと「旅情」になる。 そして、観光が21世紀の豊かさを左右するアクティビティであるなら、いかに「旅情」に包まれて日々を過ごすかが個々の幸福度を測る指標となるはずだ。 こんな風に記すと、様々な旅を重ね、その他の日々をのどかで穏やかなトランスアイランドで過ごす僕は人生そのものが「旅情」と共にあるから、極めて幸福な人種ということになる。 が、大抵の文明人の場合そうはいかない。 多忙な日常