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【日本酒の「幅」を広げたい】第1回 フルーツ×日本酒の可能性を検証する。「いちじく」編~日本酒ペアリング研究会 報告書No.13~

※「日本酒ペアリング研究会」は、日本ソムリエ協会が認定する日本酒・焼酎のソムリエ資格「SAKE DIPLOMA」を持つ筆者が、ご家庭でもできる料理と日本酒の合わせ方を提案する企画です( ˘ω˘ )。


〇はじめに

 こんばんは( ˘ω˘ )。
 日本酒ペアリング研究会の第13回目です。

 最近、やっと心地いい気候になりましたね~。遅いよほんとに。ただ、こうなってくると、より日本酒が美味しくなってきます。この秋はぜひ、いろんな日本酒を試してみてくださいね( ˘ω˘ )。

無花果×日本酒

というわけで、今回は日本酒の楽しみ方を広げていこうという企画(いちおう第2弾)です。以前は「和菓子」をテーマにしましたが、今回は旬の「いちじく」でやってみたいと思います( ˘ω˘ )。

 久しぶりに、いくつかの日本酒を試す検証形式です!
 それでは、早速やっていきましょ~( ˘ω˘ )。

◯今回のフルーツの紹介

 今回は「無花果」(いちじく)です。優しい甘さねっとりとした食感が特徴かと思います。苦味や酸味は少なく、味としては食べやすいのではないでしょうか。見た目と食感が苦手という人もいるとは思いますが、個人的には結構好きです。

 今回はそういった特徴をしっかりと踏まえながら、4種類のお酒でペアリングを検証します。

◯今回のお酒とペアリング考察

 今回はこんな感じです。

左から順に、

「作 恵乃智」(三重県 鈴鹿市 清水清三郎商店)
「月山の試み2024 innovation リンゴ酸」(鳥取県 安来市 吉田酒造)
「作 箕田御厨」(三重県 鈴鹿市 清水清三郎商店)
「HINEMOS SHICHIJI」(神奈川県 小田原市 株式会社RieWine)

というラインナップ。以下にて詳しく解説します。

◇お酒の基本情報とコメント

1.「作 恵乃智」(三重県 鈴鹿市 清水清三郎商店)

「作 恵乃智」300mlラベル

区分:純米吟醸
米:国産米 精米歩合60%
度数:15度
公式商品紹介ページ:

筆者のコメント:
<香り>
リンゴや洋ナシのような香りが主体。
     +
蒸米のふくよかな香り
上新粉・白玉粉のような上品な米の香り
石灰のようなミネラル感
オレンジ・レモンのような黄色・オレンジ色の柑橘のような印象

 上立ちは華やかで上品な、まるで純米大吟醸のような果実香がある。しかし、口のなかでは蒸米のような米由来の香りがより感じられることから、ふくよかな印象もある。

<味わい>
ふくよかな甘みなめらかな酸味があり、甘酸っぱく芳醇な果実感を生み出している。
中盤からはしっかりと旨味が広がり、ほんのりと苦みも感じられる。
それらが豊かな味幅やや固めな印象を感じさせ、長い余韻にまで続いていく。

<総評>
 この甘酸っぱさと華やかな香りはまさしく果実のよう。しかしながら精米歩合60%ということで、旨味もバランスよく調和している。そのため、透明感とふくよかさが両立し、とても飲みやすい。日本酒は初めてという方にもおすすめしたい1本。冷やしてワイングラスで。


2.「月山の試み2024 innovation リンゴ酸」(鳥取県 安来市 吉田酒造)

区分:純米吟醸
米:国産米 精米歩合60%
度数:14度
公式商品紹介ページ:なし
 IMADEYAさんの紹介ページを貼っておきます。

筆者のコメント:
<香り>
レモンライム青みかんなどの柑橘のような爽やかな酸を感じる香り
白ワインのような雰囲気もある
りんごキャンディのようなニュアンス
蒸米の香りもほんのり

 全体的に穏やかで、日本酒では主な「リンゴ・洋ナシ系」「バナナ・メロン系」のどちらとも異なるように感じる。やはり香りからも爽やかな酸を感じ取れるからだろう。

<味わい>
わずかにガス感があり、爽やかさを引き立てる
第一印象は軽く若い
軽い甘味がほのかに感じられる。
その直後から軽やかな酸味がはっきりと感じられ、急速に広がる。
旨味はほんのり。本来もっとあるのかもしれないが、酸味が中和しているのかも。
柑橘の皮や若いぶどうのようなシャープな苦味・渋みもはっきりとある。
酸味、苦み、渋みは余韻にまで続く。

 どっしりとした生酛系の乳酸やパンチのある7号酵母の酸味とは異なり、やはり軽やかさがあるように思う。シャープな苦味・渋みも非常に特徴的。これらによって、今までに無い爽快な余韻が生まれている。

<総評>
 分類するならやや辛口ぐらいに入るが、淡麗でも旨口でもない。この爽やかな酸味を前面に押し出したタイプは、やはり日本酒業界のなかでもまだ珍しいといえる。

 また、苦みや渋みが強いので、酒単体だと好みが別れそうな味わいではある。ただ、日本酒にとしては新しい感覚であることは間違いないので、ぜひ試してみていただきたい。

 しっかり冷やしてワイングラスで。冷やすと酸味がよりシャープになり、苦み・渋みもキリっとする。


3.「作 箕田御厨」(三重県 鈴鹿市 清水清三郎商店)

「作 箕田御厨」表/裏ラベル

区分:純米吟醸
米:鈴鹿産米100%  精米歩合55%
度数:15度
公式商品紹介ページ:
 鈴鹿市の箕田駅近くにある酒屋「太田屋」さんの限定モデルです!!

筆者のコメント:
<香り>
バナナ・メロンのような果実香
  +
口のなかではライチのような香りも
蒸米・炊いた米のような香り
フレッシュなミネラル感

 上立ちから序盤にかけて、豊潤な果実香心地よいミネラル感がまっすぐに広がる。そこに米由来のふくよかさが加わり、香り全体が膨らんでゆく。

<味わい>
口当たりはやや固め
上質な甘みがやや豊潤に感じられる。
酸味は丸みがあり、中盤からの旨味はふくよか
後半にほんのりとほろ苦さもある
ふくよかな旨味と豊かな香りが余韻まで続く

<総評>
 いつもお世話になっている「太田屋」さん限定で、最近発売された「作」の新商品。甘味に重きを置きながらも、旨味・酸味のバランスが良く、透明感も高い。冷やしてワイングラスで。


4.「HINEMOS SHICHIJI」(神奈川県 小田原市 株式会社RieWine)

「HINEMOS SHICHIJI」表/裏デザイン

※見づらくてすいません…。新品を買い次第差し替えます…。

区分:発泡性。それ以外は記載なし。
米:国産米 精米歩合70%
度数:5度
公式商品紹介ページ:

筆者のコメント:
<香り>
マスカット、デラウェア、白桃のような果実香
  +
リンゴのキャンディ
蒸米のような香り
ヨーグルト乳酸菌飲料のようなニュアンス

にごりがあるので醪っぽい香りがするかと思いきや、果実香が華やかに広がる。また、ブドウのような香りが強く、ヨーグルトや乳酸菌飲料の香りがあることから、発酵としての若さが感じられる。

<味わい>
※買って開栓してからしばらく経っているため、少なからず味わいが変わっているかも。炭酸はけっこう抜けてました…すいません…。

若干のスパークリング感
口当たりは強い。
にごり由来のとろみある質感
豊潤な甘みフレッシュでなめらかな酸味が広がる。
旨味は控えめで、甘酸っぱさが強調される。
ほんのわずかに苦味や渋みがあり、若さを感じる。
なめらかに溶けて消えていくような余韻

<総評>
 香りや味わいから、醪が若い段階で搾っているような若さが感じられる。それは瓶内二次発酵の低アルコール日本酒だからなのだろう。炭酸が感じられる一方でとろみなめらかさも感じるが、それらがバラバラにならずまとまりがある。とても面白いお酒。間違いなく、新たな日本酒の選択肢となるだろう。
 冷やしてワイングラスで。公式で紹介されているが、グラスに氷を入れてロックで飲むのも美味しそう。


◇今回の料理とのペアリング検証

無花果に合うお酒はあるでしょうか。

 それぞれの酒との相性度は5点満点で表します。ただしこれは実験ですので、たとえ1点がついても酒が悪いわけではありません。悪いのは合わせてみた僕です。

 それではいってみましょ~( ˘ω˘ )。

1.「作 恵乃智」:4点

 いちじくの香りや味わいと喧嘩することなく、お酒のリンゴ・洋ナシ系の香り無花果には少ない酸味がほどよく加えられて心地よい。

 ただ、いちじくの糖度酒を口にする量によっては渋み・苦みといった雑味が目立つように思う。また、いちじく特有のねっとり感は切ってしまう印象があり、質感的な相性はそこまで高くないと感じる。

 そのあたりのバランス感は、他の食材を合わせることによって整えたほうがいいのではないだろうか。


2.「月山の試み2024 innovation リンゴ酸」:2点

 お酒が持つ軽やかながらも強い酸味はっきりとした苦味、それによるきりっとした固い質感が、いちじくの特徴である優しい甘味やねっとりとした質感をすべて洗い流してしまった。

 いわゆる「五味のペアリング」を狙ってみたのだが、完全に失敗。美味しくないというよりは、酒が完全に勝ってしまう結果となった。そこを目指すなら、前回の記事のようにもっと脂肪分が必要だと思う。それか酸味・苦みの強い食材と合わせて、同調を狙ったほうが良い。


3.「作 箕田御厨」:3点

 香り、味わいともに比較的同調し、酒の風味と旨味によってある程度の一体感はあった。ただ、酒の甘味はどこかへ消えてしまったかもしれない。

 また、やはり少し雑味が目立つようにも感じるし、ねっとり感を洗い流している。やはりいちじく単体よりは、他の食材を合わせて全体のバランス感を整えたほうがいいかも。


4.「HINEMOS SHICHIJI」:5点

 先述の通り、炭酸が抜けていたことは考慮すべきだと思う。ただ、豊潤な甘みフレッシュでなめらかな酸がいちじくの甘味に負けることなく合わさり、酒自体の存在感もいちばんあった。酒自体の若さが、生の果物のフレッシュ感によく合うのかも。加えて、酒自体のフルーティーさもよく馴染んでいた。たしかに、近しい香りをしているように思う。

 そして、酒にとろみがあることによって質感が一致し、いちじくのねっとり感を流すことなくうまく同調している。これが、このペアリングにおける風味の一体感を最大限に押し上げている。


◇検証を終えて


 というわけで、結果としては

  「作 恵乃智」:4点
  「月山の試み2024 innovation リンゴ酸」:2点
  「作 箕田御厨」:3点
  「HINEMOS SHICHIJI」:5点

となりました~。

 今回は生の果物ということで、「甘味・酸味」「フレッシュ感」といったところがポイントになってきます。ただ、「甘味・酸味」は分かりやすいですが、今回は意外と「フレッシュ感」に苦戦したかなと思います。

 最近はもう主流と言っていいほどに増えた甘口かつフルーティーな日本酒には、よく「フレッシュ感がある」と表現されます。しかし、やはり「発酵」という時間のかかる工程を経ているため、「感」ではなくほんとにフレッシュな生の果物と合わせると、両者の鮮度感にはズレがあるように感じました。やはり生の果物には「瑞々しさ」があります。これはお酒ではなかなか実現できないですよね。

「HINEMOS SHICHIJI」

 その点を踏まえると、無花果に限らず生のフルーツには、「HINEMOS SHICHIJI」のような「発酵的に若い酒」を合わせるのがいいのだと思います。瑞々しいとはいかずとも、炭酸による弾ける感じや比較的軽やかな甘酸っぱさが、生の果物のフレッシュさに寄り添ってくれます。

   このように、「時間を合わせる」あるいは「熟度を合わせる」という点も、今後はさらに意識していきたいですね。

 あとは、やはり「質感を合わせる」ということですね。どれだけ味がよく合っても、これがずれているとどっちかの独壇場になります。ほんとに重要。


◇別解を求めて

 今回はついでに、コメントでもちらっと書いた「他の食材と合わせる」というパターンもやってみました。レシピはこちら↓。

☆無花果・生ハム・クリームチーズのサラダ

△材料
無花果、生ハム、
クリームチーズ、サニーレタス

【ドレッシング】
レモン果汁、オリーブオイル
塩、乾燥バジル

分量はすべて「適量またはお好みで」です(笑)。

 こうすることで無花果の甘味やねっとり感だけでなく、

  生ハムの旨味・塩味
  クリームチーズのまろやかな脂肪分・旨味・塩味
  サニーレタスのみずみずしさ・苦み
  ドレッシングの酸味・ハーブ感

といった要素が加わり、いわゆる「味の五角形」が整います。つまり、一皿・ひとくちの風味のバランス感やまとまりが良くなります。特にこのサラダは、それがうまく実現できているのではないでしょうか。

そうすると、どこかしらの要素にプラスに働くことで、合う酒の幅も広くなります。2点だった「月山の試み2024 innovation リンゴ酸」は、酒の酸味がクリームチーズの脂肪分や生ハムとの相性が良く、はっきりとした苦味はサニーレタスの苦みに同調します。また、味わい全体がサニーレタスの水分に中和されつつ、特徴的な酸味がドレッシングのような役割を果たし、全体を引き締めてくれます。
 
 3点だった「作 箕田御厨」もフルーティーな香味がクリームチーズや生ハムとよく合い、無花果だけのときに感じた渋みや苦みを中和してくれます。また、酒と料理のバランス感の高さがそろっていることから、酒が料理を包み込むような一体感が生まれました。無花果のねっとり感がサニーレタスやドレッシングの水分によって中和されていることも、「質感を合わせる」という点では重要です。

 一方、「作 恵乃智」はその水分が邪魔かもしれません。余計雑味が気になりました。これを合わせる場合は、レタスを抜いてオリーブオイルだけをかけると良いと思います。

 「HINEMOS SHICHIJI」は……すいません。検証前に品切れとなってしまいました…残念…(TωT)。

 まぁそれはともかく、解はいろいろあると思いますので、皆様もいろいろ試してみてくださいね( ˘ω˘ )。


〇終わりに

「いちじく・生ハム・クリームチーズのサラダ」

 今回は「いちじく」をテーマに、生の果物と日本酒のペアリングを検証しました。先述の通り、近年は主流になったと言っていいほど、甘口でフルーティーな日本酒が増えてきました。また、HINEMOSなど近年新しくできた醸造所や「クラフトサケ」、あるいは各蔵の「AWA SAKE」(スパークリング日本酒)の商品には、さらに甘酸っぱくて低アルコールかつフレッシュな設計のものが多いです。

 それらの酒は、日本酒が合うとされる出汁や醤油、魚介類との相性が基本的に悪いです。そのため、逆に今回のように生の果物、またはそれを活かした料理に合わせるというのも、大きな選択肢のひとつになってきます。今回の記事が、皆様のペアリングの選択肢を広げることに貢献できればうれしいです( ˘ω˘ )。

 でも、今回もそうでしたが、最近思うことがあるんですよね…。それは「日本酒にいちばん合う食材」って、実は「クリームチーズ」なんじゃないかということ。こいつの汎用性、ほんとに高いです。

 とまぁ最後の最後で話が逸れましたが、今回は以上です(笑)。それでは、また次回お会いしましょう。

 素敵な日本酒ライフを~( ˘ω˘ )。




「日本酒ペアリング研究会 報告書」のまとめを作りました。
他のメニューとペアリングもあわせてお読みいただけると嬉しいです( ˘ω˘ )。

 本企画とは別でやっているエッセイ企画「淡い雲をとどめて」のまとめです。ぼちぼち書いていきますので、こちらもぜひに。

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