運動+認知トレーニング+ビタミンDの補給を組み合わせると認知機能は改善するか(論文)
要旨
カナダでの研究です。65~84歳の軽度認知障害を持つ高齢者175人が、運動、認知トレーニング、ビタミンDの補給の効果を調べるために、異なるグループに分けられました。
運動だけ、運動と認知トレーニング、ビタミンDの有無など、様々な組み合わせで治療が行われました。
結果として、運動を含むグループは、運動しないグループよりも認知機能が改善しました。特に、運動と認知トレーニングを組み合わせたグループでは、より大きな改善が見られました。しかし、ビタミンDを追加しても、特に改善は見られませんでした。
運動と認知トレーニングが軽度認知障害のある高齢者の認知機能向上に役立つ可能性があることを表していました。
運動プログラム
この研究で行われた運動プログラムは、週に3回、約60分間のセッションで構成されていました。セッションはジム施設で行われ、訓練されたスタッフが指導しました。プログラムには一般的なウォームアップ、軽い筋力トレーニング・・・エラスティックバンドを使った押し引き運動、椅子からの立ち上がり、フロントランジ(直立姿勢から片足を前に踏み出し、重心を垂直に落としていく動作)、さらにはレッグプレス、レッグフレクション(大腿の表側と裏側を鍛える運動です。マシンに座った状態で膝を支点にして、足を前後に上下させる動作をします。)、シーテッドプレス、シーテッドロウ、シーテッドプルなどが含まれていました。これらは上半身と下半身の運動を交互に行うサーキットトレーニング形式で実施されました。セッションの後半には、10-20分間の心肺運動(トレッドミル、エリプティカルマシン、サイクリングエルゴメーター、ローイングマシンなど)が行われ、強度はBorgスケールを使用して決められました。セッションは、呼吸運動とストレッチで終了しました。
Borgスケールは、運動中の感覚的な努力の程度を自己評価する方法で、この研究ではそのスケールを用いて参加者の運動強度をチェックしました。具体的には、参加者は運動中に自分が感じる努力の度合いをスケール上で評価し、トレーナーはこれを基に運動強度を適切に調整しました。Borgスケールは、運動の強度を個々のフィットネスレベルに合わせて管理するのに役立ち、特に高齢者や健康状態に特別な注意が必要な場合に有効です。
認知トレーニング
認知トレーニングの内容は、タブレットベースのトレーニングでした。これには、記憶負荷を伴う異なる視覚刺激セットの識別作業が含まれていました。参加者はiPadまたはAndroidタブレットを使用し、文字、数字、動物、車両、果物、天体などのアイテムセットの識別作業を行いました。トレーニングは、単一タスクのブロックに続いて、混合タスクとデュアルタスクの試行が行われる形式で進められました。このトレーニングは、認知機能、特に注意力や問題解決能力などを刺激し、向上させることを目的としていました。
ビタミンD
ビタミンDに関して、参加者は週に3回、1回あたり10,000 IUのビタミンD3のサプリメントを摂取し、週当たりの合計摂取量は30,000 IUとなりました。この量は、高齢者のサプリメント摂取量としてカナダの保健省によって承認されているものです。
運動の効果
運動が認知機能維持や向上に役立つ理由は、いくつかのメカニズムが考えられています。運動をすると、脳内の血流が増え、栄養素や酸素が脳により効率的に運ばれるようになります。これによって、脳細胞の健康が保たれ、新しい脳細胞の成長が促進されることがあります。
また、運動は神経成長因子のレベルを高め、これが脳の神経回路の修復や成長を助けると考えられています。
さらに、ストレスを減らす効果もあり、これが認知機能の維持や改善につながることもあります。これらの要素が組み合わさることで、運動が認知機能の向上に寄与すると考えられています。
認知トレーニングの効果
この研究では、認知トレーニング単体での効果については、特に記載されていませんでした。運動単体、運動と認知トレーニングの組み合わせ、ビタミンDの追加の効果に関するデータが中心であり、認知トレーニングだけの効果については明確に分析されていないようです。
ビタミンDサプリメントの効果
ビタミンDに関して、参加者は週に3回、1回あたり10,000 IUのビタミンD3のサプリメントを摂取し、週当たりの合計摂取量は30,000 IUでした。この量は、高齢者のサプリメント摂取量としてカナダの保健省によって承認されているものでした。この研究では、ビタミンDの摂取が認知機能改善に有意な効果を示しませんでした。
理由については、参加者のビタミンDレベルがすでに十分だった可能性、摂取量や期間が不十分だった可能性、運動や認知トレーニングの影響が大きすぎてビタミンDの効果が見えにくかった可能性などが考察されています。
運動と認知トレーニングの併用が効果が高かった理由
運動と認知トレーニングの組み合わせが認知機能、特にエピソード記憶、注意力、方向感覚の向上に寄与したと述べられています。運動単体では認知機能の改善は見られませんでしたが、認知トレーニングを加えることで有意な改善が見られたとしています。これは、運動が主に脳の物理的な健康に寄与し、認知トレーニングが特定の認知機能を直接刺激するため、両方のアプローチが相乗効果を生んだのかもしれないとのことです。
あくまで一つの研究の説明です。
この紹介した研究は、あくまでカナダの特定の地域における取組です。これが日本人に効果があるかどうかはわかりません。20週間が長いのか短いのか、ビタミンDの量の問題などなどいろいろ考えられることはあります。ただ、こういう研究があることを蓄積していくことで、MCI段階からの認知機能改善ということにも役に立つものが見つかってくる可能性もあると思います。特定の活動やサプリメント摂取を推奨したり否定するものではありません。参考までに紹介しました。
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本日のタイトル画像にはx4a4nさんのイラストをお借りしました。ありがとうございました。
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