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春暁の妻に知られる尿パッド

啓人には長年、妻への内緒があった。
それは男としての矜持。

初めて症状を意識したのは退院後のリハビリ生活。
トイレを終えて出てくるや軽失禁――「ちょいモレ」を起こすようになった。
患う筋肉系の難病のせいか加齢のものなのか判断付かず月日が経過。日に日にパンツを汚す回数が増えストレスに感じ出した頃、知ったのが「パッド」の存在。
四十代でも悩む人がいるという事実に励まされ商品を利用した。

それを家人には言えなかった。
以来、管理を徹底。
夜、入浴の際は必ずトイレに入りパッドを外す。時に息子が「一緒に入ろうよ」とパンツを脱がせてくる時は生娘のように抗った。
風呂上がりにすぐ付けることはせず、夜中トイレに起きた時にこっそり行った。毎日。

幾年月を経て――
今朝、洗濯の妻が突然「パパ!」と啓人の部屋に飛び込んできた。
振り返るとパンツを手に目を丸くしている。
「……何これ?」
見るとそこに剥がし忘れたパッドが……

啓人はちびりそうになるほど驚き、ガラガラと何かが崩れる音を聞いた。


(しゅんぎょうのつまにしられるにょうぱっど)

季語(三春): 春暁、春の暁、春の曙



※日記を小説風に書いています。お察しください__🖋


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