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楽しかった記憶は汚させない
父の形見の財布にSuicaがあった。
無記名のもので結構な残額。さて――
十一月三日は父の誕生日。
朝、空に「じーじ、おめでとう」とやっていたら、
不意に四歳息子が「トーマスタウンに行きたい」と言った。
思いつく。
孫のために残額を使えたら本望じゃないか。
息子にとっては念願。
混乱が落ち着いたらね、と約束していた場所。
途中、ちゃっかりお寿司もいただいて「じーじ、ご馳走様」
気分アゲアゲで訪れた。
約二年ぶり。
子どもの二年は大きい。
「こんな感じだったんだ……」
手品のからくりを知ってしまったかの感想。
と、元ディズニーシーキャストの妻の目が光る。
最大のアトラクションに家族で乗ろうと誘い、楽しい気分を盛り立てる。
察した私もリアクション激し目にのっかった。
係員の熱いパフォーマンスにも助けられ、終えて息子は「これは面白かったー」とようやくの笑顔。ふぅ。
じーじ、ありがとね。
文化の日父の遺せしSuicaにて
(ぶんかのひちちののこせしすいかにて)
季語(晩秋): 文化の日、明治節